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第1話 終わりは始まりと共に 

「アレをどう見る?」 

「素晴らしい力だが、姫には程遠い」

「あぁ、姫でないなら価値はないな。姫でないなら次の姫を探さなければ。それが我ら守護者の使命なのだから」


本日もこの洋広間で1人の少女の行く末について話し合われている。薄暗いこの空間が蝋燭の炎によって揺らぎ、各々つけている白い動物模様の仮面が怪しく照らされる。


「まぁまぁ。私達が決めることではございませんし、龍がいない今、虎が決めるのが適任ではございませんこと?」

「……蛇のはどう考える。あと、我々の前では覚醒具をつけるように。それが礼儀というものだ」


虎の面をした初老が蛇を連れた女性を嗜めるも、当の本人はどこ吹く風で共にしている蛇の顎を撫でる。


「あら、失礼。これがアタシの自然体なの。そうねぇ。幼女は対象範囲外だけど、あの子にも幸せになる権利ってものがあるんじゃない?なり損ないとはいえ、我が君なのよ?……まぁ、残りわずかな時間だけどね。ほら、護人なら適任はいるじゃない。我が君が戻られたこの世界ならそうそう問題は起きないでしょ。ま、あんたらの牙と爪が錆びて使い物にならなければ話は別だけど?」


蛇らしい嫌味ったらしさはあるものの、内容は的確なものであり、虎は小さく唸り声をあげため息をつくと姿勢をただし再び口を開く。


「……今日をもって我が君、翡翠を【精神の揺籠】から解放し、王立魔術学院本校へ編入することとする。それに伴い、我ら虎一族、狼一族、雉一族の跡取りが今代の守護獣として誠心誠意仕えるように。蛇、お前はダメだ。守護獣としての品がかけておる。

……あと、紹介しよう。シスイだ。入れ」


白虎が手を二度ほど打つと、奥の扉が開かれ奥から14.5ほどに見える黒髪黒目、所謂双黒を持つ青年が静かに入室し、狼、雉一族は目を丸くし冷や汗を一筋たらす。


「今代は俺も運命を共に」 


その澄み渡るような声に、蛇は少年の肩を叩き耳打ちすると会場を後にし、本日の会議もまた解散となった。


【お前が一番の裏切り者だ】

先程囁かれたその一言を脳内から振り払い、シスイは今日もとある部屋へと向かう。【ひぃたんのおへや】とカラフルに描かれた扉の前で立ち止まった。きっと想い人は今日もこの扉の奥で花を摘んでいるのだろう……そう思いつつ重い扉を開け放った。


「ひぃたん、迎えに来たよ」

「しぃたん!あれ?どうしたの?こわーい顔してるよ?と、ひぃたんは心配してるのだ」

「大丈夫だよ。ひぃたん、よく聞いて。今日は君を迎えにきたんだ」


この扉の中は、守護獣が作り出したヒスイ専用の特別空間であり、精神の揺籠と呼ばれており、15歳という身体年齢に追いつかず5歳で止まってしまった精神を守護するために作られた空間で、ヒスイの脳内イメージで構成されている。

ヒスイを守護し、姫として覚醒させることを目的とし生まれた時から1人この部屋に幽閉していたが、18歳で迎える姫 の覚醒へのタイムリミットに間に合わない、不出来な存在と判断されシスイが迎えにきたわけである。 

シスイの想像通り、扉を開けた先には廃墟と花畑が広がっていて年齢不相応な無邪気な笑顔で花と戯れていた。

先程の会議と、この愛しい笑顔を見るとシスイの緊張走っていた表情は一転し、表情筋も緩むのであった。  


「お迎え……?ひぃたんはここからでちゃだめなんですぅー!ここにはね!お花もお人形さんもトモダチもみんないるんだよ!えっと、えっとね。だからひぃたんはここから出ないんだもーん」

「……外が、怖いのか?」


シスイの一言がヒスイに刺さったのか、周囲に咲き誇っている花はガラスのように崩れ去り一気に闇へと包み込まれる。


「しぃたんでもひぃたんのことを馬鹿にするのはゆるさないんだよ?虎のおじさんがここから出たら死ぬって言ってただけだもん。怖くなんかない!」


そういうことかとシスイが右手で振り払うと、簡単に闇は消え、中から泣きべそをかいているヒスイが現れた。


「馬鹿になんかするわけないだろ?でも、この力は使わないって約束したよな?あーあ、ひぃたんはこんな簡単な約束も守れないのか。残念だなー、俺はもっとひぃたんはいい子だと思ってたのになぁ」


「ひ、ひぃたんはいい子だよ!……しぃたんもひぃたんのこと見捨てるの?」

「見捨てるわけないだろ?誰もひぃたんのことは見捨てない。約束してやる!」

「約束!?」


約束という言葉にヒスイの癖毛がピョコと反応し、瞳の奥を輝かせる。


「おう!それにひぃたんに紹介したい人たちがいるんだ。お友達になりたいんだってさ」


「おともだち……ひぃたんにおともだちができるの?」


「俺もおともだちになりたかったんだけどなぁ」


「しぃたんはひぃたんのツキビトでしょ!すぐ浮気するんだから」


「浮気の意味知ってんのかよ……」


そう呟きながらシスイは右膝をつき靴を差し出す。


「じゃ、そのためにはどうすればいいか賢いひぃたんにはわかるよな?

なぁに、部屋出て死ぬならそこは天国だよ。天国なら喜んで一緒に行ってやる。地獄はちと勘弁だけどなぁ」


「また馬鹿にしてぇ!行く!ひぃたん外に出るよ」


可愛らしい木の椅子をヒスイは簡単に錬成し、ちょこっと座る。そして同じように靴を作り出すとシスイに向かってぶんぶんと足を振る。


彼女なりの抵抗の意なのだろう、だがシスイには通用せず指を鳴らすとヒスイの動きがピタリ止まり、不服そうな表情のヒスイの額を数度チョップする。

 

「痛いー!どうして、どうしてそんなひどいことするの!」


「ひぃたんの動きを止めれるのは俺だけだからな。んで、今のはひぃたんが悪い。ほら、足貸して。一人で靴履けないだろ?」


シスイはボロボロになっているヒスイの足をそっと手に取ると花柄の靴を片方ずつ優しく履かせていった。


「さ、一緒に外にでるぞ。ほら手を取って。俺の大切なお嬢さま」


「う、うん……しぃたんとひぃたん。ずっと一緒だよ?何があっても」


「おう!名前とは魂の盟約。ヒスイとシスイ。俺達は魂で繋がってるんだ。怖いものなんてないだろ?」


ヒスイは満足気に笑みを浮かべるとシスイの手を取り、扉の前まで歩みを進める。


「じゃ、いくぞ」

「うん!いざ、お外の世界へ!」

 

「え?何今の」


ここはヒスイのために作られた精神の揺篭。その主が外に出たことで世界が崩壊し始め、部屋と外の境界線を通った時ヒスイに軽い電流が走ったのだ。

 

「なんでもないさ。過去は振り返らないもの。ひぃたんが行くのは未来は過去と……さぁどーっちだ?」


「未来!」


「正解!んじゃいこっか。お友達に会いに」


シスイはヒスイの手を取り、建物の外へと向かい走り出す。これが二人にとっての終わりの始まり。

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