日常3
少し歩いて指示された教室に着いた。
「……あれ?さっきと違う……?」
先ほどまでいた教室は昔ながらの古い感じの教室だった。木の机に木の椅子。若干狭い教室。だったはずだ。
「そうですね。2倍くらい大きくなってます。」
木の机と椅子が何処の大手のオフィスだ?ってレベルの備品に変わっている。お洒落で機能的だろう机と椅子は輝いて見えた(気がした)。
「皆さん。前にくじがあるので順番にとってそこに座ってください。」
少し待っていると、教師が入ってきて席の指示をする。いきなり席替えとは……校長、あんた席の分らないドキドキ感を知っているな?
「先生!さっきの教室とかなり違っているんですけど?」
普通の男子生徒が質問する。小説だったら生徒Aって表示される奴だな。……この考えは何気に酷いか。
「ああ、それはさっきの教室が青春校舎だったからですよ。」
「「「青春校舎?」」」
「はい。帰りに駄弁ったり、告白したりする専用の校舎です。そのためだけに校長が建設しました」
みんな唖然としている。ふつうに校舎だったしな、あそこ。
しかしまあ……校長……あんた…
最高だ!
「やりますね、校長」
「ああ、かなりのものだ」
学校生活を分っている。甘酸っぱい青春……が来ることを祈るが、甘酸っぱい青春はまずそういう校舎があって成り立つんだよ(多分)。……違うよ?リア充じゃないから分ってないとかじゃないよ?幼馴染(Loveの方の好意をまるで感じない奴)がいて、なんやかんやで……多分生徒会長と知り合って、モテモテになる(予定だ)し。悔しくなんてないし。俺はリア充(になる予定)だし!
そんな会話をしつつ、くじを取る。……窓際後ろ。目立たないな。
「さて、これからは違う席だな。」
しんみりと、水蓮に言う。
「……先輩!」
嗚咽をこらえるように、水蓮が言う。
「お前と一緒で楽しかったぜ。……またな……!」
そう、結局俺と水蓮は交わってはいけない運命なんだ。光である水蓮、影である俺。交わらないものが交わってしまった、だから元の場所、いるべき場所に帰る。ただ……それだけの話なんだ。
「先輩!?ダメです!そんなの……うわああああ!!」
俺は席へと向かう。ただ席が遠くなる(かもしれない)というだけでこんな茶番を演じた。
周りの視線を………感じるわけない。まだ、みんなさっきの青春校舎で放心状態だし。ショックでかいよな、あれ。
「っと、ここか。」
俺が座ったのは窓際一番後ろ。学園を舞台にした小説で主人公になる席で嫌なんだが、まあ仕方ない。ここに座る。
「はあ、まあ目立ちにくいしいいか。」
「そうですね。先輩目立つの嫌いですからね。」
「ああ。それに関してはたす…………あれ?何で居るんだ?」
横をみると交わらないはずの水蓮が笑顔でいた。
「席となりです。」
さっきの茶番の意味が皆無に!?中二乙って言われる事まで考えちゃったよ!?……うわ!恥ずかしさがこみ上げるうぅぅ!!でもそこに痺れる憧れるうぅぅ……訳あるかあぁぁあ!!!!
「ま、楽しいしいいか。あんまり目立つなよ?」
「分かっていますよ。」
それよりも、俺はさっきから気になっていたことがある。
「ってかさ、何でお前はセーラー服なんだ?ここは私服で登校する高校だろ?」
栄耀高校は私服で登校する。私服だとゲーセンに行きやすくなると校長のお達しだ。
青春ドラマは基本的にゲーセンとかが必須なのだが、制服でゲーセンはさすがにまずいと感じたらしい。
行ってもいいけど捕まるなって事だな。
「え~……だって憧れでしたもん。セーラー服。折角だから着てきました」
「そうか、でも目立つんだけど……」
それを聞くと、えっ?っていう顔になる。
「でもあそこ見てください」
水蓮が指差したのは放心状態から戻ってくじを引いているクラスメート。
「……和服が1人居るな」
巫女さん的な服を着ている人が1人ほどいた。
「後あそことかです。超ロックです。」
あっ。本当だ。桑グローブに以下略。メンバー全員いる感じですね、分ります。
見てみると、和服2、ロック5、ピエロ1、下水着3、ドレス2、タキシード2、セーラー5、ジャージ2etc…
意外と多くてびっくりしました。
「……なあ水蓮。和服女子2人ともこっちに来てんだけど?」
「そうですね。」
1人は髪が真っ白で背中辺りまで伸ばしている目が紅い。背は俺に近く、170cmくらい。青が基調。そんな感じの巫女服・改(?)を着ている。……美少女だ。水蓮には及ばないけどな。
もう一人は髪は金色でかなり長く、腰まで伸びている。ちょっとボサボサだ。目が紅色のスラッとした少し背の高い女子。黒が基調の洋服を来ている。下はワイシャツのようだ。長いスカートに紅いネクタイのようなもの。ゴスロリのようにも見える。
「よろしくね。」
のほほんとした声。白髪紅眼の声だ。
「…………。」
何も言わない……嫌われてないよね?俺なんかした……?
というか、やはりここだったか。これだけの美少女だ。絶対目立つだろこの席。水蓮だけでも精一杯だというのに!
「よろしくお願いしますね。」
「よろしく。」
俺と水蓮も挨拶をし返す。やめて!もうここは美少女いるから!美少女のインフレ起こしてるから!あれか!?実は違う席でした(笑)ドッキリ成功!的な流れなんだよね!?
「僕はリュウ。神代リュウ(カミシロ リュウ)。で、こっちが赤里サクラ(アカザト サクラ)。」
白い髪の方がリュウ、金髪がサクラらしい。……ん?リュウって女の子にしては珍しい名前だな。……さあ、ドッキリ成功はいつ出るんだ!?
「そうか、俺は林だ。で、こっちが。」
「音咲水蓮です。」
俺は名前を言わない。だって恥ずかしいから。……で、あのドッキリの札は……。
「林鈴音に音咲水蓮だね。よろしく。」
………ドッキリじゃないと。
「よろしくお願いします。」
「ああ、よろし……おい?何で名前知っているんだ?」
まずい。俺の名前を知るやつがいたなんて……!
「だって一度見たら忘れないじゃん?」
「ですよね~」
リュウと水蓮が和気藹々と話す。俺はリオンという名前がばれてへこんでいる。隠し通すつもりだったのだけどな……。
「くそっ……なぜ…………まあいいか。それよりだ、何で和服なんだ?」
「んっとね、家が神社でいつも和服着ているから私服よりこっちのほうが着慣れてるんだよね。そういう人は結構居るよ?ほら、作業着着てる人も居るくらいだし。」
確かに、周りを見れば個性的な服装が多い。ピエロもいたしな。
「そうか。」
「そうだよ。」
そんなことを話していると、席決めが終わり、明日の連絡をされた。
「終わった――。」
「そうですね。リュウたちはこれからどうするんですか?」
水蓮が聞く。まあ暇なら遊びにでも行きたいとこだ…………けど確実に俺にデス・ビーム(視線、もしくは死戦とも書く)が来るのは分りきっていることだし。
「僕たちは茶道部に入るつもりだから、これから見学かな」
……容姿にあったチョイスだ。和服が似合うだろう二人はきっと茶の動作も映えるだろう。……考えただけでもすごく……いい!
「そうですか。私たちは剣道部に入るつもりです」
おい、俺は別にそんなこと言ってないぞ?
が、俺の意思は無視して話は進んでいくようです。
「そう?まあ遊びに来てね。お茶くらい出すからさ」
「茶道部ですからね」
でも美少女の入れた茶か……飲みに行き…………これじゃ俺変態じゃん!?
「水蓮。そろそろ行くぞ」
まったく、女子はこれだから……。…………ごめんなさい。人のこと言えない妄想……いや、違うよ?想像していました。
「あっ、勘違いしてそうだから言っておくけど、僕は男だよ。サクラは女の子だけど」
「……はっ?」
俺が唖然としていると、リュウとサクラは行ってしまった。
「なあ水蓮。気付いてたか?」
「?先輩気付いてなかったんですか?」
さも当然。というように水蓮は言う。おかしいな?冷や汗が半端ない……。
「……マジか…。」
俺の目がおかしいわけじゃないよな?うん。しょうがない。仮に100人の人がリュウを見たとしよう。ほぼ100人が女だと認識するだろう。水蓮はイレギュラーな存在だった。それだけのことさ。
「さて、行くか。」