13、変化
『名前を付けてほしい!』
「名前?」
『うん!』
テーブルを拭いていた手をしていた手を止める。
しばらく様子をみていた生物は何をするでもなく、食っては寝てのだらけた生活をしていた。
見るに見かねた篤人さんが生物に色々と知識を仕込んで、火の番ぐらいはできるようになっていた。
今では、主様と呼ぶ私よりも篤人さんのが主人みたいになっている。しかも、ボスと呼んで変な渾名まで付けていた。
因みに、玲奈ちゃんとの接触禁止令も解かれていた。
それにしても、名前かぁ。
私、ネーミングセンス無いんだよね。
今だって、“カエル”だとか“ウロコ”だとか、自分でも無いなと思う名前候補しか出てこない。
「お名前決めるの?私も考えたい!」
玲奈ちゃんが本を置いて、生物の頭を撫でている。
玲奈ちゃんに撫でられるのが気持ちいいのか、生物が嬉しそうに尻尾を振っている。
こういうのグイグイいけるの凄いよね。
私は、いまだに怖くて頭を撫でられない。
「玲奈ちゃんはどんな名前が良いと思う?」
「うーんとね。一郎くん!」
「えっ、何で一郎?」
「これからも増えることを考えたら。一って付いた方が良いと思うから!」
・・・玲奈ちゃんもネーミングセンス無かったかぁ。
しかも、これ以上に謎の生物が増える予定なの?それは困る。これ以上増えたら心臓に悪い。
生物もショックを受けて、フリフリ振っていた尻尾が床についている。
一連の流れを見て、椅子に座って爆笑している二人はいい加減にしなよね。
椅子から落ちそうなぐらい腹を抱えて笑っている坂堂さんと、肩を震わせている篤人さんを睨み付ける。
「二人は何か良い案無いの?」
「あー、そうだなぁ。ゴボウとか?」
『ゴボウは料理してある方が美味しいね!』
坂堂さんが悪ふざけを言っている。
この前、玲奈ちゃんがゴボウをそのまま与えていたことを言うと、その時も大笑いしていた。
「栄志、遊ばない。紗羅は候補あったりする?」
「カエルか、ウロコ」
「「・・・」」
「何か文句ある?」
「斬新だね」
「流石に可哀想だろ」
坂堂さんは直球に、篤人さんは遠回しに否定してくる。
生物は口をあんぐりと開けて、私を上目遣いに見てくる。
ネーミングセンスが壊滅的なのは知っているので、押し黙った。
私と玲奈ちゃんで決めたら、生物が可哀想になると思ったのか。篤人さんが少し悩んだ後に口を開く。
「じゃあ沙羅と玲奈の案を合わせて、鱗太郎は?」
「一番まともだな」
「その案で決定で良い?」
『うん!僕は鱗太郎が良い!』
嬉しそうに尻尾を振る生物に初めて可愛いと思った。
恐る恐る手を伸ばす。
鱗太郎の頭を初めて撫でた。
ゴツゴツとしているがひんやりとしている。
不思議な撫で心地だ。
鱗太郎は、尻尾の動き以外はピタリと止めて、私が怖がらないようにしている。
やっぱり、私が生物のことを怖いと思っていたのを知っていたのだ。
今までも、自分からは一度も私に触れてきたことはない。
掌の魔方陣からも鱗太郎が私に気遣う気持ちが流れ込んでくる。
「・・・よろしくね。鱗太郎」
『うん!』
その後も撫でていると、篤人さんが近づいてくる。
「仲良くなったみたいで良かったよ」
「いつまでも怖がってるわけにはいかないから」
「頑張っているね。これ以上何かが起こる前に色々と把握できておけば、きっと何があっても乗りきれるだろうし。玲奈も増えてほしいみたいだしね」
「増えるのは困るんだけど。というか、増やせるものなの?始めは襲ってきたし、何か条件があるのかな」
今更ながら、何でこの状況になっているのかが分からない。
鱗太郎は、強くてって言ってたけど、明らかにご飯に釣られていた。
『うーん、他のとも契約できると思うけど。それはその人を気に入ったらって感じだから、条件は分からない!』
それぞれによって違うってことか。
他のって姿形が違うっていうことだろうか。
鱗太郎が人間の食べ物を好きで良かった。
他のだったら、食べ物に釣られなかったかもしれないよね。
改めてゾッとしながら、鱗太郎の頭を撫でる。食べられてるのは、私達だったかもしれない。
篤人さんもその考えに至ったのか、良い子と鱗太郎を撫でている。
大人しく撫でられてうっとりする姿を見ていると、篤人さんがどんな躾をしたのか気になるが、その内容を聞く勇気はない。
あの生意気な態度から、この従順な態度。
本当に何があったのか。
ゴクリと唾を飲む。
「どうかした?」
「何でもないです!」
一瞬思考を読まれたのかと思って、ドキッとした。
「ねえ、鱗太郎に聞きたいんだけど良いかな?」
『なぁに?ボス』
「何で紗羅は追加で契約できるのに、僕と栄志は出来ないのだろうか」
前に聞いたときは、別の力があるから出来ないって言ってたけど、確かにその感じだと私は鱗太郎と契約していれば、他のとは出来ない筈だ。
『何だろう。えっと言葉に当てはめるのが難しいけど、主様とボスの力のタイプが違うんだよ。それに力も少ないから、他に力を回せる余裕がないの』
「力のタイプって何?」
いまいち意味が分からなくて、口を挟む。
伝言役に徹するには、謎部分が多すぎるよ。
『えっとね。ボスの力は固いけど。主様のは柔らかくて美味しいの』
「力って食べられてるの?」
『うん!送られてきた力を体でグルグル循環させるとポカポカするんだよ!それが好きなんだ!』
まさかの勝手に食べられていた。
衝撃の事実に頭を抱える。
私やっぱり、鱗太郎とは仲良く出来ないかもしれない。
鱗太郎からそっと手を離す。
鱗太郎は首をかしげて私を見る。
視線で撫でてほしいと訴えてくるが、もう一度手を伸ばす勇気はなかった。
おののいている間も二人の話しは続いている。
篤人さんは、ちょっと私を心配してくれても良いと思う。
『えっと、地震が起きた後、ぶあっと力が色々なところに飛び散ったんだ。そのときは海のなかに居たから、地上にいつ届いたのかは分からない』
「それは大丈夫なやつ?」
『多分?』
「多分って不安が残る言葉だね」
篤人さんの言葉に頷く。
『生き物を変化させやすい力って感じだから大丈夫だと思う!』
「変化させやすいってどういうこと?」
『僕が海の生物から地上に出て、喋ってるよ!』
確かにそれを言われると、ものすごい変化だ。
人間のしかも日本語を話すってことは、余程の変化がないと出来ない。
「じゃあ、俺からの追加の質問ね。その力を増やすにはどうすれば良いのかは分かる?」
『増やし方は力があるのを倒して、その近くにしばらく居ると勝手に力を吸収するんだ。後は、力を使ったり、食べたら良いんだよ!練習してるんでしょ?ボスの力の塊大きくなってもん!』
「なる程ね」
納得している篤人さんの肩を掴む。
「練習って何?」
「どうやって壁を出すかっていう練習だよ。今は小さい面でしか出来ないけどね」
「安全性が確認されてないのに、一人のときにしたの?」
あの坂堂さんの様子を見れば、そんなことをしていれば、絶対に篤人さんを止める筈。
なのに、練習をしていたってことは一人の時に黙ってしていたということになる。
怒った風に言えば、ごめんと返される。
その言葉が反省をしている“ごめん”には聞こえなかった。
私が怒っているから、宥めるための“ごめん”だ。
「万が一。他に力を持った人とか生き物が居たら、力を付けないと対抗できないよ。これは本当に異質だと思う。沙羅だって襲われた側だから十分それは理解をしているよね」
「・・・」
理解しているからこそ、言い返せない。
『海から出てくる生き物は分からないけど、地上ではそんなに居ないと思うよ。
皆小さな欠片みたいなのは持ってるけど、それはちょっとずつ過ごしている内に大きくなるけど。本当にちょっとだけだから』
「じゃあ、私は鱗太郎と契約したから、篤人さんと坂堂さんは、偶々謎生物を倒したからってこと?」
『うん、それで欠片に一杯力がつまって、力事態を使えるようになったんだよ。今は空気中にも広がっているから、力を使えば不足したものを無意識に体が摂取してるんだと思う。他の人が力を使い始めるのは、もっと後だよ!』
逆を言えば、時間が経てば力を使える人が増える。
その事に背筋が凍る思いだ。
学校で過ごしていた間のあの理性が限界に達していた空気感。そんな中不用意に力を使えば、一体どんなことになるのか。
想像もしたくない。
それでも、篤人さん一人が背負うのは違うと思う。
しかも、この状況がより悪化をするということは、食料事情も考えなくてはいけない。
「・・・一人で練習するのだけは止めて。せめて、私か坂堂さんが一緒に居る時にして」
そばに居たって何が出きるのか分からない。
それでも、側に居たかった。
「うん。分かったよ」
「それと私も力を使いこなせるようにする。決定事項だから、止めても無駄だから」
「・・・初めに連れてきた時は、借りてきた猫みたいだったのにね」
暗に強気だと言ってくる篤人さんを見る。
「元々はこっちの性格だって知ってるでしょ」
篤人さんが口許を緩めて笑う。
「そうだった。意外と気が強いよね」
「まぁね。褒め言葉として受け取っておくよ」




