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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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撃ち上げ花火 ①

「ごめんなさいデスね、事前にお話しする時間ないだったデスので」


「いやー全然全然! 王子が無事でおいらとしちゃ何よりですよ、けど次からは心の準備させてもらえると嬉しいかなぁ!」


 両手を合わせて「ごめんね」と小首を倒す仕草に合わせ、銀色の前髪と胸のペンダントが揺れる。

 そんなちょっとした仕草すら映えるほど、目の前の少年は絵に描いたような美少年だった。

 もし小学校の同級生にこんな子がいれば少年少女の羨望と嫉妬を一手に集めるだろうが、生きた心地がしなかったキューさんにはそんなことを気にする余裕などさらさらない。


「キューちゃん、まだ顔蒼いよ」


「まあ、あんなもん見せられたらそうなるわな」


「それでも表面上は平静を装えているのはさすがの精神力ですね」


「うるさいぞそこ!」


「ふふ、あらためて僕はリュシアン・ヴァルソニア。 ヴァルソニア王国の王子デス、以後お見知りおきを」


「あはは……」


「新人ちゃんはなんで空気椅子なの?」


  救急隊員……に扮した王子のお着きの人たちに案内されたリムジンカーの中、私はおそらくぎこちない笑顔を返していた。

 さすが王子を歓待する高級車、座り心地から一般車両とは格が違う。 もはや尻に敷くのことすら後ろめたい。


「おかき、腰降ろしてええんやで。 むしろそっちの方が不敬やろ」


「そ、そうなんですけど貧乏人としての本能が……」


「気にしないがいいデスよ、それに先に失礼をしたのは僕デスので」


「というか王子様って日本語上手いねー、ところどころ変だけどさ」


「お前はお前でラフすぎんねん」


「ニッポン言葉、むつかしいけど覚えたデス。 テンプーラ、サムライ、フジヤーマ・ヴォルケイノ!」


「噴火しちゃいましたね」


「静岡と山梨が滅びたな」


 体にこびりついた煤を拭いながら笑う王子の表情は、まるで泥遊びで汚れた子供のように無邪気だ。

 いや、実年齢で考えれば彼も大いに遊ぶべき少年のはずだ。 少なくともテロに巻き込まれた振りをして自分の死を偽装するなど似合うはずもない。


「ちなみにリュシアン王子、あの爆発はあなたが仕掛けたということで間違いないかな?」


「リュシアンでかまいませんデスよ、キュウさん。 それとあの火薬はクーデターたちが仕掛けたものデス、僕はそれを利用したデス」


「わあ大胆」


「それだけ状況がひっ迫していたということですか、時間を押して日本へ避難するほどに」


 私たちとこのリムジンに追従するSICKの特殊車両を除けば、王子の護衛は運転手と救急隊に扮していたものを含めて3名しか見当たらない。

 一国の王子が来日するには心もとない、準備を整える暇もなく出発する理由があったと考えるのが自然だ。


「……さすがデスね、とても聡明な方とお見受けするデス。 僕と同い年とは思えないデスね」


「はっ?」


「新人ちゃん、落ち着いて新人ちゃん! 殴ったら国際問題だよ!」


「ごめんねリュシアン、こっちの美少女はこう見えても成人済みなんだよ!」


「オウ……ジャパニーズ・ヤマトナデシコ・ミステリー……」


「言いてえことあるなら言ったらどうですかコノヤロウ!」


「はいはいいいから話を戻そう! 事前情報通り、ヴァルソニア王国は今絶賛クーデター中で王子はおいらたちに保護されるために来日した! ここまではいいかい!?」


「「「はーい」」」


「ご迷惑をおかけするデス」


 王子がペコリと頭を下げる。

 私が子どものころ、うつむいてしょぼくれることはあってもこれほどしっかり頭を下げる機会はどれだけあっただろうか。

 王子の所作はかなり慣れているものだ、その年でいったいどれほどの気苦労を重ねてきたのだろう。


「まあ……命を狙われているから保護が必要というのはわかりました、けどどれほどの期間リュシアン王子を匿うんですか?」


「うーん……とりあえずクーデターが落ち着くまでかな、年単位の時間が必要になるかも」


「王子様も大変だねぇ、アメちゃん舐める?」


「あ……ごめんなさいデス、立場上他人から食べ物を貰えないデス」


「そっか、毒あるかもしれないもんね。 パイセン、窓開けて」


「んっ」


 窓際に座っていたウカさんがふたつ返事でパワーウインドウを操作する姿に、王子の側近さんがサングラス越しに怪訝な目を向ける。

 護衛からすれば不用意に窓を開けるなど愚の骨頂。 しかし文句の言葉が喉を通過する前に、忍愛さんの手で弄ばれていた飴玉が弾き打たれ、車窓の隙間から外へ飛び出す。


 ――――そして視界の彼方で「カン」と金属を叩く甲高い音が鳴った瞬間、窓の外で目が眩むほどの()()が咲いた。


 車体を揺るがす轟音と爆風、急な衝撃にアスファルトを痛めつけながら車体が蛇行する。

 辛うじて横転は避けられたが、座席から転げた私と、護衛に抱きしめられた王子はお互いに困惑の表情を浮かべていた。


「な、な、な、何があった山田っち!?」


「山田言うな、狙撃だよ。 ロケランかと思ったら花火だった、ギリギリ迎撃間に合ってよかったねー」


「アホ、気づいてたんならもっとはよ撃ち落さんかい。 おかきなんてパンツ丸見えでひっくり返っとるで」


「言わんでいいですよそんなこと! それに狙撃ってことは……」


「王子様の偽装工作通じてないっぽいね、お相手さん殺意マシマシだよ。 パイセーン」


「わかっとる、外はうちが見張っとくさかい。 デカいのは任せたで」


「あいあい、というわけで運転手さんに安全運転でかっ飛ばしてって伝えてね。 新人ちゃんたちはシートベルト死ぬほど巻き付けて――――今から命がけのカーチェイスだよ」

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― 新着の感想 ―
狙撃用花火ィ?日本的価値観だとよっぽどそっちの方が邪道だけども……戦も花火で解決してきた文化なんだろうか……
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