14 連行
次回で完結です。
「おい! 二本くれ! 買うからもう一曲歌ってくれよ兄ちゃん!」
「いいもの聴いたわあ。あたしも一つ頂戴」
ニンジンを両手にもった親方のリクエストに応えて、ギルはもう一度、歌を披露した。
今度は鉱石を求める男達の歌だった。
子どもでも知っている馴染みのあるメロディーだが、ギルが歌うとまた違って聞こえる。
最前列のご婦人が泣きながら、茶色いイモを五つ買い上げてくれた。
ギルが三曲目を歌い終わるころには、満員御礼の完売だった。
帰りがけ、フランは雌鳥の雛を入れたバスケットを持っていた。
思いもかけない完売に、ギルの歌声の威力を実感していた。
「なんか、ごめんなさい。ギルさんの美声を人寄せに使ってしまって……」
と、フランが謝ると、雌鳥以外の荷物を持ったギルはキョトンとした。
「歌に人が寄ってくるのは自然だろう?」
「はあ、まあ、そうなんですけど……」
「ニンジンが売れて良かったな」
「おかげで完売でしたよ」
「そうか」
「雌鳥も手に入れられたし」
「よかったな」
「ほんとに、あの……ありがとうございました」
「私の方が君に礼を言わなきゃいけない」
「えっ?」
ギルははにかむような表情で、頬をかいた。
「また人前で歌うはめになるとは、想像もしていなかった」
「うっ……すみません」
「いや、違うんだ。一度はもう声も出なくなったのに、不思議だなと思ってな。人生、何があるか分からんもんだな」
どこかおかしそうに言うギルは嬉しそうで、フランまで気持ちが浮き足立った。
帰り着いた夜は二人で満足感にあふれてパンを食べた。
塩漬けの生ハムの入ったサンドイッチだったけれど、ギルは文句も言わずに食べた。
「今日のデザートはあるのか?」
と強請られて、フランは冷却庫に仕込んでおいたオランジュのソルベを出した。満足そうなギルの表情は、昼間と同一人物とはとても思えない。
「面白いですね、ギルさんは」
というと、ギルは不思議そうな表情になった。
「私はそんなに冗談は上手い方じゃないと思うのだが……」
「ふふふ、そうでしょうか?」
何気なく過ぎるこんな日常に名前を付けるとしたら、どう呼べば良いのだろうか。
フランはギルの口端についたソルベを指摘しながら、口を拭く濡らした布を出した。
オリテでは有名人になってしまったギルとフランは、その日も町の外れで商売をしていた。
ギルは用があるらしく、少し待っていてくれと言い残して去って行った。
「さて、帰りましょうか」
と、支度をし始めたフランの前に人が立ちはだかった。
「あ、すみません。もう品切れで……」
「フランというのは貴方か?」
それは、いやに眼光の鋭い紳士だった。
きちんとした格好をしている。
「はい、そうですが……」
「悪いが、ちょっと一緒に来て貰いたい」
「えっ? ちゃんと場外で商売をしています。誓って法に触れるようなことは」
「それは分かっている。しかし」
そこにギルが帰ってきた。
血相を変えて近付いてくる。
手に持っているのは髪留めだ。
この前、愛用していた髪留めが壊れてしまったのをフランは思い出して、こんな時だというのに胸が熱くなった。
「何の用だ」
ギルは冷ややかに言った。
「貴殿が、ギルベルトだな」
その胸の紋章を見て、フランは悟った。
オリテの兵士だーー。




