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2‐3

講堂に入る所で、ヒスイたちは2人と別れて新入生の列へと進んでいく。


仮にも王立魔法学院。厳粛な空気の中で式が執り行われると思っていたシスイだが、先程から教官達の視線が泳いでおり、落ち着きがない。


(もしかして、敵襲か……?この学院に?)


シスイが覚醒具である漆黒の面に手を触れたところで、学院長が全員に着座を促し、入学式を開始した。


先程の雰囲気とは一変、硬く重い雰囲気を取り戻し、学院長を始め各教授達が順に祝辞を述べ始めた。


そしてその末席となったところで、学院長は息を呑みため息をつく。そして改めてその名を呼ぶのであった。


「祝辞 特待生3年 オウガ」


その言葉と共に、天井に亀裂が走り、抜けるとそこには覚醒具を着けたオウガが立っていた。


「おっす!じっちゃん、呼んだか?ならず山からかっ飛ばしてきたぜ!」


「呼んだか?じゃない!お前はいつもいつも無茶ばかりしおって!……コホン。祝辞をのべなさい」


「お、そうだったな。新入生の諸君!この後のイベント楽しんでいってな!以上!!んじゃ」


「また何か企んどるな……お前らはこうはならないように。頼むから……」


学院長の嘆きを聞きながら、オウガはケラケラと笑い降壇すると、ヒスイを見つけたのか軽くウインクすると、ヒスイはぶんぶんと右手を振ってそれに応えた。


「お前、オウガ先輩と仲良かったっけ?」


そんなシスイの疑問が一人木霊するのであった。


だが、それにオウガは振り返らずに、最後に一言だけ言い残した。


「ま、楽しみにしとけよ。」


(楽しみにって……これか!)


入学式が終わり外に出ると、『大運動会』と記載された巨大な垂れ幕が宙を舞っていた。


「「大運動会?」」


「はい、魔法あり、覚醒具の使用ありのバチバチのイベント、障害物競走ですわ」


「毎年このイベントでみんなクエストメンバーをスカウトしていくんだよ。同じくらいの力量って重要だからね。

それに止めようったって無駄だよ。あの3人を止めるのは不可能だよ。これするためだけに教官対策の魔法を作っちゃうんだから。ま、みんなが嫌がることは絶対しないから教官もあきらめちゃってる部分もあるけどね」


「魔法を作る……え、オウガ先輩、賢者に至ってるんですか」


「おう、この学院では俺とゼロな。そんなことよりお前らも参加するだろ?今年もこれを景品に出すぜ」


オウガの手中には木製の剣のペンダントで裏には古語が刻まれていた。


「これには『命を賭してお前を守る』って刻まれててな?ひとつだけ魔法を封印することができるんだ。お前らが優勝できたらオリジナルの魔法を作ってやっからよ」


オウガは一人一人顔色を窺っていく。


「勿論、参加しますわ。飛行タイプの皆様とお手合わせは楽しみの一つです」


「あたしも参加するよ。プレゼントしたい相手もいるし……ね」


「俺達は見学としような?」


「はい!ひぃたんも参加する!!」


「な、なんで!?ひぃたん、覚醒具も魔法もないだろ?危ないって」


「あれ、ほしいんだもん。ひぃたんあれほしい」


その視線の先にはオウガのペンダントがあり、それに気が付いたオウガはニヤニヤと笑い返した。


「おーひぃは、これがほしいか。んなら、保護者さまががんばらないとなぁ? 」


「……覚醒具も魔法も何でもありだったな。恨みっこなしだな?」


声色を落とすシスイにオウガは頷いて肯定する。


「あぁ、その通りだ。その辺は俺達3人が事故が起こらないように見張ってるから安心しろ。なんなら上級魔法も放っていいぞ」


「……どうも」


シスイは軽く準備運動をしながら皆と離れ、オウガから聞いたスタートラインまで歩いていき、それアカリとユキネも続くのだった。

3人を心配そうに見守るヒスイの手をオウガは優しく握ると、覚醒具をつけ宙を舞う。するとその先には、お菓子でできた家があり、ヒスイは意気揚々と飛び込んでいった。


「ひぃは結果は気にならないのか?」


「んー。しぃたんが一等賞になるってわかってるもん。だから、ひぃたんはおなかいっぱい食べるのだ」


「そういえば大賢者って幻獣種ってのは知ってるけど何タイプなの?ほら、攻撃タイプとか飛行タイプとか……」


「俺っすか?俺は――」


パァァン!!ちょうどスタートを切る合図が鳴り響く。


「空間タイプっす。ここの空間は俺の物だ」


そう言い残した瞬間、飛行タイプのように浮遊するのでもなく、言葉の通り一瞬でシスイは姿を消した。

そして、最初に説明があった、中間地点にあたるアイテムに次々触れ、数分経つ頃には単独でゴール前まで姿を現した。


「人生そう甘くはないぞ。お前にこの壁は壊せない」


ゴールラインを切ろうとするが、ゼロが指を鳴らすと眼前に壁が生まれ、シスイのゴールを阻んだ。シスイは慎重に壁を触りながらため息をついた。


「ずるくないっすか?

この硬さ……パワータイプじゃなきゃ無理か……。でもアカリ先輩もあげたい人がいるって言ってたしなぁ……」


「しぃたん?」


チョコレートを頬張っていたヒスイの脳裏に一瞬の電撃が走る。すると、感情を失ったかのようにチョコレートをポトリと床に落とし、漆黒だった瞳が深紅に染まり、影がほんの一瞬、歪んだように見えた。


「お、おい?大丈夫か?」


「シスイのピンチを感知しました。盟約に従って補助に入ります」


一瞬、瞳の色がより強くなったかと思うと、シスイを塞いでいた壁が粉々になって消滅した。


(これは……まさか、魔術?でもひぃたんは――)



「シスイ!優勝おめでとう!!」


眠るヒスイを背負ったオウガがシスイの前に姿を現した。穏やかな呼吸で眠るヒスイに、今は問い詰めない方が良いと判断したシスイは受け取った景品であるペンダントをヒスイの首にそっとかけ、その場を去っていった。


その様子をゼロは切れ長の目をより細めて、唇が意味ありげに動くのだった。

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