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フィオナはルークの後ろ姿を目で追っていた。
先程は鋭い視線を向けられた気がする。
なんでしょう……何だか油断できない人です。 とにかく、気をつけましょう。
って、そもそも間違いならば追い出されるのでは?
弁償のこともお話しなければ!
我に返ったフィオナはアランが立ち去って行った方向へ進もうとした。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「痛いです、何するんですか!」
フィオナはメアリーにガシッと襟首を掴まれて引き戻される。
「また、あなた達ですか? いったいどういう教育を受けているのですか、ちょっと今は急いでいるのですけど」
「ぷっ、なーに、その話し方は! ははは、ねぇ?」
フィオナは、掃除道具を持って来た先程の侍女達に絡まれる。
メアリーは左右のマーシャルとモアナに同意を求める。
「ほーんと、まるで庶民と話してるみたい、ねぇモアナもそう思うでしょ?」
「令嬢らしくない」
ボソッとモアナは呟く。
フィオナは地味に傷ついていた。
庶民的で悪かったですねっ!
生活の為に働くことに精一杯で、貴族令嬢の振る舞いなどとうの昔に忘れましたが、何か?
フィオナは文句を言いたいところをぐっと堪える。
肩上で綺麗に切り揃えられたダークブラウンの髪、豊かな胸を張るように立つメアリー。
メアリーにぴったりと付き従っているマーシャルは、赤毛の髪をゆるくアップにしている。頬に少しそばかすがあるが肌に艶がある。
めがねをかけて、黒い髪をサイドに三つ編みをして垂らしているモアナ。 一見すると大人しそうだが、芯の通った発言や行動力がある。
発言力は、メアリー>モアナ>マーシャル
といったところだろうとフィオナは推察する。
イニシャルが皆さん“M”ではないですかっ。
M トリオですね
「旦那様に大事な話があるのです」
「ははーん、さては泣きつくつもりね?
あー、そうだったわね、思い出したわ。
あなた、あの貧乏貴族のルブラン家の娘ね? どーりで、ははは」
「メアリー、ルブラン家って?」
「ばかがつくほどの、超お人よしのルブラン男爵。いわゆるど貧乏貴族」
マーシャルに問いかけられてモアナは淡々と答える。
「そうそう、頭の中が能天気で、いいカモにされてるそうよ。確かあだ名があったわね、頭の中がお花畑だから、なんとか……」
「ルンルン男爵♫」
「やーだ、何それ、きゃはは」
「プッ」
Mトリオは、黙っているフィオナの前で言いたい放題だ。
なんですか⁉︎ その楽しそうなあだ名は!
お父様! こんな若い人達にまで噂が広まってますよ
ほとんど事実だから、反論もできませんっ。
フィオナはふるふると肩を震わせていた。