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最終話 真弓 

真弓


基本的には小百合と一緒だった。

各道場を2週間ほど滞在して年上の師範を指導してきた。

16歳の娘が総師範を手玉に取ってきたのだ。

驚くことなのだが、修行中は人の出入りも禁止されていた。

さすがに総師範をやるだけあって終わり頃には結構な強さになっていた。

ただ舞踊拳と狼拳は地元なので旅行が終わった後に真弓が一人で行った。

籤運の強い真弓だ。

7つのうち4つを取ることが決まったのだ。

結果的には小百合も舞踊拳を取るはめになってしまった。



小百合姉様はさっさと婚約して楽しんでいた。

熊拳のところで見つけた人だ。

順番で私が出て行こうとしたら睨まれてしまった。

姉さんから殺気のようなものを感じたからだ。

とてもいける雰囲気ではないので譲った。

おまけに一人で行くというのだ。

おかげで熊拳はNoがもらえなかった。

かわりにその街で雅雄様からいろいろ教えてもらった。

ギャンブルの勝ち方、そして勝ち方のルールだ。

それ以外にも庶民の暮らしというものを教えられた。

新鮮なことばかりだった。


次は蠍拳のところだ。

熊拳は本来私だった。

それを横取りされたので、お返しに蠍拳は姉さんに留守番をさせた。

これでお相子だ。

それ以外の道場は2人で乗り込んだがNoは一人だけだ。

どちらが取るのかはくじで決めた。

蛇拳と猪拳は小百合姉様がとった。

虎拳と狼拳と舞踊拳は私がとった。

本来、正式師範免許はみんなが必死で習得するものなのだ。

それをくじで決めることに一抹の後ろめたさはあった。

どちらも同じ実力だが割符は一枚だからそういうことなのだ。


いままで、一緒に楽しんでいた。

そう思ってたのに。

帰りの馬車の中で意外な事を言われたのだ。

それが、婚約だった。

なんとなく置いてきぼりをされたようで癪だった。

でも、彼は遠くの人だからしばらくは関係ないと思っていた。

そうしたら、学校の道場開設にもう一人の師範として出てきた。

熱愛だ、修行を放り出してくるぐらい・・うらやましい。


今日も姉さんは彼と逢引だった。

ますます、うらやましい。

やりきれない思いで、真弓は一人庭の散歩をしていた。

月が隠れて暗がりになってしまった。

そこで生意気な餓鬼にあった。

なんでこんなところにと思いながら良く見ると連れがいた。

可愛い女の子だ。

ここもアベックかと腹が立った。

真弓の剣幕に女の子が男にしがみつく。

そのとき、隠れていた月が姿を現した。

明るくなって女の子の顔が見えたのだ。

知っている顔だった。

会ったことないのに知っていた。


立ち礼で挨拶する。

「雅王女様、失礼いたしました」

女の子は声をかけてきた。

「あなたは、誰」

「左大臣の娘、雅侍女養成所の真弓と申します」

「双子の妹さんね。知ってるわ」

雅王女は真弓のことを知っていた。

だが男の方が納得しないようだ。

「なんで、妹には挨拶するのに俺にはしないんだ」

「お兄様、顔も知らないのに挨拶できるわけ無いでしょう」

「なんで、雅の顔は知っているんだ?」

「学校の正面に絵が飾られてるからに決まってるでしょう」

やっと思い出した。

毎日見てる絵だった。

それでは、この男の人は・・・・・。

「失礼しました。雅巳王子お初にお目にかかります」

ようやく挨拶をすることになった。

出会いは最悪だった。

「よかろう、顔を上げよ」

ようやく機嫌を直したようだった。

顔を見た、父親の若い頃に良く似ていた。

従兄弟だから当然だ。

その場はそれで終わった。


後日、同じように庭で再び会った。

今度は王子一人だった。

「真弓の方だな」

驚くことに真弓を一目で見抜いていた。

2人並んでいればみんな気付くのだが、一人のときはみんな小百合と間違えるのだ。

「はい、王子」

「散歩だ付合え」

ぶっきらぼうな言い方だ。

後で知ったことだが女性に慣れていなかったのだ。

綺麗な真弓に一目ぼれだ。

だから、見分けが付いたのだ。

髪飾りを微妙に変えていたからだ。

そしてその後、度々その散歩に付き合うことになった。

王子は照れているのか話を進められない。

きっかけは蜂だった。


真弓の匂いに釣られたのか蜂がよってきた。

王子はとっさに袖をふって蜂を追い払った。

真弓としては蜂など恐れていなかったが王子の気持ちがうれしかった。

それをきっかけに話をするようになったのだ。

いつの間にか、王子と散歩をするのを楽しみにしていた。


王子はやさしかった。

その上孤独だった。

そんな身の上に同情したわけではないが惹かれていった。

王子も真弓に素顔を見せるようになっていた。

笑うと可愛かった。

真弓の方が年上だ。

そんな、付かず離れずの関係が2年続いた。

交際しているわけではないが噂にはなる程度だ。

真弓19歳のとき、雅学校で体育の講師をしていた。

そして、いつもの散歩の場で告白されたのだ。

真弓としてはもっと早くくるかと予想していたのでいまさらだ。

王子としては年上なので決断に時間がかかった。

後日、父親を伴って返事の儀だった。

その場で結婚は25歳まで待って欲しいという回答だ。

父親の言葉に、なぜか王は了解を出した。

王子だけが不満のようだった。

すぐにでも結婚したがっていたが父親に睨まれていた。


こうして長い婚約時代が始まった。

でもそれはそれで楽しかった。

婚約者と言うのは立場上都合がよかった。

自由があって好きに遊べたからだ。

学校の教師をしている関係でぎりぎりまで発表は抑えられた。

秘密なので公式行事に出なくてもよかったのだ。

初めのころはどう見ても真弓の姉、王子の弟という関係だった。

王子が若々しかったからだ。


王子を誘って場末の酒場に連れ出したこともあった。

お小遣いが足りなくなるとギャンブル場に顔を出し少し稼いだ。

目が良いので稼ぐことは簡単だった。

稼ぎすぎるとにらまれるのでその辺は注意していた。

正面から相手の瞳に移る札が見えるのだ。

負けるわけが無い。

一進一退で少しずつかせぐのがこつだった。

その日の飲み代を稼いだところで引き上げるのが良いのだ。

後日、金があるときには返しておく。

だから、真弓はギャンブル場では人気者だった。

そんな真弓に引きづられて王子も楽しんだ。

もちろん真弓の尻に敷かれているので大負けはしない。

でも勝ちはなかった。

王子には才能がなかったのだ。

ギャンブル場では王子も正体不明だが人気者だった?


そして、無事結婚した。

その頃には誰が見ても王子の方が年上に見える関係だった。

かわいい花嫁といわれてうれしかった。

同時期に姉も結婚。

姉なんて相手の人はロリコンだとささやかれていたぐらいだ。

付合った年月と今の見かけを逆算するからだ。

姉は道場を立て直すために熊拳に嫁入りしていった。

そんな姉が噂で鬼と呼ばれていた。

やさしい姉が鬼というのはイメージが湧かなかった。

でもあの熊拳にいくときの雰囲気は!

納得する真弓だった。


初めは黒国に住んでいたが数年で白国に戻ってきた。

子供もいて幸せそうだ。

こちらの子供たちと仲良く遊んでいるところは平和そのものだった。

雅雄様のおかげで2人とも幸せな人生を歩むことができるようになった。

2人とも雅雄様の存在に感謝していた。


2人の記憶にはあるが雅雄の存在は世間から消えていた。

雅雄の退場と共に雅雄に関する記憶は消されたからだ。

ただ2人には暗示が効かなかったから記憶があるだけだ。

初めは焦った2人だがすぐにその意味はわかった。





雅学校終章


雅雄がいなくなったのは双子の姉妹が結婚してすぐだった。

その頃には学校も安定して姉妹が抜けても良いだけの人材がそろっていた。

雅雄が作ったシステムは簡単には崩れなかったが逆に強力すぎた。

雅学校はその力を増やそうとしてさらに増員しようとしたのだ。

それが結果的に失敗につながった。

多くの偉人を輩出した学校は雅雄が去って40年で閉校した。

質的低下とモラルの崩壊が原因だった。

その頃には、初期に活躍した偉人がいなかったのも原因といえる。

そのものたちが、いたから維持できたというのが正しい。

雅学校の存在で頭一つを抜き出していた白国の台頭が終わったときだった。




ここまで読んで頂いてありがとうございました。

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