絵にも描けないおぞましさ ③
「……ん?」
『姫、いかがなされた?』
「いえ、なんだか今ウカさんのツッコミが聞こえてきたような」
「わけのわからないことを言うな、さっさと歩け!」
『こいつはなんで偉そうなんだ……殿様か……?』
「殿様になりそこなった人ですよ、それと目的地は目の前なのでお静かに」
「このガ……生意気なサルが……」
私の殺気を感じてか、ギリギリでNGワードをひっこめるイオルド。
そういえばミカたちの声が聞こえない彼には突然私が煽ったように聞こえるのか、次からは気をつけよう。
「ゴホンッ。 ここからは岩陰もないですね、入り口までの距離はざっと10mほどでしょうか……」
咳払いで仕切り直し、物陰から目的地である城の様子を伺う。
この距離まで近づいてようやくわかったことだが、城の造りは和風建築に近い。
そして固く閉ざされた門扉の前にはテッポウエビとシャコらしき怪人が警備している、不用意に近づけばタダではすむまい。
「おい、ここからどうする気だ? その刀で生け作りにでもする気か?」
「そうですね、あなたが囮になってくれるならその作戦も悪くないですが」
「誰がやるか! だが……そうだな、その刀を貸してくれるなら私が奴らを切り刻んでやろう」
「お断りします、テロリストにのこのこ武器を渡す馬鹿がどこに居ますか」
「テロリストではない! 我らはルーメ教において崇高な使命を帯びた……」
「お静かに、バレますよ。 うーん、正門は難しそうですし他に裏口でもあればいいんですが」
『姫、何者かが門へ近づいておりますぞ。 身を潜めた方が良いかと』
「むっ、わかりました」
「おいどうした、なんだ押すな、おい!」
陀断丸さんの忠告に従い、岩陰にイオルドの図体を押し込んで私も身を隠す。
するとすぐに門へ向かう複数の異形が岩の前を通り過ぎていった。
距離があってよく見えないが、駕籠のようなものを担いでいる。 ずいぶん重たそうに運んでいる当たり、かなりの重量物のようだが……
「……ミカ、見えますか?」
『え、えっとぉ……あれは……えぇ』
私に比べて夜目が効くミカに観測役を頼むと、すぐにその眉間にしわが寄った。
どうやら信じられぬもの、あるいは言語化しにくいものを視認したらしく、言葉を探す口がモゴモゴと蠢いている。
しかし彼女が答えを吐き出すより早く、異形たちが運ぶ駕籠の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「た、た、たすけてデス~~~~~!!」
「…………なんですとぉ?」
――――――――…………
――――……
――…
「ワーッハッハッハ! ボクはお姫様だぞー!!」
「何やっとんねぇダボハゼがァ!!」
「ワハハハゲゲェ゛ー゛ッ゛!? パイセン、なぜここに!?」
「およそお姫様の口から聞こえていい濁音じゃないねぇ」
「うわーキューちゃんもいる! どうやってこの城に!?」
「こないガバガバな警備どうとでもなるわ! 何やっとんねんおどれは!!」
「いだぁーい!!」
一方そのころ、城内ではツッコミとともに忍愛の頭が盛大な音を立てて引っ叩かれていた。
忍愛の服装はなぜかきらびやかな着物を着こみ、その上から羽衣まで羽織っている。
その姿は彼女が自称するように、まさしく「お姫様」のようだった。
「ち、違くてぇ……ボクもこの城に落っこちてぇ……そしたらこの人(?)たちがお姫様が戻って来たーって喜んでぇ……」
「そもそもなんなんやこいつら、ヴァルソニアの者か?」
「ギ、ギチチ……」
狐耳を逆立てて鋭く睨むウカに気圧され、異形の海鮮たちは後ずさる。
彼らの手には原始的な石槍などが握られているが、二尾まで生やしたウカの前では枝切れ同然だ。
「お、おーい! 君たちボクを助けてよ、お姫様だぞ!?」
「落ち着きな山田っち、おいらたちの役目を忘れたか?」
「お姫様は女の子だけの特権じゃないんだよ!!」
「それはおいらも否定しないけども」
「いや否定したれや、そもそもそんな服どこから盗ってきたんや」
「盗んでないよぉ、この人たちが貸してくれたんだよぉ! ね、エビの人たち!」
「ギチチ……」
困惑しながらもエビとカニの異形たちは頭を振って頷く。
力量差を悟ってか、ウカたちへの敵意は槍とともにとっくに収められていた。
「うーん、思ったよりコミュニケーション取れそうだね。 もしもし、忙しくなかったらいくつか質問していいかい?」
「ギチチ、OK」
「いやノリ軽いな」
「山田っちにこの衣装を貸し出したようだけど、なんで彼女をお姫様扱いしてるのかな?」
「それはもちろんボクが可愛いから」
「山田、殺す」
「断定系!?」
いつものコントじみたやり取りをよそに、エビとカニの異形は頭を突き合わせてひそひそと密談を交わす。
そしてすぐになぜ山田 忍愛を姫として崇めていたのか、その問いは至極短い回答で返された。
「ギチチ……正直、妥協」
「妥協!?」
「山田っち、静かに。 妥協ということは“お姫様”の選定には条件があるのかな、詳しく聞いても?」
「ギチギチ……相談タイム」
「認めよう」
再び密談を交わすエビとカニ、しかし今度は長い。
一番雑音が多い忍愛が黙った今、自然とその会話はウカたちの耳にも届いてしまった。
「キツネ耳……ヤンキー……性格……キツ……良……」
「マッド……おいらっ娘……ドクペ飲んでそう……良……」
「なあやっぱこいつらここで締め上げてええか?」
「ステイ、ステイだウカっち。 避けられる争いなら避けるべきだ」
こぶしを握り締めるウカを宮古野が諫める。
“性癖は論争しても弾圧されるものではない”というのが信条である彼女にとっては、彼らの密談を止める資格は持ち合わせていなかった。
「ギチチ……お待たせ」
「ギチ。 結論、我々は新たな姫サマ探してる」
「新たな姫? 以前にはこの城を治める姫が居たのかな、その人の名前は?」
「乙姫サマ」
「…………なんやて?」
「ここは竜宮城、ずっと乙姫サマの代わり探してる。 もっときれいで、可愛くて、美しくて、絵にも描けない――――そんなお姫サマ、求めてる」




