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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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酒気帯び先生 ①

「わああああああバカバカバカ!! 何やってんだよあのおっさん!!」


 宙に投げ出された忍愛が、瓦解するビルの破片を足場に宙を駆ける。

 彼女が空中を跳びながら回収しているのは、自らの手で気絶させたクーデター犯の部下たちだ。

 数こそ多いが所詮は一般人、だから今この状況においては忍愛の超人的な身体能力に枷を掛けている。


「オッケーあらかた回収、見落としてたらナムサン! パイセン、着地!!」


「分かっとるわ! このまま真下に降りるで、舌噛むなや!」


 続けてウカが尻尾と電撃で周囲のガレキを跳ねのけ、安全地帯を確保。

 そして彼女が片手で印を結ぶと、着地点のアスファルトを突き破って青青しい草花がみるみるうちに繁茂し天然のクッションを形成、その上にビルの破片と人間たちがドカドカと吸い込まれていった。


「ふぅー、ジャスト着地。 今日も忍愛ちゃん可愛いヤッター!」


「はいはいすごいすごい、ほんであのクソおっさんはどこ行った?」


「えっ、パイセンが捕捉してたんじゃないの?」


「あの状況でそこまで気ぃ回してられんわ、ちゅうことは……逃がしたなぁ」


「うーん、生身の人間があの高さから落ちて無事だとは思わないけど。 そこらへんで押しつぶされてない?」


 担いだ兵士たちを地面に投げ捨てた忍愛は、手ごろなガレキを蹴飛ばしてひっくり返すが、幸か不幸かその下から人間の圧死体が転がり出ることはない。

 ただ転がるガレキは簡単に砕け、その断面からは鉄筋の代わりに詰め込まれた藁草が顔を覗かせた。


「うげっ、見てよパイセン。 これじゃ崩れるのも仕方ないって」


「手抜きにもほどがあるやろ、それが今まで何の問題もなしに建っとったってか?」


「だよねぇ、やっぱ新人ちゃんの予想通りだ。 あのおっさんは過去改変を使いこなしている」


 忍愛が軽く体重をかけるだけで砕けるコンクリートの塊は、とてもじゃないが何万トンもあるビルを支えられる強度はない。

 だがこのビルは今日この日まで亀裂の1つもなく、平穏無事にそびえ立っていたはずの建築物だ。


「中に人は……いないか、廃ビルだもんねここ」


「なんで街のど真ん中に廃墟がポツンと建ってたんやろなぁ、“そういうこと”にされたっちゅうだけで……っと、キューちゃんから通信や」


『もしもーし、2人とも無事か!? 通達を忘れたけどそのビルは違法建築で……』


「知っとる、あとで改変の形跡調べてほしいわ」


「こっちは建物丸ごと崩壊してリーダーのおっさんに逃げられたとこだよ、そっちで収集つけられる?」


『うーん眩暈がしてくるけどなんとかしよう、そちらの損害は?』


「ボクもパイセンも無事、主犯格の部下っぽい連中は捕まえた。 情報源にはなると思うよ、重要度は低いと思うけど」


『収穫があっただけマシだ、ありがとう2人とも。 それとこっちはおかきちゃんの保護に成功したぜ』


「おっ、ホンマか! 場所どこや、うちらも合流するで」


『そりゃ助かる。 できれば急いでくれ、エージェント飯酒盃からの報告によると……ちょっと修羅場っぽいからねぇ』


――――――――…………

――――……

――…


「ねえビル崩れたわよ!? まさかあそこにウカたちがいるの!?」


「た、大変デス……!」


「まあウカさんたちなら無事だとは思いますが……」


「無事なんデスか!?」


「はいそこ喋らなーい! 舌噛むわよ、先生今お酒飲んでること忘れないでね!」


『死にたくない……死にたくなぁい……!』


「いやあなたが一番安全圏じゃないですか」


 崩れ去るビルを背景に、私たちを乗せたバイクは誰も居ない道路を爆走していた。


「このままポイントCまで行けばSICKの職員たちが待ってるわ、藍上さんももう安全よ」


「周囲に花火の気配もありません、ウカさんたちの様子は気になりますが足止めは成功したみたいですね」


「よかったぁー、あとはSICKで王子さえ保護できればどうにかなりそうね!」


「ほ、本当に……デスか?」


「SICKならセキュリティも万全です、王子の命を狙う連中もそう簡単には入ってこれませんよ」


 過去改変の特性は驚異的だが、明確な弱みとして「現在」を生きる人間そのものへ直接的に干渉できない点が上げられる。

 そのうえ原理は不明だが、相手の改変動作は視覚が起点となっている可能性が高い。 地下に隠されたSICK基地ならそもそも視界が通らないため安全と言えるだろう。


「そもそもSICKには改変みたいな異常現象に対する設備も用意されているわ、核シェルターよりずっと安全です。 先生秘蔵のお酒もこっそり保管してるぐらいで……」


「職権乱用ね」


「局長たちにバレたらまた減給食らいますよ」


『……あの、藍上……様? 殿? いやしき私めから1つご進言が……』


「おかきでいいですよミカ、なにか異変がありましたか?」


『あの、おかきぃ……様。 視界誘導できない鉄の馬車が近づいて来てる、いや来てます』


「そう言うことは畏まる前に迅速な報告を! 飯酒盃先生、正体不明の車両が接近!」


「ええ、こっちでも視認できたわ!」


 飯酒盃先生が見つめる視線の先から、一両の大型トラックが猛スピードで突っ込んでくるのが見える。

 ミカの索敵どころか、本来なら警戒している私たちも気づけるような距離はとっくに過ぎている。 まさかこの場の全員がうっかり見逃すとは考えにくい。

 

「これも過去改変……? しかし一体どこから……」


「クーデター派の人数が実はもっと多く居た、ということにされたのね。 はぁ~もう嫌になっちゃう、ウイスキー空けていい?」


「ダメに決まってるでしょ! どうするの、このままじゃ正面衝突で全員ミンチだわ!」


『し、死にたくなぁい……』


「うーん、応援は期待できないし……しょうがない、ここはちょっと先生頑張っちゃいますかぁ!」

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