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4、お世話係始動


 志島家の外で早速初日の朝ごはんを作り始める。

 外と言っても、広すぎる庭の中だが。山が庭とは一体どう言うことなのか。

 世の中の理不尽さに悲しくなる。


 昨日は疲れているだろうからとレトルト食品に頼るものになった。

 今日も大丈夫だと言われたが、このままなにもしなくては確実に家から叩き出されると思い、無理に朝食の権利をもぎ取った。

 あの委員長のことだ。見限る時は一瞬で判断する。


 まだ5時台なので、玲奈ちゃんを起こすのはまだ先だ。

 久しぶりのプライベート空間に爆睡できたのか、身体が軽い。


 腕まくりをして手を洗う。

 昨日はレンジを使ったが、できるだけ節約しておきたいとのことだ。


 基本は事足りているが、外の認証ロックの門など、他の家には無いものも多いらしく、できる限り電気の節約をしたいと言っていた。


 キャンプの飯盒炊飯を思い出しながらの調理に緊張する。米は30分ぐらい水に浸けておくはずだ。

 今回は井戸水は使わずペットボトルの水で米を炊く。磨ぎ汁は後で食器洗いに使うので横に置いておく。ここで貧乏性が役に立った。


 バーベキュー用の網の下に炭と新聞紙を置いてマッチで擦る。

 しばらく火の番をしてしっかりと炭に火が移ったのを確認した。

 サバ缶を開けて、網の上に置いておく。その中には刻んだ生姜を入れる。

 缶詰めは飽きたと言っていた玲奈ちゃんのために、味に変化を着けてみた。


 4人分だと結構な量だ。


 男子高校生が2名だと食事量も多くなる。運転手だった彼は、別の高校の3年生らしい。名前は、坂堂(バンドウ)栄志(エイシ)だ。社会人だと完全に思っていたので、自己紹介の時にとても驚いた。


 老け顔のせいで、社会人だと思っていたのだ。

 さすがに失礼なので、顔に出ていなかったと信じたい。

 免許に関しては、聞くのが怖かったので聞けていない。知らない方が良いこともある。

 

 電気は使えるが、使用量に限りがあるので調理には基本使わない。

 身体の弱い玲奈ちゃんがなんでも出来るようにと、家には色々と設置してあるらしい。

 玲奈ちゃん様々だ。


 ピザ窯が家に置いてあると知った時には、ものすごく驚いたが。


 飯盒を火に掛け、大きな鍋に水を入れて沸騰するまで、他のことをする。

この水もここの井戸を汲んできたものだ。水質には問題ないらしい。

 水を汲むなんて初体験で、出てきた時は感動した。


 次は、程よく温まった缶詰めを皿に入れていく。本当は汁物も付けたいが贅沢は言っていられないだろう。今後の見通しが立つまでは計画的に食料を使わなくてはいけない。

 他の食料は、今日しっかりと確認して、缶詰めは賞味期限が長いから節約したい。


 それに、志島家では、地下に図書館があるらしい。

 先々代の趣味の塊と委員長は言っていた。


 そこでサバイバルに関して、何か参考になりそうな本でもあれば嬉しいけれど。

 

「おはよう。紗羅は早いね」


 気だるげな様子で外に出てきたのは、委員長だ。髪をかき揚げ、黒ぶち眼鏡は胸ポケットの中。無防備な姿にドキリとする。

 あくびを噛み殺して、ポケットに手を入れている。

 そういえば、委員長呼びはやめて欲しいと言われたんだった。

 それに志島と呼ぶと、ややこしいのだろう。下の名前で呼ぶように言われている。

 言いにくいなと思いながら、挨拶した。


「おはよう、篤人さん」


 朝は苦手だと言っていたが、今はまだ6時にもなっていない。無理に起きてきたのだろう。

 ぼんやりとしている篤人さんに、沸いたばかりの湯でインスタントコーヒーを作る。

 インスタントコーヒーなんて飲むとは意外だったが、お手伝いさんに暇を出してからスーパーで購入してきたらしい。

 お金はレジ台の上に置いたと言っていた。

 律儀なのか何なのか。


 ベンチに足を組んで座る篤人さんに、カップを渡す。

 横目で飲んでいる姿を見ながら、米のようすを確認する。もう弱火にしても大丈夫そうだ。火から離れた位置に置き直す。


 それにしても、篤人さんなんて呼び慣れない。玲奈ちゃんに言われたからと言って、高校の同級生を名字ではなく、下の名前で呼ぶなんて、基本的に無いことだ。


「髪、切ったんだ」


 唐突に後ろから声をかけられる。

 振り向くと、篤人さんがジッと私を見ていた。

 髪と言われたので触ったが、ロングだった髪は昨日のうちに肩の上になるぐらいまで切っている。


 これも水の節約のためだ。貯めた雨水と井戸のお陰で水はあるけど、髪の毛を洗うと結構な量を使うことになる。

 誰に言われるのでもなく、自主的に切っていた。

 髪型に拘りが無いが、変な髪型にならないようには気を付けた。


「変かな?」

「いや、似合ってる」

「なら良かった」

「もし切ることがあったら、お願いしようかな」


 中々の無茶振りを仰る。

 無言でいると、肩をすくめられた。


 冗談って言って欲しかったんだけど。


「はよ」

「おはよう栄志」

「おはようございます」


 のっそりと山の方から坂堂さんが出てくる。

 片手にはバケツ。反対の手は箒を持っていた。


 結構朝早くから居た筈だが、いつの間にか山に行っていたのだろうか。

 しかも、何かの掃除まで終えている。


 坂堂さんと篤人さんがアイコンタクトを交わしている。

 それには、そっと気づかないふりをした。

 まだ私には話せないこともあるのだろう。

 当然のことだ。


 せっせとお皿をテーブルの上に並べる。今日は、篤人さんの希望で外で食べるらしい。


「玲奈ちゃん呼んでくるね」

「分かった」


 篤人さんが頷いたのを確認して、部屋の中にさっさと戻っていく。


「じゃあ、いただきます」


 着替えを終えた玲奈ちゃんも席に座ると、篤人さんの一声で食事が始まる。


 こうして、新たな1日が始まったのだ。



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