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6、植物園


 あれから数日。

 玲奈ちゃんとの仲も縮まった。

 ピザを一緒に作ったのが良かったみたいで、遊びにも誘ってくれるようにもなった。


「玲奈ちゃん、どうしたの?」


 朝食の後、洗濯物を干していると玲奈ちゃんが井戸の前に立っていた。


「さらちゃん、あのね」


 玲奈ちゃんが綺麗な眉を八の字にしていた。

 玲奈ちゃんが言うには、植物園の水撒きに関してだった。

 いつもは手伝ってくれた坂堂さんがどこにも居ないらしい。

 それで、一人で何とか井戸から水は出せたけど、重すぎて今度はジョウロを持ち上げられなかったみたいだ。


「このジョウロ?」

「そうだよ」


 大きめのジョウロには限界まで水が入っていた。見ただけで分かる。これは相当重たい。


 でも、せっかく玲奈ちゃんが頼ってくれたのだ。ここは良いところを見せたい。


「・・・よいっしょ!」


 腰に力をいれて持ち上げた。

 片手では無理だった。両手でジョウロを持つが手が力を入れすぎて白くなっている。


 ・・・おっっも!


 手がプルプルと震える度に、ジョウロの水がチャプチャプと鳴っている。


「さらちゃんすごい! 場所はあっちなの!」


 玲奈ちゃんが指差す方に言われるがまま、持っていく。


 井戸が植物園と近くて良かった!

 遠かったら腕が千切れるところだよ!


 植物園に初めて入る感動は何処へやら。必死でジョウロの水を運ぶことになった。


 玲奈ちゃんが指差すところに水を掛ける。

 花のようなものもあれば、ハーブみたいなものまで。野菜や果樹も植わっていた。


 水が無くなった頃に顔を上げると圧倒させられる。

 植物園というのは伊達ではない。

 入館料が取れそうな場所だった。


 人生で植物を育てたのは、小学校の授業だけだ。強いて言うなら、キッチンの角に置いていた豆苗くらい。

 季節の果物は困らないな。


「玲奈ちゃんが一人で管理してるの?」

「んーとね。大体はそうだけど、栄志君がいつも手伝ってくれるよ。土運んだりとか。後はお兄ちゃんが本を読んで栄養になるものとか教えてくれる!」


 なるほど、二人が手伝ってこの植物園が出来てるわけだ。


「この前のピザのバジルもここで生えてるの!」


 玲奈ちゃんに腕を引っ張られて連れて来られる。

 そこには青々としたバジルが咲いていた。


「玲奈ちゃんすごいね!」

「うふふ~。今度ね、さつまいもを採るから、さらちゃんそれで何か作ってね!」

「本当!?楽しみだなぁ」


 玲奈ちゃんの嬉しそうな顔を見てついつい頭を撫でてしまう。

 ハッとして手を止めるが、玲奈ちゃんがもっとしてって言うように頭をグリグリとしてくる。


 それが可愛くて、また撫でてしまう。

 こんな中、玲奈ちゃんは私にとって安らげる存在になっていることが改めて分かった。


 その日の夜。

 玲奈ちゃんが寝た後、篤人さんに声をかけられた。


「玲奈と仲良くなったみたいだね」

「玲奈ちゃんが良くしてくれるから」

「そうか。玲奈から色々聞いてるよ。玲奈が楽しそうで心の底から紗羅に感謝している」


 篤人さんの真っ直ぐな視線に、コップを拭いていた手が一瞬止まる。


 穏やかな眼差しに、この人はこんな顔も出来るのかという驚き、それ以上に私に向けられていることに目を見張った。


 篤人さんが私をこの家に引き込んだ張本人のくせに、ずっと私を監視していた。


 篤人さんにとって、玲奈ちゃんは自分よりも大切な存在であることは、少し一緒に暮らしているだけでもハッキリと分かった。


 だからこそ、私はここを逃げ出さずにいたのだ。

 そうでもなければ、こんな腹に色々なものを抱えた人の側でやっていけない。


 篤人さんが考えるように言葉を止める。


「・・・玲奈が前に身体が弱いことは言ったね」

「うん。聞いたよ」

「身体が弱かった玲奈は学校に行くのも難しくてね。基本家に居て、行ける時に学校に通っていたんだ。そんな状況だと、当然友達を作るのも難しい」


 その言葉で想像してしまう。

 きっと玲奈ちゃんは学校で孤立していたんだ。


「その内学校の行くのも嫌がるようになって、俺の居る此処に引っ越してきたんだ」

「始めから一緒に暮らしてたわけじゃないんだ」

「うん。それで常駐するお手伝いを雇って玲奈のことを見守ってたんだけど、学校は中々行こうとしなかった」


 当時を思い出すように篤人さんが目を細める。とても優しいお兄ちゃんの顔をしていた。


「玲奈は学校に行けない自分と何も出来ないことに泣いていてね。それで植物園を作った。別に失敗しても良いし、玲奈だけの特別な場所にしたんだ。始めはアサガオから作ってね」


 篤人さんは、玲奈ちゃんが出来そうなことからさせようと思ったんだ。

 顔を弛ませながら、その当時のアサガオだと押し花を見せてくれる。

 丁寧に加工してあって、栞になっていた。


「それが自信になったのか、今では色々なものに手を出して作っている。本も読むようになったし、花屋さんの人とかと真剣に植物に大して話すようになったし」

「だから、植物園は勝手に入らないでって言っていたんだね」

「そう。玲奈にとって特別な場所だから。今日玲奈が紗羅を植物園に入れたってことは、玲奈は紗羅に心を許したんだろう」

「・・・だとしたら、嬉しいね」


 何となく気恥ずかしくなって、目をそらす。


 篤人さんがそれを見て笑っているようだが、確かめることはできなかった。


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