仕様書にゼロ除算を何で折り込むのか?巫山戯るな(ユウ)
佐藤勝は~
勝という少年はゲームクリエイター志望である。
彼はゲームクリエイターになるための学校、トリニティ・学園に通っている。残念ながら彼には才能はない、だがこの学校は幸いにも天才のための物ではなかった。
天才の周辺にいるであろう一般人、それが無能でないように、という意図で運営されていた。なので彼みたいなのが沢山居た。
何人もクリエイターの卵を抱えていて、日本でも有数の、最大の規模として近畿の三県に跨いでいるマンモス校であった。
何人も居る一般人、どれもどんぐりの背比べであったので、通学中に巨大な
だが、現実とは残酷なもので此処には凡人と、才能に溢れた少年達の精神を砕きかねない近さで、隣同士で居ることを許容できるほどに大きく、真っ当に運営されていた。
この国がかつてゲーム、ともかく電子ゲームの殿堂で合った時代も合ったのだ。その繰り返し(リフレイン)のように天才と凡人はこの時代でも隣り合っていた。
「課題125。通常攻撃を100とする。この場合のボスのHPの適正値を根拠と運用法を並べて答えよ、か。これは難問だな」勝はこう言って天井を仰いだ。
「何いってんだ、プランナー。兎に角適当に答えをでっち上げろヨ。課題をそのままパクるから」と勝の言葉を受けて、勝のチームのスクリプター、田中優は不敵に言った。
マサルとユウは幼い頃からのチームメイトである。ユウはスクリプターとして、手が早く、かつ正確さから言うと飛び抜けた成績保持者である。そんな彼女が何故マサルとつるんでいるのは本人の欠点、短所に合った。
「俺の書く、スクリプトに温度がない、宿らない。残念ながら作家性というのは否定できなかったのだろう、俺の才能が恨めしいよ、全く」彼女の書くコードは無機質であり、面白みがない、とよく言われるのだった。機械で自動生成したかのように量産品が出来上がるのだった。
「じゃあ、天才作家の仕様書で学校の課題の点数取ればいいじゃん。安定してトップの成績で卒業して就職すればいいじゃん」
「うわ~やめろ~、それはそいつらが最適性の場合の話だ。既にマサルという相棒が居るし!」片目をバチンとウィンクしてアプローチ。だが彼女の容姿は少年、と言われて納得するくらいにはマニアックだった。眼鏡と天然パーマの容姿がユウであった。
「待ってね。こういうのは等差数列と等比数列の間のどの辺を伺うか?で答えが変わる」
等差数列は1、3、5、7、9、11。等比数列は1、2、4、8、16、32。と書けば分かり安い。変化量が2ずつ増えるのか、2倍になるのか?という違いである。
「でも、等差数列には等差数列の強みと、等比数列には等比数列の弱みも在る。ゲームクリエイターはどっちも触れなきゃいけないから、差と比、どっちの弱みも強みも織り込まなきゃいけない」
「具体的には?」
「倍数1.18の等比数列は第三項まで等差数列と錯覚してしまう。これを採用するね」
「1.18、1.3924、1.64だな」とユウは既に知っているとした。この二人はとっくにこの課題に自力で到達していたのだ。
「でも4つの引数を使って等差数列は伸び悩むから4つまでは初期から、4つ以降は扱う数を2ずつ増やしていきたいね」
「なるほど、等差数列でも、等比数列になるわけだな。仕様書書いて、送れ」とユウは素っ気なく言った。既に脳内でコードを書いているのだろう。
// ゲームシステム //
0(段階成長後):100*1.18*1.18
1(段階成長後):100*1.18*1.18*1.18
2(段階成長後):100*1.18*1.18*1.18*1.18
3(段階成長後):100*1.18*1.18*1.18*1.18*1.18*1.18*1.18
// ボスのHP それは進行度で1.18の倍数で増えていくのが適正 /
「うむ、これだと成長を感じなく無いか?」
「敵の成長の鈍化と、主人公らの成長の加速化、これを何時間維持するか?って課題じゃないからそこには触れない」
「まあ、そうだなあ」とユウはパキパキとコードを打って行って課題用のフリーソフトを起動、そしてコピペで貼って、即席的に課題提出用のデータを創った。
「これ、なんて名前にする?」とマサルはユウとのゲームに名前を付けようとした。
「こんなのは、そうだな。課題の125でいいだろ」
「味気ないなあ、じゃあ12(ひふ)ゴーにちなんでファイアーゴー」
「FireGoか」
「ひとふたごー……ゴルフが良かったかな?」
「ゴルフは流行らんだろ」
「だね」とマサルは言いながらそれも良いかな?と心のなかで思っていた。
田中優は
彼女は生まれながらにして生粋のスクリプターだった。物心ついたときには既にコードを打って生きていた。幼等部学園時代にはほぼ一流であった。だが、そのコードには魂が宿らない、真正の無機物でしか無かった。
だが本人は器物に霊が宿るのは錯覚と言いのけてしまうだけの速度を正確に打ち込むことで問題ないと生きていけるとして周りの人間は黙るしか無かった。佐藤勝以外は。
「もうちょっと、コードに魂宿して」
「はあ、なんだそのクソリテイクは」ユウは具体的なモノを一切省いたリテイク指示に文句を言った。こんなにも正確な記述に文句を言うな、であった。
「じゃあ、ウェイト0.2秒、大体14Fくらい、では?」
「そういうのでいいんだよ、そういうので」ユウは機嫌を直した。我ながら軽いと思ったが、的確な指示は何者にも代えがたいのであった。黙って(?)指示通りにする。
「ほーん、マジか?俺のコードに魂が宿った?」ユウは自身のコードで動くプログラムが脈打つのを感じて、驚嘆したのだ。
「14Fは、人の意志が介在する分岐点ということらしいね」
「マジかよ知っていたら教えろよ、そういうのは」
「いや、僕だけがそういう風に言っているだけなんだよ」とマサルはでかい図体を揺らしながら答えた。見た目は木偶の坊っぽいが言動は知的であった。
ユウは組むならマサルしか居ないと思って幼等部学園の出会いからずっと誰とも見向きしないでこの男を選んでいる。