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16、異変は急速に


「色々と厄介だね」


 篤人さんの言葉に頷いて、地面の上に置かれたものを見る。

 ここ最近現れ始めた謎生物の遺骸だ。

 謎生物は言葉にすると長いので、最近はモンスターと言っている。


 今回問題になっているモンスターは、カラスの形をしたカラスではないものだ。なんせコイツら飛びながら、インコみたいに話していた。

 おしゃべりしすぎて騒がしいくらいだったのだ。

 一発で分かる異様さに、篤人さんは躊躇いなく、壁で墜落させて、鱗太郎が仕留めて退治した。


 生きている間に培ってきた倫理観が、殺してしまうことに対する嫌悪感を募らせてくるが、割りきらなければいけない時だ。


 篤人さんが玲奈ちゃんと一緒に中に入るように言ってくれたが、これからのことを向き合う為には、今はしっかりと見ておかなくてはいけない。


 篤人さんが気遣うように私の側に立ち、坂堂さんがしゃがみこんでモンスターの羽を持ち上げている。

 その手には、一応死体なのでゴム手袋を嵌めていた。


 あれこれと検分するが、プロではないので見た感じだと、カラスと変わらないように感じた。


 坂堂さんが手を合わせて立ち上がる。


「飛行系のモンスターは厄介だな。俺じゃ完全に届かねぇし」

「今回は日本語を話していたから分かったけど、すぐにモンスターだと判断出来ないのが現れた時が、特に要注意になるね」


 坂堂さんと篤人さんは、二人そろって嫌そうな顔をしている。

 空から攻撃されるなんて誰も基本考えてないからね。

 二人の話している内容で一つ疑問に思ったことがある。


「二人ってもしかして、力のオーラみたいなの感じ取れないの?」

「オーラ?」

「何か力を使ってると、使われている場所に靄が見えるとか」

「俺は見えたことないね。栄志は?」

「俺もねぇな」

『多分、主様だけだと思うよ。慣れたら二人も出来ると思うけど、二人とも力のタイプ的に向いてないから』


 驚きの答えが鱗太郎から帰ってきた。

 全員見えるものだと思ってた。


「なら、今度から紗羅と玲奈も連れてくべきだね」

「なんで玲奈ちゃんまで!?」


 まだ8歳なんだよ!?

 モンスターが出てくる場所に、連れ出すなんて!

 篤人さんが真っ直ぐ私を見てくる。


「二つの理由がある。

俺達では、モンスターかどうかを判断するのに時間が掛かるのに一点。ここが安全では無いことがもう一点。

二人をここに置いていくことはできない。それは元々考えていたことだよ」


 その言葉に押し黙ることしかできない。

 確かに篤人さんの言うことは正しい。


 私をここに連れてきて玲奈ちゃんの面倒を見させようとした時も、ここが安全であることが前提だったはず。


 この異変が起きて実際、二人でこの屋敷に残されたら、ちゃんと戦えるのは鱗太郎だけだ。

 玲奈ちゃんの植物と友達になれる力も使役では無い分、身の危険に対応できるのかが分からない。


 篤人さんが、玲奈ちゃんを危険にさらすことを望んでいないことは分かる。

 でも、外の情報の重要性は前にも増して上がっている。

 外に行かない選択肢は存在しない。


「ごめん。余計なことを言った」

「謝ることはないよ。紗羅の役割は、玲奈の身の回りのことの世話。当然の反応だよ」


 篤人さんの手が私の頭の上に乗る。

 すぐに下ろされて、何事も無かったかのように会話が続けられた。


 なんで撫でた!?

 篤人さんの思いも寄らない行動に、動揺しながら大事な話が抜けてしまわないように、注意して聞く。


 坂堂さんも始めは驚いていた癖に、今はニヤニヤしながら私を見ている。


 坂堂さんを睨み付け返して、バクバクと激しく拍動する心臓を宥めた。


 きっと篤人さんは、身内に入れたら、甘いタイプなんだ。

 きっとそう!


 動揺する私とは反対に、淡々としている篤人さん。

 2、3日は動揺していたが、何事もなかったような態度を取る篤人さんに外に出る準備に追われて、忘れ去っていった。


「出発日和だな。なぁ、鱗太郎〜」


 坂堂さんは、鱗太郎に栗をあげている。

 わざわざ硬い皮を剥いての甲斐甲斐しいお世話だ。鱗太郎は、当然のように口を開けて栗入ってくるのを待っている。

 坂堂さんは意外と可愛いものが好きらしいが、鱗太郎は基本なんでも一人で出来る。甘やかさないでほしい。


 坂堂さんに呆れながらも、必要なものを入れてトランク閉めた。


「坂堂さん、後ろに毛布と非常食を詰めたよ」

「おう。ワリィな。重たかっただろう」

「五人分だからね。一応一緒に着替えも入れてあるよ。それより、この車本当に大丈夫?」


 この車は、前に二人が外に出た時に使ったものだ。

 つまりモンスターを轢いた車ということになる。

 前が少しへこんだ跡がしっかりと残っていた。


 モンスターに遭遇した縁起の悪い車だけど、これが一番丈夫らしい。


「中は大丈夫だったからな。他の部品で交換出来たら良いんだが、生憎ここには同じ車種のが無くてな」

「ふーん。大丈夫なら良いよ」

「二人とも準備ありがとう」


 篤人さんが眼鏡を掛けながら、玲奈ちゃんの手を引いて歩いていくる。

 なんだか疲れているようにも見えた。


「私たちよりもそっちのが大変だったんじゃない?」

「あの木は一度栄志に叱られてるから、前よりは大丈夫だったよ」


 あの木というのは、玲奈ちゃんの植物園で暴れまわっていた例の木だ。

 坂堂さん叱られてから玲奈ちゃんの面倒を見るようになった。

 お陰で水やりはかなり楽になっている。


 そんな感じで良い子だった木も今回は抵抗してきた。

 それを頑張って説得したのだろう。


「お疲れ様」


 気丈に振る舞っているが、気疲れしているのが分かる。


 用意していた飲み物を篤人さんに渡した。




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