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5、家の倉庫


「なにこれ?」

「肉だよ。ここに生鮮食品を冷凍してある」


 食事を終えて、篤人さんに食料を確認したいと申し出ると、キッチンの奥の倉庫に案内してもらった。

 倉庫の鍵も既に渡されている。

 倉庫の一角に冷凍室もあった。


 冷凍室ってなんだ、冷凍庫じゃないのかというツッコミは“志島家だから”で済んだ。

 けど、これは何?


 目の前には、丸々一頭かと聞きたくなるような肉の塊がフックに吊るされていた。


 これって一般宅にあるもの?


 疑問に思っても、口には出さなかった。

 それよりもパックのお肉が大量に置かれていたのが気になった。よく見ると魚も混じっている。


「ああ、それは近くにスーパーとかで賞味期限ギリギリのものを持ってきたんだ。支払いは済んでるよ。電気が通っているのは近場だとここだけだろうし、肉も無駄になら無い」

「・・・なるほど」


 いや、なるほどってなんだ!?

 自分で自分にツッコミを入れる。


 この金額をキッチリ支払ってきた、となると恐ろしい額だ。

 内心震えるが、篤人さんのことだ消費税までキッチリ計算して支払ってきたのだろう。

 そんな額がよく現金で持っていたものだ。


 急に自分の身近なもので、ポンッと沢山買われると、お金持ちなんだと意識してしまう。


 篤人さんには悪いけど、プラスチックトレイの肉を持っている姿が似合わない!


 そんなどうでも良いことを頭に浮かべていると、篤人さんが振り向く。


「一応、ここの肉は考えながら使用して欲しい。万が一の時はここの電気を落とすことを考えているからね」

「・・・分かった。お昼から使うようにするね」


 急な真面目な話に、篤人さんを見上げる。

 玲奈ちゃんの栄養を考えるとできる限り残したいけど・・・。

 万が一急に電気を落とすことになったら、今は秋とはいえ、冷凍庫の中身が腐っちゃうしね。


「これからのことだけど、できる限り周囲にはこの家に誰もいないと思わせたい」

「身の安全の為ってことだよね」

「うん、昨日もカーテンを締め切って部屋の消灯を早めたのもそのため」


 ここ暫く過ごしていた体育館の様子が頭に甦る。

 余裕のない人間の怖さを、身に染みて理解させられた。


 鍵がかかる部屋、シャワーも出来て一人になれる空間。

 それが無い場所だった。


 夜もまともに眠れず、日が出ている内に仮眠をとって、また来る夜を警戒しながら過ごす。


 ここの快適さと比べると安心感も快適さも雲泥の差に感じる。


 それがあると知られれば、ここを襲ってでも手に入れようとする人もきっと出てくる。


 学校で過ごした恐怖を思い出して震えそうになる身体を、自分で宥める。


「分かった。夜ご飯は昼の内に作るようにするね。夜だけ温めのためにカセットコンロを使えば節約にもなるし、煙も気にならないでしょ」


 篤人さんは、私をジッと見て頷いた。


 どうやら篤人さんの中の何かに私は合格したらしい。

 私の前を歩く篤人さんを見る。


 相変わらず、彼の腹の中は読めない。きっと今の仕草だって、私に気づかせるために出したのだろう。


 篤人さんからの信頼はまだ得られていないという証拠。今後も行動には気をつけてということだろう。


 まぁ、それでも良いか。

 今の私にとっては、寝床とご飯があれば十分だった。

 景子の顔が浮かんでも、そっと消す。

 まだ景子のことを考えたくは無かった。


 倉庫から必要なものだけ持って、リビングに戻る。


 手にはピザの具材。今日のお昼はピザだ。

 ピザにしようと思ったのは、トマトの期限が気になったからだ。


 玲奈ちゃんは一人でリビングに居た。

 大きな犬のぬいぐるみが玲奈ちゃんの隣に居る。

 一緒に居た筈の坂堂さんは、今は居ないみたいだ。篤人さんもすることがあると、倉庫で別れている。


 一人で本を読んでいる玲奈ちゃんを見てふと思った。


「玲奈ちゃん、今からピザを作ろうと思うんだけど。玲奈ちゃんも作ってみる?」


 キョトンと私を見る玲奈ちゃんは、お人形のようでとても可愛らしかった。



「さらちゃん、手を洗ったよ」


 玲奈ちゃんが手を見せてくれる。


「うん、バッチリだね!じゃあ、今からピザを作るんだけど、玲奈ちゃんはどんなピザが好きかな?」

「うーんとね。わたしは、チーズがたくさんのピザが好きだよ。でもね、お兄ちゃん達はお肉がいっぱいのが好きだよ」

「そうなんだね。私もチーズのが好きだな。マルゲリータも作りたいから3種類作るのはどうだろう」

「3つも作るの!?」


 玲奈ちゃんがキラキラとした目を向けてくる。

 そんな玲奈ちゃんに頬が緩む。

 あの篤人さんの妹とは思えない可愛さ。

 篤人さんとの会話で緊張した心が癒される。


「玲奈ちゃんはチーズの方で、私はお肉の担当でどう?マルゲリータは二人で作ろっか」

「うん!」


 玲奈ちゃんがニコッと笑った。


 二人で外に出ると、早速生地を作る。

 秤で量をちゃんと計って、ボウルに入れて捏ねる。

 白い粉を頬に付けながら、頑張る玲奈ちゃんの手助けをしつつ、ピザ窯の火をくべていく。

 同時に水も鍋で火に掛け、トマトの湯剥きもしておく。


「さらちゃん、コネコネ出来たよ!」

「どれどれ~、良い感じだね!」


 確かめながら、追加でしっかりと混ぜておく。


「これは少し置いておいて、今から具材を準備をするね」

「はーい」

「玲奈ちゃんは今から始めに塗るトマトソースを作ってもらうね。玲奈ちゃんはお料理したことあるかな」

「ないよ。してみたかったけど、仕事を取っちゃダメって言われたの」


 そうか、お手伝いさんが居たから。

 玲奈ちゃんに手伝ってもらうのを篤人さんが快く想わないかもと思ったけど、玲奈ちゃんがポツンと一人で居るよりは良い。


 必要な具材を切っている間に、玲奈ちゃんにはトマトを潰してもらう。

 お肉が好きと言っていたので、照り焼きピザにしよう。


 上に乗せるトマトを切ったついでに玉ねぎと鶏肉も切っておいた。それを炒めて、味付けをする。


「トマトつぶしたよ!」

「玲奈ちゃんありがとう。綺麗に潰れてるね」


 玲奈ちゃんが嬉しそうに笑う。

 それも火に掛けソースを作って完成だ。


「生地を今から伸ばすね」

「まぁるくすれば良いんだよね。やってみたい!」

「それじゃあ玲奈ちゃんにお願いしようかな」

「うん!」


 玲奈ちゃんが生地を綿棒で伸ばす。

 1枚目より2枚目、2枚目より3枚目と段々上手になってくる。

 玲奈ちゃんは器用なんだな。


 玲奈ちゃんが丸く伸ばしてくれた生地の上にトッピングを乗せていく。


「玲奈ちゃん、チーズどうぞ」

「うん!」


 玲奈ちゃんが沢山乗せている横で、照り焼きピザとマルゲリータのトッピングを乗せていく。


「マルゲリータにバジルは乗せないの?」

「それなんだけどバジルが無くてね。ソースになっているのはあったんだけど」

「ちょっと待ってて!とってくる!」


 玲奈ちゃんが止める間もなく、行ってしまう。


 玲奈ちゃんがいない間に使った鍋とかを洗っておこうかな。


 玲奈ちゃんの方が詳しいから着いていかなかったけど、バジル分かるかな?

 というか、とってくるって、採ってくるってこと?

 あの温室にあるのかな?


 あそこには勝手に入らないでと言われているので、中を覗いてない。


 心配はしながらも、手はしっかりと動かす。

 今気づいたけど、二階から篤人さんがこちらを見ている。


「さらちゃん!これで良い?」


 玲奈ちゃんが息を切らして持っているものを見せてくれる。

 艶々としているバジルが握られていた。


 温室は玲奈ちゃんが植物を育てているんだろう。

 温室の中が気になるが、それよりもピザだ。


「うん、ありがとう!早速これを乗せようね」


 トッピングをしている玲奈ちゃんのサポートをしながら、恐る恐る上を見上げると、ヒラリと手を振られた。


 バレた!

 気まずさから一瞬固まったが、玲奈ちゃんに呼ばれて、トッピングを再開する。


 でも、篤人さんが止めに来ないっていうことは玲奈ちゃんにお手伝いをしてもらうのは良いっていうことかな。


 きっとそうだと、自分を納得させて、トッピングが終わったピザを焼いていく。



「さらちゃん、どうしたの?」

「なんでもないよ・・・」


 クビになったらどうしようと、思いながら玲奈ちゃんの頭を撫でた。


「玲奈も紗羅もとっても美味しいよ」

「上手いな」


 完成したピザを食べている二人を見て、ようやく安堵した。

 玲奈ちゃんとハイタッチをする。


 玲奈ちゃんが楽しんでいたことを沢山篤人さんに話してくれたのもあって、クビは大丈夫そうだ。

 玲奈ちゃん様々だ。

 次は玲奈ちゃんが好きだと言っていたプリンを一緒に作るのも良いかもしれない。



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