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✳︎✳︎✳︎


フィオナの部屋の扉の前では、メアリーが床に座り込んで、食器類を片付けているふりをしている━━念入りに衣装を汚した後に。


転がった水差しを拾い上げて、残った僅かな水を自身のスカートにかけていく。


「これでは足りないわ」と、散乱した食べ物を素手で掴み、目立つように上半身の衣服に擦り付けることも忘れなかった。


そしてしゃがみ込むと、敢えて割れたお皿を片付けるふりをする。


よーく見ると、単にカチャカチャ音を立てているだけなのが分かるはずなのだが。



気づいてくださいと言わんばかりに、メアリーはしくしく泣いたふりをしている。



「そこで何をしている?」


背後から男性の声がかかり、ぱぁっと顔が綻びそうになるのを必死に堪える。


「ぐすっ、聞いてください、旦那様!」



メアリーは勢いよく立ち上がり振り向くと、声の主へと駆け寄り、あわよくば抱きつこうとした。


「お下がり下さい、アラン様」


そうはさせまいと、メアリーの行く手を阻むように一人の若い男性が立ち塞がる。


肩下まであるシルバーグレーのサラサラとした髪を、一つに束ねて、縁なしの眼鏡をかけた20代後半の男性。


アランのあらゆる業務の補佐をこなしており、従兄弟でもあるルーク・カシウス━━カシウス伯爵家三男だ。


「ルーク、他人行儀な呼び方はやめてくれないか」


「いいえ、アラン様こそいい加減呼び慣れてください。私はアラン様にお仕えすると決めたのです」


「余っている爵位もあるのに、なんでわざわざ私に仕える道を選ぶのか不思議でならない」


「それは━━」


「ルーク様、邪魔です! 旦那様にお伝えしたいことがあるのです」


メアリーはルークの後方に佇むアランめがけて飛び出した。


「きゃぁっ、ちょっと‼︎ なにするのよー!」


ルークは素早く落ちていたテーブルクロスを拾うと、メアリーを包むように拘束した。


「ははは、それが素ですか、そのような格好でアラン様に近づかないでください。

だいたいそれも、自作自演ですよね?」



「なっ! ぐすっ、ひどーい、ルーク様。 ぐすっ、旦那様、聞いてください! 私、フィオーリ様に朝食をお持ちしたのです。 旦那様の婚約者様ですもの、私は誠意を込めてお持ちしたのです。それなのに……ぐすっ、こんなもの食べられないわ!っと私を突き飛ばして、ワゴンごとひっくり返しのですっ! ぐすっ、ひどいと思いませんか? 私はっ、ぐすっ」



「言いたいことはそれだけですか?

随分とお粗末ですね。その手の汚れはどうしたのです? まるで食べ物を手掴みしたように見えますが?」


「これはっ、違うのですっ、いたたた!痛いです、助けてください、旦那様!」



ルークはテーブルクロスをぎゅうっと締め付けていく。


「ルーク、それくらいにしておけ」


「アラン様がそうおっしゃるなら」



ルークは掴んでいたテーブルクロスを一気に放す。


突如、締め付けられていたテーブルクロスから解放されて、エミリーはバランスを崩した。


「わぁ、っととと」


メアリーはよろめいて、身体を支えようと思わずドン!と扉に手をついた。


すると、ガチャリと部屋の扉が開かれた。


中からは、モアナとマーシャルに引きずられるようにフィオナが連れ出されて来た。








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