18、新たな仲間と怪しい人間
「で、助けられたことには礼を言うが、アンタは誰だ?」
坂堂さんがモンスターの側に立って、飛び出してきた相手を睨み付ける。
白と黒のモンスターは、完全に沈黙していた。オーラがしばらくしたら消えたので間違いない。
「失礼した。私が居なくても大丈夫だとは思ったんだが、ついつい加勢をしてしまった」
坂堂さんとは同じくらいの背丈の男。年齢は40代ぐらいだろうか。
ニッコリと微笑む様は、紳士的だ。
『うぇ、アイツ腹黒そうだね』
「・・・」
鱗太郎の頭を黙って撫でる。
鱗太郎はモンスターが倒されたと判断するとすぐに私の元に戻ってきて、車内には入らないまま、外で待機をしている。
鱗太郎には無言で返したが、完全に同意だ。
それに、鱗太郎の隣にいる黒いミニサイズのイルカも気になる。
鱗太郎があの男から庇ってはいるが、今もプルプルと震えていた。
あの身体能力、力を持って訓練をしている人間の動きだった。それにオーラが淀まずに循環している。
「私より、アレは良いのかい?」
男が手に持っていた鉈を鱗太郎に向ける。
鱗太郎が威嚇しようとするのを手で止めた。
男がそれを見て一歩近づこうとする。
明らかに鱗太郎を見ていた。
悪寒に鱗太郎を抱き上げる。
篤人さんは男の行動に警戒を示すように、私の姿を隠した。
「ああ、まぁな。それより、名乗ってもらおうか?」
「おっと、すまないね。私は佐々木だ。生き残ったもの同士仲良くしよう」
「仲良くするかは、アンタ次第だな」
坂堂さんは警戒を解かないまま、差し出された手を握る。
当然だ。佐々木と言っているが本名は不明。鱗太郎に向けられていた殺気を、すまないと言っているわりには全くその気持ちは伝わってこない。
「そう冷たいことを言わないでくれ。今は非常時だ。お互いの助け合いが大事だろう?」
得体の知れない佐々木に警戒を増す。
その非常時だから、注意をしているんだけどね。
鱗太郎を抱く腕に力を込めた。
男は自分の拠点に案内すると言った。
坂堂さんも嫌そうな顔をしていたが、言いくるめようとしてくる相手にうんざりして、拠点に行く事になった。
篤人さんも結局絡まれたままなこの状況を、逃げるのは得策ではないと判断した。
こちらは玲奈ちゃんの姿は見られていないので、隠したままだ。
佐々木が乗ってきたバイクの後を追う。辺りを見れば所々に破壊された後があった。
「紗羅どう?何か見える?」
「私の視界の範囲にはオーラが見えないよ」
力を使うとオーラが見える。あの戦い以来、佐々木からもそんなオーラは見えなかった。
「そう、ならそのまま警戒を続けて。鱗太郎は、その連れてきちゃった仔の説明をお願いしようかな」
私とは反対の窓から外を監視していた鱗太郎が、その言葉に尻尾をピンと立てる。
私以外には黙って乗せていたのだ。玲奈ちゃんは初めて見るモンスターに目を輝かせている。
窓に反射して、私にも二人の様子が見えている。
鱗太郎はあきらかにバレた!って反応をしている。
「ああ、さっきから大人しく乗っているやつな」
坂堂さんも持ち前の勘の鋭さで、同意する。
『え、えっとね』
「大丈夫でございましゅ。自分で話せましゅ」
「わぁ、お喋りできるんだね!」
「ぼくは鱗太郎兄さんとは違って、口の構造が人間寄りなんでしゅ。だから、人間の言語の発音で話せましゅ」
黒いイルカに似ているモンスターが自信満々に言う。
末尾が“しゅ”になってるよとは、突っ込めなかった。
黒いイルカのぬいぐるみみたいなミニサイズ。尾びれで上手にバランスを取って、立っていた。
玲奈ちゃんがかわいい!と抱き締めそうになったところ、篤人さんがストップをかける。
玲奈ちゃんは不満そうだけど、篤人さんの言うことはきちんと守っている。
玲奈ちゃんの言う通りかわいい姿だ。
「で?君はどうするつもりなのかな?」
「ぼくは鱗太郎兄さんに負けまちた!その上あの怖い奴から守ってもらいまちた。だから、兄さんの軍門に下るでしゅ」
軍門?妙な言い回しだ。普段の聞きなれない言い方に首をかしげる。
それに負けたというよりも、鱗太郎が首のところを甘噛みして、運んできたのが真相だ。
「そうか。じゃあ、紗羅と契約を結ぶつもりなのかな」
「もちろんでしゅ!」
えっ、また契約をするの!?
ドアの窓から車内に視線を戻す。
篤人さんに微笑まれて、窓をノックされた。慌てて視線を戻す。
よかった。ちょっと目を離している隙に何も無かったみたいだ。
「なるほどね。契約をするのなら、絶対に紗羅の服従だよ?」
「分かってましゅ!契約の陣に入っておりましゅから!」
当の本人抜きで、契約の話が進んでいく。
私の意見はどこに!
どうせ私が契約しようかという考えを持っていたのも、篤人さんには見抜かれていたのだ。
相変わらず、めざとい。
それに色々と情報が手に入る可能性がある。打算も含めた契約だ。
純粋な重いからじゃないけど、彼?彼女?と一緒に暮らす際には、過ごしやすいように配慮するるもりだ。
黒いイルカは私のそばまでやって来ると、胸びれを揃えて、ぺこりと頭を下げた。
か、かわいい。
「お願いちましゅ」
「う、うん。でも、聞いても良いかな」
「何んでしゅか?」
「君は私で良いの?」
私にとって、そこに確認は大事だった。
黒いイルカと向き合う。
契約が存外重いことを知ってしまったのだ。鱗太郎は初め、私に契約のことを具体的には言わずに結んだ。
だから、鱗太郎から破棄できないのを後で知ってしまった。
そして、私の命令に背けない。忠言はできてもそれだけなのだ。
「もちろんでしゅ」
「本当に?」
「僕たちにとって、強さは絶対でしゅ。僕はあの白黒のモンスターに捕まって、人間を狩る知恵を出せと言われまちた。次はあの佐々木に狙われて、庇ってくれたのは兄さんでしゅ」
だからお願いちまつ、と黒いイルカが頭を下げる。
「私はたしかに貴方の主になる。けど、思うことがあったら、ちゃんと言ってね。これは約束だよ」
「分かりまちた」
黒いイルカは、魔方陣を出す。
最近この魔方陣の意味を鱗太郎と勉強したのだ。
篤人さんの言っていた通り、主への絶対服従が盛り込まれている。
私の手の魔方陣が光って、直ぐに収まる。
「調子はどう?」
「大丈夫だよ」
黒いイルカとの縁も深く感じる。
「ありがとう紗羅。急がせてごめんね。これで向こうも言い掛かりは付けにくいと思う」
「それだと良いけど」
向こうの考えは読めない。
なんで自分の自陣に誘ったのか。私たちをどうするつもりなのか。
まさか、この状況で未成年の保護だとは思わない。
隙は無い方が良いに決まっている。
不安になりながら、車の外の安全を確認する。




