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8、異変


 あれから、篤人さんと坂堂さんが出掛ける回数も多くなっていった。

 あちこちと行っているみたいだが、依然として救助が来る様子もないそうだ。

 むしろ、物資の不足が浮き彫りになり、より雰囲気は悪くなっているらしい。


 篤人さんはそう言って、具体的な悪化に関しては口にしなかった。

 けど、坂堂さんの服に妙な泥汚れがあったのを考えると、何らかのトラブルに巻き込まれたことは分かっている。

 言わないってことは、片付けてきたんだろうけど、少しぐらい教えてくれても良いのに。

 坂堂さんの部屋の前に救急セットを置いたら、消毒液とガーゼが使われて戻してあった。


 そんな中、学校に置いてきた景子が心配になるけど、それを口にすることはまだ出来ない。

 自分でも驚きだけど、まだ心のどこかでつっかえている。自分の女々しさには呆れる。


 篤人さんはきっとそんな私に気づいていて、聞かなかったのだろう。

 もっと身内以外には冷たいのかと思ったけど、優しい人。


「お兄ちゃん達、今日も居ないね」

「うん、玲奈ちゃん寂しい?」

「・・・少しだけだよ」


 玲奈ちゃんは、ピッタリと私にくっつくいて、ソファーで座っている。

 玲奈ちゃんは、二人が行く時には微塵も寂しさを見せなかった。

 賢いからこそ、行かないでと言えないのかもしれない。


「・・・さらちゃん?」


 玲奈ちゃんが腕の中で見上げてくる。

 つい玲奈ちゃんのことを抱き締めて上げたくなったのだ。


 頼れない寂しさと、大事な人が側にいない孤独感は十分理解できることだったから。


 あー、なんか気分が落ちてるなぁ。

 これじゃダメだと思うんだけど、戻せない。


 学校では、色々なことが起こりすぎて常にピリピリしていたし、志島家に来てからも何処かに追い出される不安も持っていた。

 それが二人とも出掛けるようになって、一先ずは追い出されることを考えなくてもよくなった。少しは信頼して貰っていると思う。


 気持ちの余裕が出てくると、置いてきた不安が次々と出てくる。

 

 ボーンと時計が鳴った。


 ハッとして、飾ってある大きな時計を見ると、丁度12時を指していた。


「玲奈ちゃん、お昼になっちゃった。急いで作るね!」

「うん!私もお手伝いする!」

「ありがとう」


 玲奈ちゃんの優しさを噛み締めて、急いでキッチンに向かった。


 先に準備をしていて良かった。


 数時間前の自分に感謝して、直ぐにパスタを茹でる。

 同時にナポリタンのソースも作る。

 野菜やお肉を炒め、ケチャップで味付けだ。


「さらちゃん。持ってきたよ」

「ありがとう。洗ってまな板の上に置いてくれる?」

「はぁい」


 玲奈ちゃんが取ってきてくれた野菜を使って、付け合わせのサラダも作るつもりだ。


「玲奈ちゃんには、人参をスライサーで切って貰おうかな」

「する!」


 危なっかしい手付きでスライスする玲奈ちゃんにドキドキしながら、手を切らないように注意する。


 パスタは完成して、味見をする。

 これで大丈夫そうだ。


 コンロの火を消して、皿を取ろうと後ろを向いた。

 視界の端に勝手口の扉が少しだけ開いていた。


 玲奈ちゃんが閉め忘れたのかな?


 開いている扉を閉めようと、足を一歩踏み出した。


「ゲコ!」

「・・・はぁっ!?」


 勝手口の扉から蛙の鳴き声をする変な生物が現れた。

 全身は鱗で覆われていて、大きな目に蛙のような姿。魚のシッポのような付いている。


 何!?この生物!


 謎の生物と見つめ合って数秒。

 お互い固まっていた。


「さらちゃん、どうしたの?」


 玲奈ちゃんの声に、目の前の生物の耳がピクリと動く。

 目がギョロリと動き、玲奈ちゃんに意識を移したのが分かった。


 まずい・・・!


 本能が警鐘を鳴らす。

 前に教えて貰った避難場所は此処から遠い。

 全身の血が脳に行く感じがした。


「玲奈ちゃん!急いで冷凍室に!」


 一番近くて分厚い扉はそこしかない!


「えっ!」

「良いから!早く!」


 怒鳴るように玲奈ちゃんに言いながら、側にある掴める武器を持つ。

 玲奈ちゃんがバタバタと走って行くのが聞こえる。


「グルルルル」


 目の前の生物が身体を低くし、前傾姿勢になる。口から少し見えた牙は、鋭く尖っていた。


 いかにも肉を食いちぎりそうな牙。

 前足にグッと力を入れたのが分かった。

 ギョロリとした目が私に向く。


 その瞬間には、弾丸みたいに私の顔に向かって、口をパカリと開けた状態で飛んできた。


 自分の反射神経に感謝するしかない。

 咄嗟にフライパンを振りかざして、全力でその生物を殴った。

 手首が痛くなる程の反動を感じて、以外と軽かった生物は壁に叩きつけられる。

 ガンッと、壁に強く叩きつけたのを見て、フライパンを持ったまま全力で冷凍室に入った。


 中に滑り込むなり、扉を閉めて、鍵を掛ける。


「さらちゃん・・・」


 玲奈ちゃんが震える手で、私の手を握る。

 怯えた目で私を見ていた。


 玲奈ちゃんからは、あの生物の姿は見えていなかっただろうけど、自分に危険が側にあったのには、気づいたのだろう。


「大丈夫だよ。大丈夫」


 自分の声が必死に震えないように、抑え込みながら玲奈ちゃんを抱き締める。



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