15、植物園
木が根っこむき出しで立っていた。
むき出しの根っこはムチのように、振り回している。
木って動いたっけ?
その木の根は緑の透明な壁に弾かれていた。
注意してみれば、篤人さんから力が流れている。
結界と言えば平面なイメージが勝手にあった。円柱形もできるんだ。
非常識的な光景が目の前で繰り広げられているせいで、思考がおかしな方向に飛ぶ。
「ああ、二人とも。こちらは無事だよ」
「さらちゃん!」
玲奈ちゃんが駆け寄ってくるのを抱き止める。
篤人さんは、此方に手を振る余裕な態度だ。今も壁に激しく木の根がぶつかっているけど、全く木にした様子がない。
一周回って、木が可哀想に思えてくる。
「怪我はない?」
「うん!お兄ちゃんが守ってくれたから大丈夫だよ」
それに一安心して、篤人さんの方を向けば、そちらも坂堂さんが確認していた。
篤人さんの方も怪我は無いみたいだ。
ほっと、安堵の溜め息をつく。
「それで?あれは何だよ?」
「玲奈の木が急に動き出したと思ったら、暴れだしたんだ。結界でこの木を閉じ込めるのが精一杯で、他のは後回しにしてた。野菜と花の苗は玲奈の後ろに隠れている」
「は?」「・・・?」
玲奈ちゃんの後ろを見れば、苗が震えながら、玲奈ちゃんにくっついていた。
その震え方は、怯えているみたいにも見える。
ここまで感情あらわだと、植物に見えない。私には可愛く見えない。
『玲奈ちゃんは、植物とお友だちに慣れる力なんだね』
「植物と友達?」
『うん、主様みたいに主従関係を結ぶんじゃなくて、お友だち!玲奈ちゃんが一生懸命お世話してたもんね!』
まるで良かったねとでも言うような口調。
「じゃあ、なんで木はこんなことになってるわけ?お友達なんでしょ?」
『うーん、たぶん嫉妬したんだよ!もっとお世話してって、仲良くしようって!』
「「「嫉妬・・・」」」
言葉が被った。
頭の中は植物は嫉妬するのか、と疑問符が浮かんでいた。恐らく二人もそうだろう。
玲奈ちゃんは、いまいち良く分かっていなさそうだ。
「花がら摘みをしていたな・・・」
篤人さんがボソッと呟いた。
眉間にシワが寄っている。
「・・・花に嫉妬ってこと?」
「おそらく・・・」
常識が塗り変わりすぎて、二人して思考が制止している。
結構激しく壁を叩き続けている木をまた見つめる。そうだと言っているように葉の部分が枝ごと上下に揺れている。
自己主張が激しい・・・。しかも、話が聞こえてるし、通じている。
枝が折れてしまわないか心配になる。
そんな時、何処からかブチッと何かを引きちぎった音がした。
「つーか、仲良くしたいなら、んなことしてんじゃねぇ!」
坂堂さんが木に向かって説教を始めた。
木が坂堂さんの声に驚いたように、一瞬飛び上がって見えた。
木も木だけど、坂堂さんにとっては気になるところ、木が嫉妬することの次にそこなんだ。
坂堂さんに言われれば言われるほど、結界に振るわれていた木の根がしおしおと萎えていく。
打たれ弱いんだ・・・。
「傍目から見ると結構シュールだね」
「うん。まぁ、この木も俺たちに直接当てるようなことはしなかったよ。結界を張るまでは、攻撃もゆっくりで躱せたから」
篤人さんが冷静に避けていたのが想像できる。
「怪我がなくて良かったよ」
「心配してくれてありがとう」
「どういたしまして」
一人と一本を見ていると、鱗太郎と玲奈ちゃんが隣でごそごそと何かをしている。
「うーん、この子はここで、こっちの子はここは?コイビトどうしなんだって」
『へぇ、じゃあ君はこっちね』
恋人同士という言葉に二人を見る。
二人が苗に指示を出して、植えるところを決めていた。
そういえば、苗が独りでに歩いていたな。
苗に恋人が居るんだとは、口に出せなかった。
二人が指差す場所に、苗が自分で埋まっていく。
わぁ、スコップ要らず。
それを見ながら、地面に腰を下ろした。
良く見れば、植えている最中の苗も、他の苗の花の向きが全て玲奈ちゃんを見ている。
ゾワッと鳥肌が立った。
ホラー小説で出てきそうな光景に、腹の底がヒヤリとする。
ここ最近、ホラーな展開に遭遇することが多い気がする。
嫌な縁を神社でお祓いをしてもらいたい。
そんなことは到底無理なのは分かっている。慣れるまでここの植物園は一人じゃ入れないな。
そっと視線をそらして見ないようにした。
同じように篤人さんも隣に座った。
篤人さんが地面に座るなんて、余程のことだ。それほど疲れたのだろう。
メガネを外して、目頭を揉んでいる。
「それにしても、玲奈が植物と通じ合えるなんて」
「もう今日は驚くことが多すぎて疲れたけど。食料問題は少しは改善できそうなのは、ちょっと安心かな」
「うん、数年はもつけど、いつまでこの状況か分からない以上、衣食住は必須だからね」
やっぱりその事も気掛りの一つだったんだ。
今回は驚かされたけど。良い方向に食料事情が前進したこともある。
篤人さんが私を見ないまま、口を開く。
「もうすぐ一ヶ月経つけど、ここに居るのは慣れた?」
「私はね。そっちこそ警戒心強いくせに、よく私をここに招きいれたよね。来たばかりの頃はよく目の下に隈を作ってた」
今思っても警戒をして、夜あまり眠れて居なかったんだろう。
玲奈ちゃんと一対一で二人きりになることも少なかったし。
「知ってたんだ」
「まぁね」
「よく周りを見てる。そういうところも買って連れてきたんだよ」
「心配もしてくれてたんだよね」
ついつい内面を見せない篤人さんをからかってみたくなる。
篤人さんの顔を覗き込む。
顔を横にそらされた。
あっ、これは照れてる。
「そういう訳ではないよ」
「篤人さんが学校に情報収集に来るのは分かるけど、態々私に接触する必要はないのに苺飴くれたでしょ。今は貴重な糖分なのに」
「必要があったからね」
「素直じゃ無いね。耳赤いよ」
慌てて耳を抑える篤人さんが面白い。
いつも余裕綽々な感じに見える分、そういう人が動揺するのは気分が良い。
自分でも性格が悪いなと思いながらも言葉を続ける。
「私は、その優しさに救われたんだよ。篤人さんにとっては合理的じゃないって思っているかもしれないけど。本当にその部分に救われた」
「・・・」
「ありがとう。ちゃんと言って無かったよね」
「・・・僕は自分のそういうところが嫌いなんだよ」
篤人さんは苦り切った顔で呟く。
それもきっと本心なのだろう。
アンバランスな人だ。
そんなところが見えなかったら、私は篤人さんを嫌ったままだっただろう。
「分かってる。だから私が勝手に助かったって思ってるだけ」
ニヤリと笑えば、ジロリと睨みつけられる。
「どういたしまして」
ポツリと呟くと、篤人さんは腰を上げて坂堂さんの方へいく。




