9、仲間認定
あれからどのくらい経ったのか分からない。
扉を開けようとされること無く、玲奈ちゃんと二人で身を寄せ合っていた。
あの生物が入ってきたら、フライパンをいつでも振り回せるように扉を見ている。
玲奈ちゃんの身体が冷えないよう、アルミのブランケットで身を包ませている。
二人で黙って扉を見ていると、ガチャンと鍵が回った。
「玲奈ちゃん、あそこの後ろで静かにしててね」
「さらちゃんもかくれよう」
「私は大丈夫だから、何があっても出てきちゃダメだよ。すぐに篤人さん達も来てくれるから」
「でも・・・」
頭を撫でて、玲奈ちゃんを隠れさせた。
扉の側に立つと、ゆっくりと扉が開かれていく。
細く息を吐いて、逃げたい気持ちを堪える。せめて、玲奈ちゃんを守らないと!
その一心で、フライパンを振りかぶると、入ってこようとする生物に振り下ろした。
「おっ、とあぶねぇ」
人間の言葉が聞こえたところで、フライパンを止めようとするが、止められなかった。
振り下ろしたフライパンを軽々と大きな手で止められた。
「威勢が良いな」
「・・・」
「おーい、聞こえてるのか?」
「・・・」
目の前には、坂堂さんがフライパンを抑えて立っていた。
緊張の糸が切れて、ヘナヘナと床に座り込んだ。
情けないことに足に力が入らない。
「玲奈!」
「お兄ちゃん!」
部屋に滑り込んできた篤人さんに玲奈ちゃんが抱きつく。
「大丈夫だったか!?怪我は?」
「うん、大丈夫!」
顔色を悪くした篤人さんが、玲奈ちゃんの全身を確認する。
目の前にいる坂堂さんも安心したように表情を緩めた。
「玲奈は無事らしいな」
「・・・」
声は出なくて、首を縦に振る。
「中川さんも怪我はないな?」
「・・・な、無いです」
「なら良い。遅くなって悪かったな」
「・・・っあの生物は!?」
安心感で吹っ飛んでいたが、あの生物がキッチンに居た筈だ。
「あの謎の生き物か?あそこに居るぜ」
「・・・・!?」
その言葉を聞いて、床に置いていた フライパンを再び握りしめる。
「あー、安心しろよ。何かあの生物大人しくなってるから」
「何で大丈夫だって分かるんですかっ!?」
あの牙が迫ってくるのが頭から離れない。
坂堂さんは、そんな私の頭を撫でる。
「勘」
そんなパワーワードを堂々と言ってのけた。
阿保かと突っ込まなかった私は自分で自分を褒めたい。
いつあの生物が飛び掛かってくるかと、扉を見ていると、ゆっくりとあの生物の鱗がが見えたと思うと、目もバッチリと合った。
私の唯一の武器のフライパンをしっかりと握る。
その瞬間、生物の姿が扉に隠れた。
そのままジッと見ていると、また生物がこちらを覗き込んできた。
それを何回か繰り返している。
そんなことを繰り返していると、気が抜けてしまいそうだ。
いやいや、あの生物の戦略かもしれない。
気をしっかり持て、と自分に言い聞かせる。
こちらを覗いている目が、ウルウルとしているのは気のせいに決まっている。
「なっ、襲ってこないだろ?」
「今だけかも・・・」
フライパンからは決して手を離さず、覗き込んでは隠れるを繰り返す生物を睨み付ける。
「・・・フライパンへこます勢いで殴ったんだろ。それに懲りたんじゃないか?」
「あっ、手は大丈夫ですか!?」
漸くそこで、フライパンを目の前の人に振り下ろしたのを思い出した。
しまったと思うが、もう遅い。
「おう、平気平気。どこも痛めてねぇよ」
グーパーと手を握ったり、開いたりして問題ないことをアピールしてくる。
「本当にごめんなさい」
フライパンを受け止めたであろう掌は赤くなっていた。
「そんな顔をするなって、大丈夫だから。頑丈なのが取り柄だしな」
「分かりました。ありがとうございます。坂堂さんが受け止めてくれたお陰で誰にも怪我をさせずに済みました」
「おうよ!どういたしましてだな!ていうか、敬語も止めろよ。背中がむず痒い」
「えっ、でも・・・」
「良いから、良いから」
「・・・分かった」
坂堂さんはニカッと笑うと、私の頭をグリグリと撫でる。
急な子ども扱いに戸惑う。
「栄志、認めたみたいだね」
「ここまで玲奈の為に身体を張ってくれたら、そりゃぁな」
二人ともそんなことを言いながら、私の握っているフライパンを見ている。
なんとなく気恥ずかしくなって、そっと背中側にフライパンを回した。
二人がそれを見て笑ったが、そ知らぬ振りをする。
篤人さんが手を差し出してくれたので、その手を取って立ち上がる。
篤人さんの手が僅かに震えていた。
どれ程玲奈ちゃんのことが心配だったのか、あの飛び込んできた様子からも分かる。
その手をギュッと握った。
「紗羅。玲奈を守ってくれてありがとう。君をここに引き込んで良かったと思う」
「引き込んでって・・・」
「強引だった自覚があるから。その言葉で正しいよ」
フッと笑った篤人さんの柔らかい表情。
そんな顔は初めて見た。
「じゃあ、具体的な話は居間でしよう。この生き物についても色々と聞きたいし」
表情を切り替えた篤人さんに頷いた。




