第10話 柚子
花丸 柚子16歳
柚子の得意は体を動かすことだった。
体育担当の真弓先生があこがれだった。
なにをやっても完璧な感じであこがれていた。
庭球をやっているときなど完全に周りのものは見とれていた。
真弓先生一人に生徒2人でも試合にならなかった。
それなのに、助平な講師がまとわり付いているのだ。
雅雄という講師は真弓様と平然と話をしている。
腹立たしいかぎりなのだ。
事の起こりは柚子がまだ学校に入った頃になる。
柚子自身成績もよく自身を持っていた。
そして完全主義を貫いてうまくやっていた。
周りからも一目置かれていた。
そんなときだった。
雅雄が近づいて柚子に抱きついたのだ。
柚子は悲鳴をあげて泡を吹いてしまった。
驚きすぎて気絶してしまったのだ。
回復してからはその情けない姿を見られたため柚子は控えめになった。
それ以来、雅雄を目の仇にしていた。
雅雄は柚子が早々に一目置かれる優秀さも良いのだが敬遠されてる一面をみた。
早番その流は加速していくとおもっていた。
事実、柚子の油断に近づく雅雄を誰も教えなかった。
穏行をかけていたわけじゃない。
普通に近づいただけだった。
雅雄に気づいたものの中には笑っているものもいた。
柚子が孤立していた証だった。
その後控えめに行動するように孤立しなくなった。
そして、柚子の力を周りから認め始めるようになっていった。
愛嬌のあるドジぶりも人気の一つだった。
柚子は雅雄が憎たらしくてしょうがなかった。
助平なことも何もかもがきらいだったのだ。
それなのに、真弓様は雅雄に信頼の微笑を向けている。
もっとも、恋人の微笑みではなさそうだから安心だ。
噂では雅巳王子と仲が良いと聞いている。
雅巳王子とは柚子の立場では会えないからこちらは無視だ。
当面、恨みの対象は雅雄だ。
同じ笑拳というだけで対等に話をしているのだ。
雅雄と真弓様が一緒に歩いているのを見かけた。
腹が立つので先回りして偶然を装い水をかけてやろうとした。
なんのはずみか自分で浴びてしまった。
その後、真弓様が面倒を見てくれることになった。
結局真弓様の前で恥をかいてしまったのだ。
雅雄の助平に天誅を加えようと何度も仕掛けるのだ。
なぜか、とばっちりが全部自分に帰ってくる運の悪さ。
一番ひどいのは叩こうと棒を振り上げたのだ。
まさか、その棒が折れて自分の頭に当たったときは不運を呪ったものだ。
トラップは一つもかからなかった。
なんで動かないか確認に行くと誤動作で自分がはまることも多々ある。
周りの者には笑われ散々だった。
こんなことも腹立たしいの一言だ。
笑拳の道場でも雅雄様は小百合様と真弓様の指導をみてるだけで何にもしない。
お二人の姿を雅雄が見るだけで穢れる。
なんとか追い出したいのだ。
雅雄は、生徒達の動き回るのをにこにこしてみているだけだ。
王子の立場で地位を悪用している卑劣漢に鉄槌を落とすのだ。
もっとも、手取り足取りで教えられたらもっと腹立たしいけど。
真弓様の指導は懇切丁寧でわかりやすい。
指導を受けてるときはうっとりしてしまう。
同僚の椿なんかいつの間にか雅雄様に取り込まれていた。
いい加減にやめておいた方が無難よと注意されてしまったのだ。
あの助平は生徒まで抱きついているのだ。
腹立たしいかぎりだ。
やはり、天誅をくださないと。
絶対逃れられない罠を仕掛けた。
いつも、更衣室の前を避けるので仕掛けられない。
そこで、同調者を募って巧妙な罠をしかけた。
これで必ず更衣室の前を通るのだ。
廊下を通るとき、着替え中の扉をわざと開ける。
あとは、仲間が叫んでみんなに気づかせて大騒ぎにするのだ。
女子高に助平な男の講師は不要と騒いで追い出すのだ。
そのため、タイムチャートまで考えて呼び出した。
予定通り通路を曲がった。
罠は完成した。
これで、痴漢現行犯で逃れられないのだ。
5、
4、
3、
2、
1、
いまだ!
扉を開けた。
そこに居たのは小百合先生?
なんで?、さっきまでは確かに雅雄だった。
突然扉を開けられたみんなは驚いた。
廊下に小百合先生だったのでなにも言わない。
そして恥ずかしい光景を先生に見られたので柚子に恨みの目を向けていた。
小百合先生はにっこり笑うと何も無かったように通り過ぎていった。
なんで?
どこで間違えたの?
さっき、角を曲がるまでは雅雄だった。
だから先回りして仕掛けたのに。
突然扉を開けられた娘は心臓が止まるかと思った。
ただでさえ人前に出ると上がって何も出来なくなる。
それなのに憧れの小百合先生に見られた。
もう体は緊張で固まっていた。
その上笑われてしまった。
娘が回復したのは周りがいなくなってしばらくしてからだった。
雅雄は今回ばかりは冷や汗をかいた。
いつもは警戒しているので絶対に更衣室の前は通らない。
今日はなぜか足止めを受けて時間的にそこを通るはめになってしまった。
いかに雅雄でも更衣室の前をうろついていては理由があっても注意される。
そして、そこを通るように仕組まれていたのは偶然ではなかった。
周りから気配が駄々漏れだ。
警戒のため女子更衣室の前を通るときは小百合を張り付けていた。
やはり、正面に立ったとき誰も出てこないのに扉が全開だ。
普通なら警戒して少し開けてから出てくる。
中には着替え中の女の子が数人。
見る気は無くても目に入ってくる。
中に一人異常な娘がいた。
真弓が言っていた娘だ。
成り行きなら仕方がないなと微笑んで通り過ぎた。
他の生徒の声をかけるタイミング。
目的地までの残り時間。
そういった諸々の条件を全部仕組まれそこを通るしかなかったのだ。
あの作戦遂行能力は大したものだ。
個人的恨みを忘れてくれれば立派な参謀になれるのにと思った。
そもそも何故恨まれているのかわからなかった。
卒業後柚子は近衛参謀に紹介された。
雅雄の紹介だった。
雅雄が消えた後は雅王女と言う風に記憶をすり替えられた。
彼女の考える作戦はオーソドックスだがタイミングが絶妙で凄かった。
模擬戦における戦闘の巧みさは他の追随を許さなかった。
その後のいろいろな作戦で遺憾なく能力を発揮した。
そして、女性初の参謀総長になったのだ。