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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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人権なき新人研修 ⑤

「ふむ……なあ藍上、お前にこの社を紹介するのは初めてだよな?」


「ああ、わかります? 初めてですけど二度目ですよ」


「そういうことか、理解した」


 おかきにとって拝むのは二度目となる境内に着くなり、九頭は懐から取り出した青い紙を迷わず破り捨て、赤い紙だけをおかきに渡す。

 同じ卓を囲んだ仲、多くの言葉は必要なかった。

 

「理屈は知っているがこうして体験すると妙な気分だな。 で、一生分の夏休みはどうだった?」


「最悪ですよ、せめてもうちょっと穏やかな日々を過ごせていればよかったんですが」


「SICKにいる限りそれは無理な話だな、お前は何週目だ?」


「初回含め13か14週ぐらいですかね」


「ほう、思ったよりずっと短いな。 それで俺の誘いに対する返答は変わったか?」


「まっっっっっったく」


 躊躇いがないおかきの返答に、九頭は肩をすくめて見せる。

 本人にとっても想定内だったのだろう、何度同じ時を繰り返しても決して後輩が心変わりしないと。

 そして言外に問いかけているのだ、“それなら自分は何のためにお前をこんな目に合わせたのか”と。


「念のために聞きますけど、嫌がらせで人をあわや自殺まで追い込んだわけじゃないですよね?」


「ははは心外だな、俺がそんなひどい先輩に見えるか?」


「はい」


「ははは! そうか……そっか……」


「いっちょ前に傷ついてんじゃねえですよ」


 早乙女おかきから見ればボドゲ部の面々はろくでもない化け物しかいない。

 性悪シナリオ量産文学少女、命杖 有亜。 口先だけで卓上をかき乱す十文字 黒須。 一番無害だがどんな絵もたちまち仕上げる中世古 剣太郎。

 そしてその全員をまとめてボドゲ部を運営してきた狂人、九頭 歩。 どこを見ても怪物しかいない。


「言っておくが俺だって人間なんだぞ……それで、答えは見えたか藍上よ」


「そうですね……」


 九頭がこのループ地獄の中で伝えたかった事、その答えはおかきも何となく見えている。

 だがわざわざこんな回りくどい方法をとった意味がまだわからない。


「何か言いたいことがあるならハッキリ言っていいぞ、今なら安全だ」


「……では単刀直入に聞きますね」


 理由は不明だが、九頭 歩は直接の言及を避けている。

 なぜかはまだおかきにはわからない、真実にたどり着く手掛かりが足りない。


「部長、あなたは――――」


 それでも九頭がこの七面倒くさい方法で何かを伝えようとしているなら、後輩として応えなければならない。


「――――いったい、()()()()()()?」


「…………ほう」


 九頭の口角が上がる、その反応が正誤を物語っていた。

 

 なぜ彼が、SICKが管理する栄螺螺旋の旧校舎について知っていたのか。

 なぜ彼が、すべてを見通すように立ち回れるのか。

 なぜ彼が、この世の人々にすべての異常性を暴露しようとしているのか。


「部長、どこまでですか? いったいあなたはどこからどこまでの間を――――」


「待て、そこまでで十分だ。 90点というところだな、さすがだよ」


 手のひらを突き出しておかきの追及を制止する九頭。

 その背後から瞬きの間に現れたのは、くたびれた着物に身を包んだ胡乱な雰囲気の男。

 名を江戸川 安蘭。 それはカフカ症例第7号、元SICKの所属であり今は九頭と行動を共にする離反者の登場だった。


「時間通りだな、安蘭」


「……吾輩、3時間は寝坊したはずだが?」


「問題ない、そうなる気がしたからお前にはその分早い時間を伝えておいた。 さらばだ藍上」


「待ってくだ……といっても止まってくれるわけありませんよね」


「もちろんだ、俺は俺の目的のために全力を注ぐ。 次もお互い五体満足で会おう」


「ああもう、本当に勝手ですねあんたは!」


「ははは、誉め言葉だな! では行くぞ安蘭、それともう出てきていいぞ中世古」


「……もう終わり?」


「うん……うん!?」


「うるさい……なに……?」


 この場にいるはずもない人物の登場に、思わずおかきも二度見した。

 境内の茂みからガサガサ音を立ててひょっこり顔を出したのは、ボドゲ部先輩ばけものの中世古 剣太郎。

 だが彼は今、諸事情によりSICKの地下施設で収容中の身分であるはずだ。


「なかなかなかなか中世古先輩!? なぜここに……自力で脱出を!?」


「はっはっはっ! 甘いな藍上、命杖が所持していたオブジェクトを忘れたか?」


「えっ……あぁー! その万年筆!?」


 後輩のリアクションにご満悦な九頭が胸ポケットから取り出したのは、一見ごく普通の万年筆。

 だがそれはおかきがかつて回収したこともある異常性を帯びた物品、書いたものが現実化する「画竜点睛」と呼ばれたオブジェクトだ。


「中世古ほどの画力で描けば自分のコピーを作るなどたやすい、まあ本人は人手を増やすために使ってたようだが」


「そうか、画竜点睛は文字だけじゃなく絵も有効……って倫理観とかないんですか先輩!」


「……? 倫理それで絵が上手くなるの?」


「そういえばこういう人でしたねクッソー……!」


「ふふ、まるで同窓会。 吾輩疎外感」


「おっと安蘭は居心地が悪いか、ではそろそろ本当に失礼しよう。 グラーキの方の中世古にもよろしくな」


「ふざけるなバーカ! 私あの時結構ショック受けたんですからね!!」


「あっはっはそうだその顔が見たかった! 中世古、あとでスケッチ頼む! それではさらばだ!」


「二度とその面見せるなバーカ!!」


「ああそうだそうだ。 藍上、最後に1つ大ヒントだ」


「あ゛? 今度は何……」


()()()()()()()()()()()()()()()()、よく思い出せ。 それじゃあな」


「―――――…………は?」

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