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第7話 胡桃

森原もりはら 胡桃くるみ18歳


胡桃は家事が好きだった。

だから、侍女になるため学校に入った。

しかし、侍女以外にも勉強することは多くあった。

ダンスや武術だ。


ダンスは苦労しながらもなんとか物にした。

しかし、武術だけはどうにもなじめなかった。

そのため、決まったノルマのない笑拳を選んでごまかしていた。


でも、卒業が迫るとそんなことも言ってはいられない。

このまま、こっそり卒業しようかと思っていた。

武術だけはそんなに厳しくなくて簡単な体操レベルでもよかった。

真面目にやって身に付かないものもいたからだ。

そんな胡桃を絵のモデルにして掲示板に張り出されてしまった。

たちまち学校で一番有名になってしまった。

いまさら、お茶を濁す体操といっても周りが納得しなくなっていた。

どうしようか迷っていたときだ。

雅雄に抱きつかれてしまったのだ。

いっそ雅雄師範に会いたいと思っていたときだったのでいい機会だった。


抱きついた雅雄。

悲鳴をあげるわけでもなく落ち着いた対応に驚いていた。

「雅雄様、卒業の武術発表が出来ないけどどうしましょう」

いきなりの真剣な悩みだ。

8年間さぼっていて卒業発表をうまくやりたいという申し出にあきれる。

しかし、そういうのは嫌いではなかった。

人によっては武術そのものを嫌う女の子は多いからだ。

だから息抜きに作られた笑拳なのだ。

「なにか、得意なことでもあるのか」

「家事が好きです。掃除なんか得意ですよ」

「そうか、それならそれで行こうか」

自分で話を振っったのだがその返事に首をかしげるだけだった。

武術の話をしたはずなのだ。

返事が掃除?

「あのう、武術の話ですよね?」

「もちろんだ。今日の授業終了後道場に顔を出すように」

「はい・・・?」

雅雄はそのまま離れて技の構築に頭をひねる。

残された胡桃、間違いなく今武術の話をしたはずと頭の中で反芻していた。


授業が終わり道場に顔を出した。

相変わらず人が居ない。

笑拳を選ぶものは基本的に武術が苦手なものだ。

だから、参加も少ない。

ただ、師範代に有名な双子がいるからそこが人気なのだ。

白井小百合先生と白井真弓先生だ。

卒業後すぐに講師として雇われた優等生だった。

なぜ笑拳にと騒がれたものだった。

胡桃もお世話になった先輩だ。

先輩はいずれも体操でお茶を濁した口だった。

だから武術はそんなに得意じゃないのだろう。

今は19歳でまだ結婚の話もでていなかった。

ただ、真弓様と王が仲が良いと風の噂に上がるだけだった。


雅雄様の傍らに小百合様一人だけだ。

噂好きの生徒の中には小百合様と雅雄様の仲を言う者もいた。

しかし、目の前を見ると単なる噂でしかない。

雅雄様がおかしな武器を持っていた。

熊手だ。

あの、枯葉を集める道具だった。

何をするのか首をかしげるだけだ。

「これを箒にみたてて道場を掃除してみてくれ」

熊手を受け取って掃除の振りをするという意味だ。

いわれたように行動した。

雅雄様は小百合様と相談している。

この行為になにか意味があるのか考えていた。


2人の意見が一致したようだ。

呼ばれた。

「どうやら物になりそうだ」

信じられないことを言われた。

「へ?」

「やはり、掃除が得意のようだ。体さばきが完成してる」

なんのことかよくわからなかった。

体さばき?自然に体を動かしているだけだ。

話は続いた。

「あとは、攻撃だけだ、投げるボールを打ち返してくれるか」

言われる意味がよく判らないが玉を打ち返すだけのようだ。

すぐにゆるい球が目の前に飛んできた。

箒で叩く要領で打ち返した。

今度は横だ。

箒を持ち替えて返す。

前後、左右、斜めまでまぜて次々とくる。

掃除の延長のような作業に慣れたものだ。

軽々と打ち返していく。

どうやら玉が無くなったようだ。

「今度は二ついくよ」

さらに同じことが続く。

なんとか二つならやれそうだった。

事実、軽々と返した。

一つ目は高い点で返し、もう一つは低い点で返すのだ。

慣れれば簡単なことだった。

掃除をする要領で体を動かせばよかった。

「今度は速い球を打ち返してね」

そういうと山なりではなく速い球をなげられた。

家事の目をなめては困る。

軽々と打ち返す。

ただ正面の玉だけは苦手だった。

いったん左右にずらして打ち返した。

玉の速度はだんだん速くなっていく。

指で弾くだけでなんで?

そちらの方が気になった。

しばらく続けて汗まみれになった。

授業後そのまま来たのでまだ侍女服のままだった。


訓練は終わったようだ。

きつい練習だった。

小百合様が呼んでいた。

別室に連れて行かれた。

そこに着替え一式が用意されていた。

そして、お風呂まで。

ただ中身は水だった。

でも、汗を流した後だったのできもちがよかった。


着替えを済ませて戻ると雅雄様が待っていた。

そして言われたのだ。

掃除拳が完成したと。

掃除拳?

初めて聞く冗談のような拳法だ。

どうやら真面目なよう。

その後、数日で小百合様より演舞のようなものを教えられた。

卒業発表のためのものだ。

基本的には掃除だったのですぐに覚えた。


卒業披露のとき、初披露だ。

会場のみんなには笑われた。

中にひとり真剣に見つめている生徒がいた。

しかし周りの反応に隠れて気づくものはいなかった。


なぜか、武術関係の人はみんな苦笑いだった。

しかも、師範と言われるものはみんな真剣な顔で見ていた。

不思議だった。


卒業後、白国で初めての掃除店を始めた。

だけど、全然客が来ない。

そもそも何をするのか宣伝しても意味がわからないようだ。

主婦に代わって掃除するというものだ。

それが、わかってもらえない。

旦那さんにとって、主婦が掃除するのは当たり前なのだ。

近所の主婦の人は旦那さえ了解してくれれば頼みたいと言っている。

男は主婦の大変さを知らないから認めないのだ。


雅雄様から招待状が届いた。

まさかの白国武術大会出場。

なんの冗談かと思っていた。

お世話になった雅雄様の命令だ、逆らうわけにもいかない。

おまけに侍女の姿で参加しろという。

もう開き直りだった。


予選落ち覚悟で参加。

周りは男ばかり、それも動きやすい武道服といわれるものだ。

女の人もいるが同じ格好だ。

その中に一人侍女服、おもいっきり目立っていた。

そして、まさかの本戦出場。


会場に出ただけでひやかされた。

『掃除は済んでいるよ』と言われてしまった。

そして、開始の合図。

相手が隙だらけなので雅雄様の玉に比較すれば簡単なものだった。

本戦まで勝ってしまったのだ。

会場は大爆笑の渦だ。

負けた人には申し訳なかった。

そして、シードの蛇拳の人。

何しろこちらは基本的に箒なのだ。

普通とは違いしたからの攻撃には強かった。

難なく、やぶることができた。

武器の長さが勝敗を決した。

会場の人はもう笑わなかった。


ベスト4をかけて虎拳と戦うことになってしまった。

さすがに虎拳の守りは堅く敗れなかった。

接近され危うくなることもしばしば。

一瞬で近づいてくるのだ。

掃除の要領でひねるようにかわしていくのがやっとだ。

家具などをよける要領だ。

でもこちらの攻撃がみんな受けられている。

結局、攻撃力の差でついに負けた。

会場からは割れんばかりの拍手だった。

どうやら、よく善戦したようだ。

結局、ベスト8だった。


大会は、その虎拳の人が優勝した。

ただその後の2戦ともあっさり勝っている。

ひょっとして、私はあの人たちより強い?

そんな疑問が持ち上がった大会だった。


大会後は本業の掃除業が忙しくなった。

大会で評判を聞いた人が注文をくれるようになったからだ。

おまけに、修行したいと若い人まで寄ってきた。

従業員を雇う形で採用。

お店は軌道に乗ってうれしい悲鳴。

支店を作って営業していた。


大会後、虎拳のあの人と付き合い始めた。

そして、結婚を申し込んできたのだ。

緑国進出?迷う選択だった。

しかし、心の奥は決まっていた。



雅雄の調査のとき、緑国の城を掃除しているお店の名前を覚えていた。

緑国との接点の可能性を考え大会に出場させた。

結果は・・・。




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