10、契約・・・?
リビングのソファーに腰かける。
いつもの定位置とは違う配置だ。
ドア側に座る私はともかく。いつも上座に座る玲奈ちゃんは私のすぐ隣に座り、その隣に篤人さんと、三人で同じソファーに腰かけていた。
篤人さんには、念のためすぐに逃げられるようドアの近くに座らせたいと、事前に聞いていてお茶もその通り並べている。
本当に大丈夫なのかと篤人さんに聞いたら、栄志の勘で大丈夫なら大丈夫だというので、渋々この形になった。
二人とも勘を信用しすぎだ!
そんな私達の視線の先は、例のあの謎の生物だ。
丸くて鱗が生えている大きな瞳の謎の生物。全く図鑑とかでも見たいことがない。
「やっぱりコイツ、中川しか見てないな」
「そうだね」
篤人さんが坂堂さんの言葉に頷く。
私もそう思う。
本当に同じ生物かと思うほど、大人しいその生物は、物凄く視線を突き刺さしてくる。
冷凍室から大人しくついてきて、今も坂堂さんの隣に乗っている。
フライパンで殴ったせいで、注意人物認定をされているのだろうか。
チラリと、横目で視線を送ると、バッチリと目が合う。
それを反らすということを、さっきから繰り返していた。
坂堂さんが謎の生物を指でつついている。
なにその蛮勇!?と思うが、生物は初めの出会いの狂暴さから打って変わって、とても大人しい。
でも、なんとなく不愉快という顔をしているように見えたので、嫌は嫌なのだろう。
「さらちゃんのお友達?」
「違うよ!?」
コテンと小首をかしげる玲奈ちゃんは可愛いが、トンデモナイことをおっしゃる。
全力で否定した。
こんな独特な生物見てたら、いくらボケてても覚えている筈だ。
「やっぱり該当する生き物は見つからない」
篤人さんが物凄く分厚い本を閉じる。
「篤人が探して分からないなら、新種の生き物ってことになるが、そもそもコイツってなんだ?」
「鱗は魚っぽく、四足歩行。目の大きさは蛙に似ていて、肺呼吸ができる生き物」
篤人さんが顎に手を置きながら、ジッと見ている。
その視線に気づいた生物も見返していた。
一時でも、謎生物からの視線が外された。だから完全に油断していたのだ。
「紗羅!」
「えっ・・・」
篤人さんの声が遠く聞こえる。
気づけば、生物が私に向かって飛んできていた。テーブルを気にしない跳躍力に逃げることができない。
生物とぶつかるのを止めようと、手を顔の前に出す。
固い鱗と、右手がぶつかった。
その瞬間、丁度ぶつかったところが淡い水色の光が現れた。
何か光った!?
そう思いながら、篤人さんに手首を取られる。
生物は、坂堂さんに引っ張られ壁に叩きつけられた。
篤人さんは慌てたように私の掌を見ると、眉間に皺を寄せる。
一体何があったの!?
手首を掴まれているせいで、自分では確認ができない。
むしろ、怖くて確認できない。
『主様~』
「は!?」
子どものような声が聞こえてきた。
周囲を見渡しても、声持ち主は誰もいない。
えっ!ホラーなの!?ホラー展開なの!?
私は幽霊とかホラーは映画でも見れない位苦手な分野だ。
こんな声の人は誰もいないし、子どもも玲奈ちゃんだけ。
「どうした?」
「さらちゃん?」
「紗羅、落ち着いて」
三人とも、急に様子がおかしくなった私に声をかけてくれる。
『主様ー。僕だよ!ここにいるよ!』
「だ、誰なの!」
声の主がしきりにアピールしてくる。
本当に見渡しても誰もいないのに。
『もう!大きい人間、僕の尻尾を離してよ!主様の側に行けないよ!』
「尻尾?」
その言葉に、該当するのはこの中であの生物だけ。
恐る恐るそちらを見る。
『あっ!見てくれた!僕だよ!主様!』
あの生物は、こちらを見ていた。
「しゃ、喋った・・・」
「大丈夫か?」
篤人さんが視線の先に気づいて、背中を擦ってくれる。
「あの生物喋ってる・・・」
「・・・俺にはさっぱり聞こえないね」
「コイツが喋ってるのか?」
「・・・?」
坂堂さんが胴体を掴むと持ち上げている。
コクコクと首を縦に振るが、誰にも聞こえていないみたいだ。
『主様だけだよ!僕と契約したんだもん!』
「契約?」
「これのことじゃないかな」
篤人さんが、私の手を指す。
見たくないな、と思いながら自分の掌を見ると、謎の模様が描かれていた。
アニメとかで見るような魔方陣。淡い水色で掌に定着していた。
「・・・石鹸で擦ったら落ちないかな?」
「出来ないと思うよ」
篤人さんに苦笑されるが、嫌なものは嫌だ。
半泣きになりながら、これを付けたであろう謎生物を睨み付けた。




