第9話 桃
桐丘 桃16歳
桃は迷っていた。
両親の言うように最後まで学校に行くのか。
それとも、やめて結婚をするのか。
家が困っているのがわかったのだ。
大きな借金を抱えていたのだ。
結婚すれば彼の実家が支援してくれるというのだ。
両親はそんなのに縛られずに自分の道を行けという。
桃は疑っていた、自分の両親が本当の両親じゃないかもしれないことを。
まだ小さかったけど家が火事で炎に包まれていた記憶がある。
その記憶だけだが、そのとき誰かが火の中から外に投げ出したのだ。
そのため、死ぬことを逃れた。
その時の恐怖でそれ以前のことは思い出せなくなっていた。
かろうじて覚えてるのは燃え盛る火の中誰かが抱き上げて助けてくれたのだ。
それが両親だと思っている。
そうでなければ決死の覚悟で火の中で助けてくれない。
近所でさりげなく確認してもわからなかった。
その火事以前の記憶がないので確認できないのだ。
でもそれ以後幸せに育ててもらった。
そんな両親に恩返しの意味で必死に勉強して学校に入れたのだ。
でも両親の経営する店は事業に失敗して苦境に陥っていた。
幼馴染の彼はそんな桃に提案してきたのだ。
結婚すれば支援すると。
なぜ、結婚を急ぐのかわからないがその話はうれしかった。
彼が好きだからなおさらだ。
でも、両親を助ける為勉強もしたかった。
だから、迷っていたのだ。
そして、ぼんやり立っていた。
友人には注意をされていたのだ。
ぼんやりしていると雅雄様に抱きつかれるよと。
すっかり忘れていた。
そして、しっかり抱きつかれていた。
「雅雄様、やめてください」
他の人たちの話ではすぐに離れるという。
しかし、なかなか離れないのだ。
「いい加減にしてください」
「いやだ!、離すといなくなってしまう」
その言葉に感じるものがあった。
「いい加減、はなして」
「桃には莫大な財産があるから離したくない」
財産?なんのことか知らなかった。
「雅雄様、それはなんのことですか」
質問するとようやく離れていった。
そして、なにも言わず逃げるようにいなくなった。
残された桃は雅雄様の言葉を反芻していた。
財産?とはいったいなにか。
知りたかった。
それがあるなら両親も安心だ。
手紙を書いて財産のことを聞いた。
両親からの返事、そんなものは無いという。
そんな時彼からの手紙が来た。
「桃、結婚の話だけど桃の卒業まで待つことにするから頑張って勉強しておいで
両親への支援はやっておくから」
そんな簡単な文章だった。
首をひねる桃。
財産とはなにか。
彼の突然の変心の意味はなにか悩むばかりだ。
悩みながらも勉強は進め無事卒業した。
すぐに結婚はせずしばらく両親の店を手伝うことになった。
卒業後結婚する人が多く場所の空きがなかったのだ。
その手伝っているとき学校で習ったちょっとしたアイデアを実行した。
なんとそれが爆発的な流行をもたらした。
お店は大繁盛。
借金など簡単に返して白国でも有数の店にのし上がってしまった。
そうなると、桃に結婚を申し込むものがどっと増えた。
しかし、苦しいときに助けてくれた恩もある。
なにより、いまでも好きな幼馴染の男の子と結婚した。
そして、変心の意味を寝物語に教えられたのだ。
両親は桃の家を助けるのは反対ではなかった。
結婚するならということだった。
ただ桃が卒業までしてしまうとどこかに行ってしまうのを恐れたのだ。
卒業生は引く手あまたなのだ。
実際、卒業と同時にあちこちから声はかかった。
両親の心配もうなずける。
だから結婚さえすればいくらでも支援するということだったのだ。
だが、間に入ったのが白国の大臣だった。
桃さんは必ず息子さんと結婚しますと保証してくれたからだという。
さらに、桃の両親は本物の両親だというのだ。
桃が悩んでいたと言ったら笑われてしまった。
それでは、あの炎の中から放り出されたのは?
それは、わからなかった。
また、財産の件も不明のままだった。
自分が白国有数の資産家になった意識はなかったのだ。
雅雄は調査のため過去に飛んで火事の現場に立ち会った。
そのとき、子供がまだのこされているという。
名前は、桃だというのだ。
ここで死んでは歴史が変る。
そこで火に飛び込んで助け出した。
記憶をなくしたのは偶然のことだった。
財産は桃が卒業後発明することを知っていた。
別件で動いたときたまたま知った情報というより有名な話だったからだ。
あの場で不必要なことに悩んでいる桃にアドバイスしただけだった。