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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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望まぬ再開 ⑤

『……爆弾と例の麻薬だね、さすがに10分でこれ全部解体してる時間はないぞ?』


『階層どころか建物ごとぶっ飛ぶぞこんなもん。 おかき、ミュウ連れてとっとと逃げろ』


「駄目です、逃げられません」


 悪花の進言はもっともだ、わずかに砕いた部分から覗くだけでも夥しい数の爆破装置が敷き詰められている。

 もしも壁の体積いっぱいに爆弾が詰まっているなら、たとえウカたちを含めて全員でかかってもすべての爆弾を解除することは不可能だ。

 それでも、おかきは宮古野たちへNOを突き付けた。


『なんだとテメェ、理由は?』


「私たちを爆殺するだけなら麻薬まで詰める必要はありません、何か意味があります」


『そうはいってもおかきちゃん、解明する必要はあるかい? 耳タコだろうけど時間はないよ』


「少しだけ時間をください、1分でいいです」


『急げよ、そろそろ残り時間も5分切るぞ』


 おかきは目を閉じ、外界の情報を遮断して思考に集中する。

 壁の厚みは常人でも道具があれば破壊できるほどに薄い、おそらくくり貫いたのはつい最近だ。

 長期的に地下を支えるだけの耐久性はない、全知無能をかいくぐるためだけのアジトを潰す覚悟で仕掛けたこの仕掛けに何の意味があるのか。


「……甘音さん、操られるまでに何か気になることはありませんでした?」


「えーとこの地下で目覚めて、あと麻薬がぎっしり詰まった部屋に案内されて、それから……うーん」


『洗脳を受けたのはそこら辺りだろうね、その部屋は?』


「たしかさっきおかきがあちこち開けた時に覗いたはずよ、部屋の中空っぽだったけど」


「その部屋にあった天使の妙薬が全部詰め込まれているわけですね」


 一部屋で保管しているだけではとても足りない、ほかにも保管していた部屋はあったはずだ。

 問題はなぜ麻薬を敷き詰めたかにある。 火薬の代わりになるような性質があればとっくに宮古野たちが解析している。

 

「けど納得したわ、こんなもの隠していたら場所取るわよ。 筒みたいな構造だものねこの階層」


「……甘音さん、それです」


「へっ?」


「ミュウさん、甘音さんと一緒に来てください! 全部わかりました!」


「おかきさん、どこ行く……ですか?」


「この建物の屋上です、アクタはそこにいます!」


――――――――…………

――――……

――…


「ぬぅん!!!」


 男の拳がウカに直撃し、その小さな体を弾き飛ばす。

 だがまともに攻撃を受けずに直前で後方に飛んでいたウカは、空中で身を翻して危なげなく着地。

その隙に忍愛がクナイ片手に男の死角に回り込むが、筋肉の鎧に阻まれて背中への一撃は止められてしまった。


「くっそー、雑に強い! 本当に人間かな!?」


「山田ァー! そのまま踏ん張っとけェ!!」


「山田言うなァー!!」


 殴り飛ばされた勢いをバネに変え、壁を蹴ったウカが再度突貫する。

 男もまたその安易な突撃を咎めようと拳を振りかざす……が、その動きが一瞬凍り付いたかのように停止した。


「忍、法……石仏ェ……! 学習しようよ大猿さぁん!」


「でかした山田ァ! かけまくもかしこき倉稲魂命うちの力とくと食らいや!!」


 飛びながらウカが両手を合わせると、その間に眩しい閃光が迸る。

 稲倉ウカのモデルとなった女神、倉稲魂命は豊穣を司る神だ。

 そして、日本において稲穂には切っても切り離せない伴侶が存在する。


「ちょっと待ってパイセン? それってボクも食らうやつ……」


「死にさらせええええええええええええええええ!!!!!!」


「ね゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!゛!゛!゛ ゛ま゛た゛か゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛!゛」


 落ちるだけで稲を孕ませ、豊穣を約束させるという神の恵み――――すなわち、稲妻である。

 ウカから放出される電撃は大男(とついでに忍愛)へ感電し、辺り一面を眩しい光で包み込む。


「ぐ、ぬ、おおおおおおお……!!」


 さすがに電撃を食らって涼しい顔はしていられない男は、苦悶に顔を歪めながらもウカと忍愛に喉輪をかける。

 忍愛たちも抵抗するが男の手は振りほどけない、もがきながらも二人の体は持ち上げられた。


「ぐ、が……! まだ、動くかアホンダラァ……!」


「うごががががが……! せ、センパイこれかなりまずいよ……!」


「わぁっとる! おかきも頑張ったんや、うちらが根性見せんでどないすんねん!!」


 男の力はすさまじいが、ここで攻撃の手を緩めてしまえばそれこそ一巻の終わりだ。

 ウカは意識を失う寸前まで電撃を緩めない、それどころか余力を尽くして出力を上げる。

 そのたびに脳が人ならざるものに汚染される悍ましい感覚に襲われる、それでもウカはアクセルを踏み続けた。


「あばばばばああばああばばばばば!!!!」


「ぐ、お、おおおああああああああああああああ!!!」


「去ねやああああああああああああああ!!!!」


 命がけの拮抗は、やがてバチンと何かが千切れるような音を立てて終幕する。

 黒い煙を上げて硬直する3人、その中で初めに動き出したのは――――男だった。


「――――ぱ、パイセンさぁ……ボクなら何してもいいと思ってない……?」


「ド阿呆……尻叩かんと働かんやつが悪いやろ……」


 喉を締める男の握力が緩み、2人の身体が床に投げ出される。

 そのまま壮絶な表情のまま白目を剥いた男の身体は、受け身もとらずに真後ろへ倒れこんだ。


「うわぁ、殺しちゃったの? 証言台には立ってあげるから自首しなよパイセン」


「黙れ存在がわいせつ物陳列罪、うちが捕まるならお前も道連れや」


「やだね人のおっぱい僻んじゃって、悔やむなら小さいモデルを選んだセンパイが悪いヴッ!!!」


 電撃を浴びて力なく四肢を投げ出した体へ、ウカの肘鉄が突き刺さる。

 張本人であるウカは自分で放出した電気への耐性もあり、満身創痍の忍愛をシバくだけの余力が残っていた。


「そんなことよりおかきやおかき、あと何分残っとる? キューちゃーん!」


「あー、センパイの電撃で通信機ダメになってると思うよ。 ガハラ様たちと合流しなきゃ」


「呼んだ? ずいぶん手ひどくやられたわね、出血してるなら今のうちにサンプル取らせて」


「ぎゃあ採血おばけ」


 倒れたまま天を仰ぐ忍愛の顔を覗き込んできたのは、たった今話題に上がったばかりの甘音だ。

 だが近くにおかきの姿はなく、彼女だけがこの広間まで戻ってきたようだ。


「お嬢、おかきはどこいった? まさか……」


「私は何もしてないわよ、ちゃんと正気よ正気!」


「だったら新人ちゃんはどこに? 爆弾見つからないならそろそろ逃げないとまずいよボクら」


「屋上に行ったわ」


「「はっ?」」


「だからこの建物の屋上に行ったわ、最後の決着を付けにね」

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