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ここは僕の縄張りですけど?



ごろんと目の前に転がるのは多分、人だったもの。


ボロボロの服の残骸に切れた長い髪がそこら中に散らばって悲惨というか汚いというか。



「うわ、最悪。変なゴミばら撒くなし。環境汚染はんたーい」



こんな嫌がらせ、わざわざ人の庭みたいにしてる領地でやることぉ?


唇を尖らせてところどころ骨が剥き出しになっている恐らく頭部を蹴りつけついでにポンと空中に蹴り上げた。


(しゃく)だからこのだれかさんがどんなふうに死んだか見てやろう。そんでもってこんなものを置いてった犯人にとびきりの呪詛をかけてやろう。


そうして左手に蹴り上げ手元にと上がった頭部をガシリと握りしめ記憶を遡り始めた。






黒に近い紺色の髪の娘が誰かに罵倒されている。それに必死に抗い、けれど男の手には叶わず娘は鍵の付いた馬車に押し込まれた。


ドンドンと扉を叩いても返答はない。


悔し泣きなのかこれから起こることへの恐ろしさにか娘は涙を流して地味な色合いのドレスを握る。


女の感情なんか面白くないし、その生い立ちもどうでもいい。


だけれどその手足につけられた魔力封じの枷を見て興味が湧いた。


なるほど?それをつけなければならないくらいにはその()は優れているんだ?


全くと価値のないものからちょっと価値のあるかもしれないものに格上げかな?


自然と口角が上がりニヤニヤと自分が笑っているのを感じながら更に更に彼女の結末に期待をしていく。



ああ。さっき見つけた場所の近くに降ろされ一人放置されていった。乗せてきた馬車も、御者も娘の言葉や涙も見聞きしやしない。当たり前か。こんなところまで連れてくるくらいだ。


野垂れ死のうが獣に襲われようが賊に拐われようが、望ましいのだろう。


よほど恨みを買ったのか、それともはめられたのか。


娘は歩き出したが騒いだ声で直ぐに獣に見つかった。怯えて走る、走る。ダメだなぁ。それは逃げると追いかけてくる生き物だよ。


案の定背中から襲われ、食らいつかれ、バラバラ。呆気なさすぎて興が冷めかけた。


下らない。下らない。獣の食事を観察してる方がまだ実りがあって楽しい。


あ。その緑の目は綺麗だな。潰されて飲み込まれちゃったけど覗き込んで光が照り返す様を見てみたいと思った。


でも結局この娘の死に関わった直接の要因は現れなかった。


失敗失敗。ならもうちょい遡って見てみようか。




お父様。お父様?これが?どっしり肥えた汚いおっさんに唾を吐きかけられる勢いでなじられている先程の娘。


優秀だけど立ち回りが下手だったの?そう。美貌があるのに捕まえたかった王子は捕まえられず他の令嬢に出し抜かれて使えない役立たず。


違うねぇ。折角使い道がある人形を上手く扱うことのできなかったテメェが悪いんだ。上に立ちたいならもっと司令塔らしく徹底的に指導なり先導なりしろ。んでもって色仕掛けするなら向こうの好みや求めている理想やら知るくらいの下地作ってから娘を送れよ。


はぁ〜どいつもこいつもアホかと。


何か覗いただけで疲れちゃった。



「どうしよっかなぁ。生きながら僕に力を送る装置みたいにするのは簡単だけど、どうせならもっと面白いものを作りたいよねぇ」



人の一生なんて一瞬だから尚の事。ぱっと点いてぱっと消える存在ならそれなりに使わなくては。


使いこなせず捨てたジジイなんかよりよっぽど上手に。過激に。悪辣に。



「先ずは子どもにして育てようか。お嫁さんとかそんなん要らないし」



年頃の娘をもらって夫婦(めおと)ごっこも時にはしたこともあったけども今はそんな気分じゃない。


なら父と娘なんて面白いじゃないかと。彼らを見てそう思いついた。


バラバラでところどころ持ってかれたその体を他の動物で補って、そうとは見えないように偽って、人としての見てくれを整える。そして時を巻き戻すようにそれだけを幼く頼りなくしていき完成。


面倒な赤子時代は消し去って更に僕との父と娘の関係を植え付けて。


これで僕らは立派な父娘(おやこ)になった。何も知らずにまだ生え揃ってもない歯を見せて笑う彼女のなんて滑稽なこと。


思わず出来の良さに笑って返せばほら。完璧じゃない?



「よしよし、ロベリア。帰ろうか」



僕らのおうちに。そう言ってまた来た道を歩き出す。


この人が嫌がる森には恐ろしい気狂いの化け物が住んでいるから。だから人の立ち入りは稀だし、獣なども僕には近寄ろうとしない。


そういう気配を隠せば僕にも襲いかかってくるけど、そういう時は僕がお腹が空いてる時だから。間抜けか馬鹿じゃないと怪しんで近寄ってこない。


畜生なんて所詮そんなもの。



洞穴をそのまま利用して作った我が家にある比較的安全な場所に幼子を置いて眠らせ、守りの為の結界を張って表にまた出れば今度はあのジジイの元へ。


目を閉じて開いた瞬間には場所が変わっている。


まるで最初からその部屋に招かれていたように座り心地の悪い椅子に腰をかけて、顔を顰める。



「何これ、洞窟にある僕が作った椅子のが数倍マシなんだけど。金かけてこれ?この国の職人仕事辞めた方がいいんじゃない?」


「お、おおおおまっ、貴様は誰だ?!どこからはいっ」


「うわっ!見てくれどころか声まで気持ち悪い!!蛙の方が声いいよ、喋んないで、息しないで、本当に無理」



濁声とも言い難い焦った声にゾワワッて鳥肌が立った。


有り得ない。この僕が、他の生き物に一瞬でも怯んだ。こんな醜くて直ぐにころっとやれそうな下等生物に。


反射でキュッと喉のあたりの空間締めちゃったくらい。


家のものに気付かれなくなったのは結果的にいいけど、こんな筈じゃなかったのになぁ。


コホン、と気を取り直して顔を真っ赤にして苦しむソレに向かい合う。


気持ち悪いけどね!



「ええと、あれはいつになるんだっけ?もういいや最近、娘捨てたでしょ。あの捨てた場所に住んでる化け物なんですけど?あんな嫌がらせみたいに僕の縄張り荒らしてくれちゃってさ、僕に喧嘩売ってるの?って今日は文句言いに来たんだよね」



目がギョロッと動いて反応した。よしよし、僕のことは理解したな?なら話しは早い。


ピッと右手の人差し指だけを立てくるくると宙を掻き回すように動かす。



「僕の縄張りを汚した、それとおんなじことを君の国にもしてあげる。きっと民や他の貴族たちは血相を変えて犯人探しをするだろうね。で、君に辿り着く。僕が君に呪いをかけていくから見つかるのは必然だと覚悟するんだね。それまでせいぜい怯えて泣き暮らせば?あ、僕の縄張りにまた入ってこようなんてしたら本気で怒るから!」



破滅を待つより恐ろしい目に遭わす!と鼻息荒く伝えて指先から放たれた呪いがジジイにしっかりと定着したのを見て戒めを解いた。


キュッと何もない空間で首を締められていたそれから解放されて大きく息を吐きだしたと思ったら今度はゲーゲー吐き出したソレにうわあ……と僕はまたドン引いて後ずさるももう一つ国全体に大きく深い呪いを刻んで笑みを浮かべた。


それではさよなら。苦しんで、絶望して。僕の糧になってね。


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