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おかしいですね、何の音も聞こえてきません。
かすかに鈴の音が響いてくるはずなのですが。
これだけ大きな邸ですもの、きっとかなり離れた部屋へと繋がっているのでしょう。
けれど、いつまで待っても誰かが来る気配はしません。
次は、隣の紐を引いてみましょう。
「固い、ですね、ええい」
フィオナはグイッと紐を勢いよく引っ張る。
すると、ブチッと紐が切れてフィオナはしりもちをつく。
「えっ?」
いたたたたた……
お尻をさすりながらフィオナは立ち上がる。
「どうしましょう??」
た、大変なことをしてしまいました。
まさか呼び鈴を壊してしまうなんて……
伯爵家で使用されているのですもの、きっと特注品に違いありません。
おそらくこの紐も、どこかの希少な糸を使用しているはずです。
弁償できる金額でしょうか
フィオナはちぎれた紐を見つめる。
持参金もなく、しかも間違いで?嫁いで
きて借金を背負うなんて、どんな顔をして旦那様にお詫びすればいいのでしょう。
このままではフィオ姉様にあわせる顔もありませんっ。
「グーー」
と、とにかく、ここは正直にお伝えして、謝罪しましょう。
可能であれば、こちらでこの際働かせていただき、弁償させていただきましょう。
フィオナは、呼び鈴の紐を素早く順番に引いた。
とにかく急いで報告しなければ!
決してお腹がすいて限界が近づいているわけではありません
片っ端から順番に引いても、相変わらず何の変化もありません。
そして、ついに残り赤と青の二本の紐だけになりました。
この二つの紐のどちらかが、正解なはずです。
赤にするのか、青にするのか、
この際、両方同時に引いてみましょう。
お願いします! どなたか気づいてください!
祈るような気持ちでフィオナは紐を引いた。
「……」
「お願いですっ」
だめ……でしたか。
落胆したフィオナは立派なソファーへとこしかける。
柔らかな感触に身体を預けて、このまま眠りにつき、全てなかったことにならないかと思い悩む。
ふとサイドテーブルに視線を移すと、ハンドタイプの呼び鈴が置いてあることに気づく。
「こちらを鳴らすのですね!」
さっそくベルを手に取り、軽く揺らす。
伯爵家の呼び鈴なのから、きっと綺麗な音色が響くのでしょうとわくしながら。
「ゴッ」
ん?ん?
気のせいかしら?
チリリンという鈴の音が聞こえない。
代わりに何か詰まったような音が……?
フィオナは何度か呼び鈴を揺らした後に、ひっくり返して中を覗く。
って、本当に詰まっているではないですかー!
どういうことですか!
振り子が動かないように、綿がぎっしりと詰まっています。
どうやったらこんなにぎっしり詰まるのでしょう。
綿を取り出そうとするも、糊付けされていて難しい。
一生懸命取ろうとしても、取れるのはほんの少しだけ。
なんという地道な作業でしょう。
コツコツと作業するのは、嫌いではありません。
ですが、こんなペースでやっていたら日が暮れてしまいますっ。
一旦気持ちを落ち着けましょう。
フィオナはベルをサイドテーブルに戻して、洗面所へと向かった。
ふぅと気持ちを落ちつけて、視線を上げる。
フィオ姉様⁉︎
って、自分の顔ではないですか。
鏡に映る自分の姿にフィオナは驚く。
ん?
心なしか金髪がくすんでいるような……
たった1日で変色するのですね?
安い染料はだめですね。
1ヶ月もつでしょうか……
ま、まぁ、きっと何とかなるでしょう
洗面所を出ようと勢いよく振り向いた拍子に、何かで手が当たる。
これは、呼び鈴ではないですか⁉︎
洗面所にも置いてあるなて、さすがは伯爵家。
鳴らす前に、詰め物がないか確認すべきでしょうか。
う~ん、なんだか少し嫌な予感がしますね。
とりあえず鳴らしてみましょう。
「くさっ!」
呼び鈴を持ち上げたフィオナは、漂ってくる香りに鼻をつまむ。
なんでしょう、この変な匂いは。
無理です無理です。