第2話 菫
春山 菫16歳
菫はいつも仲がいい椿とよく一緒に授業を受ける。
この前のダンスの時は足の指が折れたのかと思うぐらい痛かった。
しかし、雅雄に抱かれて医務室に向かううちに痛みが消えていった。
結局は気のせいだった。
踏まれたときは本当に痛かったのだ。
結局、医務室でなにもせず帰って来た。
雅雄様は噂とはちがった。
終始紳士的にふるまっていて噂のようなすけべではなかった。
菫はその後、部屋で椿と話をしたのだ。
雅雄様の先見の読み?にあきれるばかりだった。
菫も悩みはあった。
武術なのだがダンスと違い今ひとつうまくなれなかった。
菫のやっているのは舞踊拳だ。
踊ることが好きな菫としては名前にあこがれて入ったけど・・・。
やってみると舞踊とはかけ離れていておもしろくなかった。
そんなとき、雅雄様の笑拳に誘われたのだ。
あの抱かれて医務室に行く途中だ。
いままでは、検討もしていなかった。
しかし、椿のことを聞かされて心が動いていた。
ひょっとして、雅雄様は天才?
そこで、笑拳をみにいくことにした。
道場そのものはそんなに離れていない。
扉を叩くと小百合様がでた。
現職左大臣の娘だ。
学校では礼儀を担当している講師だ。
学校に入学した頃世話になった先生だ。
明るい性格でいろいろなことに相談に乗ってくれる。
人気の先生だ。
凄い人の出迎えに驚いてしまう。
どこも練習風景は見せないように扉の後ろについたてを立てている。
笑拳の道場も同じだった。
案内されて部屋に入った。
そこに居たのは真弓様一人だった。
小百合様の双子の妹だ。
真弓様は体育を担当して運動全般を見ている。
今でも世話になっている先生だ。
みんなの姉貴と言う感じの先生だ。
「えーと、菫さんだったわね。なにか御用事?」
なんと、菫の名前を知っていた。
「すこし、笑拳を見学したくて」
小百合様はにっこり笑うと答えた。
顔は笑っているが迫力がありすぎる。
なにか、いけないことを言ったのかとあせる。
「あなた、覚えてないの。武術心得の中に他の道場の教えを受けてはいけないと
いうことを」
「はい、覚えています」
「それなら、わかるわよね。今言った事の意味が」
薫は教えを受けるという意味を指導されると勘違いしていた。
見学そのものが教えとは思っていなかったのだ。
言われて初めて自分のしたことの意味がわかったのだ。
「まあまあ、小百合、脅してはかわいそうよ、事情を聞いてからにしたら」
真弓様がとりなしてくれた。
「はい、あの・・・」
言葉にならない。
沈黙が続く。
真弓様がじれて声を掛けてきた。
「なにが知りたかったの」
「はい、私は・・踊りが好きなので・・踊るように・・舞うような拳法をやりた
かったのです」
途切れ途切れに本音を言った。
2人は顔を見合わせて驚いていた。
当たり前だ、そんな拳法があるわけないから。
次に笑われるのは覚悟をしていた。
同僚はみんな同じだった。
「あなた、舞踊拳を習っていたわよね?」
小百合様は笑わずに質問が来た。
「はい、そうです。舞踊拳を習っています」
小百合様は首をかしげていた。
真弓様も納得しない顔をしていた。
「小百合、どういうことかしら。ここの舞踊拳は違うというの?」
「さあ、私も見せてもらえないから知らなかったけどアレンジされてるのかな」
「どうする、確認するのが一番だけど見せてくれないよね」
「しょうがないわ、事実なら乗り込むしかないわね」
なにか物騒な話になっている。
「菫さん、悪いけど踊りを見せてもらえないかしら」
小百合様が菫にお願いしてきた。
菫としても迷う、師範からは他流派の前で見せてはいけないことになっている。
「すみません、それはちょっと・・」
納得したのか小百合も引き下がる。
「小百合、実演して違うものかどうか答えてもらえばいいよ」
そう言うと真弓様が部屋の真ん中に立つ。
そして、演舞を始めた。
それはみごとな動きだった。
まさに、舞を踊るような感じなのだ見とれていた。
演舞が終わっても感動が止まらなかった。
「どう、あなたの踊りと違う?」
なにを言っているのかわからなかった。
「????」
小百合様は真弓の方を向くと合図をした。
もう一つの踊りを披露し始めた。
それも素敵な踊りだった。
最初の踊りとよく似ていたが随所に変化があった。
でも素敵な踊りだった。
なんで、踊りばかり見せるのかよくわからなかった。
武術とは関係ないのに?
「今の踊りはどう?」
聞かれても格闘演舞とは似ても似つかない。
そんな、踊りばかりでは比較のしようがなかった。
「全然違いますよ。踊りじゃなくて格闘演舞ですよ」
小百合様と真弓様は2人ともその言葉を聞いて笑い出した。
「小百合、これはもう本家に言うべきね」
「そのようね、アレンジが過ぎて本質を誤っているようだから」
2人の会話に本家という言葉が出て来た。
まさか、舞踊拳本家?
「菫さん、悪いけど今日はこれまでにしてもらえる。用事が出来たから」
「はい、お邪魔しました」
首をかしげながら部屋を後にする。
数日後、舞踊拳師範が交代した。
あの、大会で何度も優勝した師範が首になったのだ。
周りの驚きは半端ではなかった。
そして、新しい師範の顔見世に出席した。
そこに見たのは小百合先生だった。
後で聞いた話では本家に呼び出されて口論になったということ。
そして、その場で勝負することになった。
ここの師範と小百合様がではなく、本家師範と小百合様がだ。
結果、小百合様が勝ったので一時的に小百合様が総師範になったということだ。
小百合様は笑拳のお弟子さん・・・・。
それでは、雅雄様は・・・、まさかね。
菫は自分の考えの馬鹿らしさに自分であきれていた。
あんな、すけべな師匠では誰もついてこないからだ。
でもようやく舞を踊るような拳法に出会えて心から喜んだ。
でも、知り合いの子は少し不満そうだった。
同じ小百合様のファンだっただけに疑問に思った。
その後、菫は小百合から直接指導を受け師範の免許をもらった。
2年後卒業して学校の舞踊拳師範として就任した。