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おっさん令嬢外伝  作者: 丹空 舞


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15 エピローグ

二人が連れて行かれたのはオリテの王城だった。


「無理を言ったな」

「いえいえ、これくらいのことは」

オリテの兵士は去った。


一人の貫禄のある紳士が、ふかふかした椅子に腰掛けていた。


「あっ? あなたは」

フランが初めに気付いた。


「知り合いか?」

ギルが尋ねる。

世間知らずもここまでくると潔い。

フランは渾身の声で叫んだ。


「王様よ!」

「どこの?」

「ゼガルドのよ!」


フランは混乱していた。


「なんで、オリテに……」





「いかにも。ゼガルドの王は私だ」


フランたちを待ち受けていたのは、ゼガルドの新しい王だった。


(このおじさんが、戦争を始めた張本人……)


フランの店を焼いた元凶が、目の前に立っている。

感情のない瞳でフランは王を見つめた。


過去のあれこれはもうどうでも良い。

しかし、目の前の王様がどういうつもりか知らないが、ギルを傷つけるのなら許せない。


(あたしは無力かもしれないけど、首をはねられたってギルさんと一緒に居てやる)


フランは覚悟をしてギルの腕をとった。




「強引に呼び立てて失礼した」

と、意外にもゼガルド王は謝罪を口にした。


「私はリチャード。貴殿が友人だった、ゼガルドの第五王子の弟、といえば分かるだろうか?」


ギルの顔色が変わった。

「……あいつの弟」


「先日、和平交渉でオリテを訪れたときに、そなたの噂を耳にした。ギルベルトという名前に覚えがあったのだ。やけに見目麗しく、声の良い野菜売りがいると聞いて家来に調べさせた」


リチャード王は話した。


「貴殿が兄と親しくしていたころ、第七王子だった私はまだ母親の腹の中だった。しかし、何の抵抗もせずに処刑されたという兄上や妃たちと違って、私の母親は魔法が少なからず使えた。私の母は抵抗し、逃げ延びた。私は隠れ、生き残り、そして古い政権を打ち倒した。歴史書を調べているうち、王城の倉庫からこれが出てきたのだ」


リチャードはギルに、一枚の羊皮紙を手渡した。


「これは……」

「貴殿への楽譜のようだ。貴殿の名前が末尾に書いてある。会ったことのない兄とはいえ、痛切な手紙のようだった。処刑の当日、部屋に遺されていたらしい」


ギルはじっと羊皮紙を見つめていた。

リチャードは静かに言った。


「ギルベルトよ。私はこのゼガルドを魔法国家にしようと思う。ここには安心して飲める水さえもない。重税に頼らず動く国を作らねばならぬ。民は疲弊し、戦乱の渦中にいる。私にどうか力を貸してくれないだろうか」


ギルは黙り込んで、リチャード王を見た。

リチャードは言った。


「その楽譜を見てくれ。会ったことさえない我が兄の志を、私は継ぎたい」


楽譜には平和の歌が書かれていた。

民が飢えず、生を楽しみ、美しいもので世界が溢れるように。



「あいつの声だ……」


ギルは涙した。きっと、ギルの頭の中には、既に鳴り響いているのだろう。


フランはギルの背を撫でた。

この優しいハーフエルフは、人一倍、美しいものに弱いのだ。


フランには音楽は判らない。

知っているのも民たちが歌い継ぐような曲ばかりで、オペレッタや管弦楽の知識もない。

しかし、フランには、この音楽の神の愛し子のような男が、癒やしを必要としていることだけは理解できていた。


フランは黙ってギルの震える背中を撫で、リチャード王はじっと待っていた。

それはまるで時計が止まってしまったかのような、静かな時間だった。



やがて、ギルは落ちつきをとりもどして、緑の目に涙の膜を張ったまま、しかし毅然として言った。


「殿下。楽譜をくれたことに感謝はします。しかし、これは思い出だ。だから貴殿が信用できるときまったわけではない。そもそも、私には歌うくらいしかできん」


「歌もいいが、貴殿のその魔力が必要なのだ。信用してもらうしかない。私一人では私にやりたいことはできぬのだ」


「何をしようとしている?」


リチャードは本題に入った。



「人間には魔力がある者がいる。エルフではなく、獣人でもない人間は、弱いながらも魔力がある者がいるのだ。その者たちを主とした国作りをする。魔力のない者には酷だが、別の国に行って貰う。レヴィアスならば海もある。きっとあちらか、剣の国オリテへ移住していくだろう」

「そうまでして魔力持ちを優遇するのはなぜだ」


フランは、自分自身が魔力を使えるのを思い出した。

小さな魔法ではあるけれど、これができるのとできないのとでは大きな違いがある。これからのゼガルドでは、そうなのだ。

それが良いことか、悪いことかは、フランには分からない。

だけど、国が大きく形を変えそうなのは間違いがなかった。


「貴殿には膨大な魔力がある。どうか手本となって欲しい」

「水と火、そして治癒の力……それらの魔力をどうにか生み出すことができれば、ゼガルドの民の生活は格段に向上する。私はもうすぐ五十だ。あと十年もすれば、この国ではそろそろ看取られてもおかしくない年頃だよ。私の寿命はいつか尽きるだろう。しかし、私はその日が来るまでにこのゼガルドを変えたいのだ。私が死に、宇宙そらの粒の一つに戻る。私が死んでも私がやったことで、この先もゼガルドが栄えているとするなら」


リチャードは一呼吸置いて、囁くように言った。


「――それはなんと面白いことだろう?」


まるで子どものようにきらきらした瞳で、リチャードは熱弁した。




ギルは冷静に言った。

「面白い面白くないで国を追放されてはかなわんな」


リチャードは確信に満ちて言い放った。

「王とは利己的なものだ。上に立つ者はそうでなければならない。誰だって死んだ魚のような者に御されたくはないだろう?」

「貴殿の思想に一つ欠けているものがある」

「何だ」

「癒やしだ。民に必要なのは食事だけではない。生活で心を疲れさせた民にこそ、癒やしが必要なのだ」

「なるほど」


そして、ゼガルドには音楽堂が建った。

その隣には出店が立ち並んだ。

少しずつ戦の禍から回復したゼガルド民はこぞって遊びに出かけた。

高度成長の波が訪れたのである。


音楽堂の隣の出店で最も人気があったのは、冷たくした芋のケーキだった。

のどごしも柔らかな甘味を、歌い手もこぞって買い求めたという。

稀代の歌い手、ギルベルトの大好物という触れ込みもあって、芋のケーキは飛ぶように売れた。


そして魔法都市ゼガルドは少しずつ形作られていった。

名君リチャードの傍には、美麗な歌手のハーフエルフがよく現れた。

リチャードが没した後も、ギルは音楽堂で歌い続けた。

芋菓子も不動の人気を誇っていたという。


魔法都市ゼガルドの人気名物冷やしたスイートポテトは、それからもずっと音楽堂と共にある。

王が何度変わろうとも、何十年が過ぎようとも、かの名曲と美味なる菓子は比翼のように仲良くそこに在るだろう。



こうして、他国から羨まれる優雅な伝統が、同時に二つもゼガルドに生まれたというわけである。








END?

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