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呪い呪われ追い追われ ②

『リーダー、解析終わったよ! 無事!?』


「殺すぞ」


『全力で解析終えた部下への言葉か? これが……』


「気にしないでくださいキンジローさん、ちょっとタイミング悪くて気が立ってるだけなので」


「私は回線切れっつったはずだ、こっちが全滅してたらお前も通話越しに呪われてたぞ」


『いや、位置情報と心拍数などの変化から見てその心配はないかなって。 そろそろ解析結果について報告していい?』


「チッ……話せ、静かにな」


 上司への敬意が感じられないキンジローの態度に咥えたタバコを噛むハナコだが、その切っ先に火を点すことはない。

 扉の向こうではいまだ怪物が這いずる水音が聞こえてくる、声は潜められても煙や臭いを誤魔化すのは難しい。


『回収されたドッグタグは“鎮魂課”七番隊長、阿僧祇 ナユタのものだった。 最初の配信から放送局を鎮圧するため出動していた』


「阿僧祇……前に合同案件で顔合わせしたことあるな、また顔見知りが1人逝ったか」


『うん、それについては嬉しくない知らせが1つあるよ。 阿僧祇隊長の生体反応はまだ()()()()()


「……んだとぉ?」


 ハナコが顔を顰め、隣に座るおかきも自分の耳を疑った。

 ドッグタグを回収する寸前、アクタは間違いなく傀儡と化したエージェントたちを全滅させた。 陀断丸の力が通用した以上、仕留め損ねた可能性は低い。

 そしておかきは彼らが消滅した後の水たまりから、肝心のドッグタグを回収したのだから生きているはずがない。


「ちょっと待ってください、ドッグタグは私が拾ったというのにどうやって本体の生体反応を確認しているんですか?」


『えーとね、色々手段はあるけどこの機種だと“幽体接続形式”かな。 本来人間は魂と肉体がシルバーコードってヒモで繋がっているんだけど、そのコードの間にドッグタグを仲介させているんだ』


「持ち主が死ねば当然魂と肉体の繋がりは千切れる、するとドッグタグがそれを検知して死亡判定を下すってことだ」


「あら、それなら肉体は私とこの刀さんが斬っちゃってドロドロに溶けたわけだけど?」


『そのはずなんだけどね、どこか一部でも残った肉体に魂が囚われてるのかも』


「肉体の……残った一部」


 おかきの背筋がじわりと冷えた。

 扉の向こうでは、黒い液体がペタペタと廊下を這いずる音が聞こえてくる。

 夥しい数の()()を備えた、異形の怪物が。


「まさかあのバケモノの目玉……全部犠牲者のものってことか?」


『なるほど、たしかにそれなら生体反応の理由もわかる。 けどそれってつまり……』


「目玉だけになっても生かされてるってことよね」


 おかきの背筋がじわりと冷える。 零感のハナコが怪物を視認できたことも、理解できてしまった。

 あの怪物を構成するのはすべて実体、人間の目玉とそこから溢れ出した黒い液体だけだ。


「解せねえな、倫理や人情はともかくとしてなぜ目玉を生かしている? 合理的な理由がない」


「幽霊ってそういうものなんじゃないの? 理解できなくて理不尽で暴力的」


『いやーそれでも意味もなく魂だけ縛り付けるような真似はしないと思うよ、そのまま喰らった方が効率的だもの』


「……視線」


 一つ心当たりを思い出したおかきは、携帯の画面をスクロールさせる。

 引っ張り出したのは命からがら怪物から逃げきる決め手となった、部長からのメッセージ。

 何度も送られてきたそのメッセージはいちいち手打ちしていたのか、細かい文章の変化はあるが「視線を切れ」というワードだけは一貫していた。


「部長が無駄な文章を書くとは思いません、おそらくこの視線がキーワード……怪物を目視するか、私たちが目視されることが重要なんだと思います」


「待て、そもそもその部長ってやつは信用できるのか?」


「信頼はできませんが信用はできます、それにここまで連続して同じ文章を送るということは緊急性が――――」


 ――――パタリ、とおかきが見下ろしていた画面に黒い雫が落ちる。

 粘り気のあるその液体はミカミサマの被害者たちと同じ、だが天井を見上げても雨漏りの形跡などはない。


 それが自分の目じりから滴っていることにおかきが気付いたのは、ハナコに銃口を突きつけられた後だった。


「っ……」


『姫! おのれ謀反か貴様!?』


『えっなになになにが起きたの!? リーダーまたなにかやらかした!?』


「動くな、両手を上げて後ろを向け。 爆弾魔、お前も刀も下手な動きをするんじゃないぞ」


「あら、ずいぶん優しい警告ね。 私なら手も足も出さずに暴発ぐらい誘導できるけど?」


「アクタ、ハナコさんを刺激しないでください。 私は大丈夫です!」


「私から見れば全然大丈夫じゃないけどな、余計なことは喋るなよ。 これよりお前をミカミサマに魅入られたものとして扱う」


 後頭部に突きつけられる冷ややかな銃口の温度にどこか懐かしさを覚えつつも、おかきは必死に頭を回す。

 自意識ははっきりしている、しかし症状としては軽度だが自分の目から溢れている液体はミカミサマの犠牲者たちと同じ。

 だが原因として思い当たる原因がない、もし何らかの条件があるのだとすれば特定しなければ全滅すらあり得る。


「ハナコさん、すぐにこの場所を移動してください! 加護のある私が影響を受けたなら陀断丸に守られているアクタも危うい、症状の進行には何か原因があるはずです!」


「原因だと? おいキンジロー」


『僕に振る!? えーっとえーっと、さっきの話だと視線が重要って話だったよね? その部屋ってどこから覗かれるような穴とかない?』


「穴……監視……」


 おかきはわずかに許された首の可動範囲で部屋の四隅を見渡す。

 肉に呑まれている本棚からして元々は資料庫と思われる部屋、もし重要な書類やテープなどを保管していたなら「アレ」があってもおかしくはない。


 そしておかきの予想通り、部屋の隅には丸いレンズを備えた機械が3人の姿を捉えていた。


「――――監視カメラか!!」


 その瞬間、鉄板を殴りつけるような衝撃が部屋を揺らした。


 厚い金属扉が大きくたわむ。

 外から叩きつけるのは、ずるりずるりと這い寄ってきた黒い液体の塊。ひしゃげた扉の隙間から、夥しい眼球がぬらりと覗き込んでくる。


 逃げ場のない部屋の中、大量の“視線”が3人の姿を舐めるように見つめていた。

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