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部屋の前に辿りついたフィオナは、入口付近に置かれているワゴンが目に入る。
先程ルークが運んできたものだ。
そういえば何も食べていない。
扉を開けて、ワゴンを室内へと運びいれる。
蓋を取ると、サンドイッチとケーキとクッキーが用意されていた。
少し冷めてしまった紅茶を注ぎ、サンドイッチを頬張る。
ふわふわとしたパン生地に、新鮮な野菜や肉が挟んであった。賄い以外でこんなに贅沢な食事を食べたのは何年ぶりだろう。
ケーキなんて最後に食べた時の記憶すら思い出せない。
甘くて、おいしい。
フィオナはゆっくりと一口一口を味わいながら、その味を記憶に残そうとしていた。
クリームが口もとに付いたので、そっと布巾で口を拭う。ふと母が生きていた頃のことが記憶に蘇る。 あの頃は、ケーキはいつでも食べることができた。クリームがついた口元を母が拭ってくれた優しい感触は覚えている。
と、いけません。感傷に浸っている場合ではないのでした。
クッキーは袋に入れられていたので、保存しておくことにした。もしかしたら、フィオ姉様がまた来てくれるかもしれない。その時に姉様にも食べてほしい。
お腹を満たし終えると、さっそく小袋の中から手紙を取り出した。
眩しい! 小袋の中には輝く金貨が詰まっています。目に毒です。心臓に悪いので見ないようにしましょう。
フィオナは小袋を置くと手紙に目を通した。
「えぇ⁉︎」
手紙にはびっしりとフィオ姉様の思いが綴られていた。
~ティナへ~
代役を引き受けてくれてありがとう。
いつも感謝してる。
どう? ロシュフォール伯爵様にはバレてない?
実はね、私、とあるお仕事を引き受けたの。
聞いて驚くわよ、ティナ、あのエリック騎士団長様からの特別依頼なの。
ティナは知っているでしょう?
私、がっしりとした男らしい年上の人がタイプなの。
まさにエリック騎士団長様のような。
私ね、騎士団稽古場によく見学に行っていたの。
初めて見た時から、尊いって思ったの。
もう、見ているだけでいいって。
たぶん、私のことは認識されてないと思っていたの。
でもある時、花屋の仕事を終えて、いつも通り稽古場に向かおうとした時、男の人に声をかけられたの。
断ってもしつこくて。
いわゆるナンパね。
手を掴まれそうになって、怖くて、しばらく近くのお店に逃げ込んでいたの。
もう諦めただろうと、外へ出て歩いていると、路地に連れ込まれそうになって。
ティナも気をつけてね。あの時は本当に怖かったわ。
そしたら、そこに、エリック様が現れたの。
巡回中だったらしくて。
もう、本当にかっこよかった。
目の前にエリック様。もう死んでもいいとさえ思ったわ。
「よく稽古場に来られていますよね。今日は姿が見えなかったので、気になっていました」
と言われたのよ。まさか、私のことを認識していたなんて。しかも、私を心配して来てくれたみたいに聞こえたの。
それから、度々声をかけてくれるようになってね、実は、契約結婚の依頼を受けたの。
エリック様はちょうど30歳になられるのだけど、まだ独身でしょう。
苦手な令嬢との縁談を勧められて、断る口実がほしいそうでね。
いらないと言ったのだけど、お金も渡されてしまって。
エリック様の側にいられるなら、無償で喜んで務めるわ。
だから、頂いたお金はライアンとティナに渡そうと思って。
ティナ、一生のおねがい! どうか、1ヶ月だけでも、夢をみさせてほしいの。
私、エリック様のことが、好きなの。
1ヶ月後には戻るから。それまで、よろしくね
じゃあね。
「って、フィオ姉様、契約結婚って、このままだと重婚になるのではないですか! え?姉様、婚姻届は出されてないですよね?
それに1ヶ月で離縁するつもりだったのですか?
色々と突っ込み所満載じゃないですかっ。
あぁ、だから、先程あんなに嬉しそうだったのですね。 って、早急にカミングアウトしなければ、エリック騎士団長様とフィオ姉様のことが発表されたらまずいではないですか」
フィオナは居てもたってもいられず、アランの元へと向かうことにした。




