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望まぬ再開 ④

「――――ふんっ!!!」


 気合いをこめて振るわれる腕は、まるでスナック菓子のように床板を破壊する。

 見た目通りのバカ力に、ウカは拳の届かないギリギリの間合いで舌打ちを鳴らした。

 ウカはこれまでの経験から自身の肉体強度を把握している、少なくともあれをまともに受ければ二度と立ち上がれない。


「山田、もうちっと踏ん張れ。 今寝たら多分死ぬで」


「あはは、だいじょぶだいじょぶ……まだまだいけるからさ」


「……山田って言うなって言えや」


 いつもの鉄板ネタを返せないほどに忍愛の傷は深刻だ。

 顔からは脂汗が流れ、動きもいつもの1/3以下まで鈍っている。


「たぶん毒塗ってあったなあのナイフ、僕じゃなかったら死んじゃうような奴。 めっちゃ体痺れるし怠い……」


「風邪引いたんとちゃうか、移さんといてな」


「冗談きっつー……ってかパイセン、気づいてる?」


「わかっとる、()()()()()()


 ウカたちはここまでの交戦から、目の前の大男に対してひとつの確信を得ていた。

 今2人がのんきに会話を交わせるのは、臨戦態勢であるはずの男がまるで襲ってこないからだ。


「こうやって距離を取るといっさい深追いしてこない、警戒してるならわかるけどなんだか動きが機械的だ」


「後ろの階段を死守しとるみたいやな、誰かに命令されとるみたいに」


「……どうするセンパイ、ボクらも新人ちゃんと合流する? たぶん追ってこないよあれ」


「駄目や、出入り口はどのみちここしかない。 あいつ退かさんと10分後にはみんな爆死やで」


「だよねぇ……はぁ、汗水流す労働はボクには似合わないんだけどな」


 わざとらしくため息をこぼすそぶりを見せながら、忍愛は衣服の隙間という隙間から大量の忍具を吐き出す。

 クナイ、スリケン、爆薬、毒瓶、どこにその質量を隠していたのかわからないほどに。


「ボディチェックがあったからそこまで大量に持ち込めなかったけどさ、出し惜しみなしでいこっか」


「そんだけありゃ十分やろ、まあ余力を残せないっちゅうのは同意やけど」


 おそらく2人が息を揃えれば男を倒すだけならなんとでもなる、しかし10分という時間制限がウカたちの足を引っ張った。

 残る力を十分吐き出さねば待っているのは時間切れだ、いやでも死力を尽くさねば越えられない。

 たとえそれが後ろに控えているアクタに誘導されたものだとしても。


「けったくそ悪いなぁ、尻拭いをおかきに任せることになるわ」


「大丈夫だよ、新人ちゃんはボクに似て優秀だから」


「お前それは人として最低の悪口やぞ」


「泣くぞ?」


――――――――…………

――――……

――…


「私操られてたの!? 山田刺しちゃったの!? おかきの手嚙んじゃったの!? ごめん!」


「謝罪は後で結構です、時間がない! とにかく片っ端から部屋を調べていきましょう!」


「わ、わかったわ!」


 道中でかくかくしかじかの説明を済ませたおかきたちは、目につく扉を開けながら室内を調べ回っていく。

 この地下階層を調べつくすためには一分一秒すら惜しい、仮に爆弾を見つけたところで解除する時間が残っていなければすべての努力が無駄になる。

 扉を開け、部屋を見渡し、怪しいものがなければ次の部屋に移る。 お粗末すぎる探索だがくまなく調べればあっという間に時間切れだ。


「っ……」


 焦る気持ちに急かされ、つい利き手でドアノブを握るたびにおかきは顔をゆがめる。

 刃を素手でつかみ、骨が折れるほどに噛み潰された掌はグズグズと燃えるような熱を帯びている。

 ろくにものを握ることもできないのに無意識に手を出してしまう、そのたびに生じるタイムロスが余計におかきの心を逆立てた。


「おかき、やっぱり一度手当てしたほうがいいわよ!」


「駄目です、間に合わなくなる。 とにかく今は手と足を動かさなければ……!」


 疲労と痛みでにじむ玉のような汗が視界をゆがめる、このまま総当たりで探しては埒が明かない。

 そもそも隣の甘音を信じていいのか? ウカたちを呼んで全員で捜索に当たるべきでは? むしろ爆弾を探すよりも全員で逃げたほうがいいのでは? 敵はどうする、見捨てるか?

 動悸が早い、舌が歯に張り付くし喉はカラカラで血も足りない。 おかきはもう、何も考えずにうずくまってしまいたかった。


「……かき……おかき……おかき、おかき! 聞いてる!?」


「へ? あ、え……」


 一瞬意識が飛んでいたおかきは、甘音に体を揺すられて我を取り戻した。

 そして余計な時間を浪費してしまったことに焦る足取りは、甘音に抱き着かれて止められる。


「はい、深呼吸! 吸って、吐いて、吸って!」


「あ、甘音さん? 今はそんな場合じゃ」


「吸って、吐いて、吐いて、吐いて、はい吐いてー」


「酸欠!」


「よし、ツッコミ入れる余裕は戻ってきたわね。 焦っちゃダメよおかき、〆切は破ってなんぼだから」


「いや破ったらみんな死ぬんですけども……」


「いいじゃない、その時はあの世で笑い飛ばせば。 時間がないって焦ったらたぶん相手の思うつぼよ」


 甘音はおかきの身体を抱き寄せ、その背中をポンポンと叩く。

 まるで母親のようなその行動は、不思議とおかきの気持ちを落ち着かせた。


「キューちゃん、聞こえてる? そっちの見解はどう?」


『サンキューガハラ様、ありがたいフォローだ。 ただ君はまだ洗脳が解けていない疑惑があるからね』


「また何かやらかしそうなときは気合でどうにかするわ、それよりそっちで爆弾って見つからないの?」


『まったく見つからないねえ! 悪花の全知無能も役に立たないよ、情報全然足りない』


「ほんと肝心な時に役立たないわねまったくもう!」


『うっせぇわアホ! 今必死こいて脳みそ絞ってんだ、お前たちも何か考えろ!』


『うーん、君たちごと地下を吹き飛ばすつもりなら爆弾も大きくなるはずなんだけどな……』


「……どこに隠しているか、それが問題ですね」


「あっ、落ち着いた?」


 甘音に抱きつかれたことで、ようやくおかきに余裕が戻ってきた。

 掌の痛みすら忘れるほどに没入したおかきは考える、それほど大きな爆弾はどこに隠されているのか。

 隠し方もそうだが位置も重要だ、もっとも効率よくこの地下階層全域に爆風を広げるには……


「…………―――――」


「……おかき? 何かわかった?」


「甘音さん、ついてきてください。 ミュウさんと合流します」


「えっ、ミュウって誰? 何かわかったの? 教えてよもー、おーかーきー!」


『古今東西の探偵は答えを出し渋るものさ、今は黙ってついていこうぜぃ』


 おかきは不満げな甘音を連れてはじめの拷問部屋へ戻る。

 幸いにもまだレキたちの意識は戻っておらず、電気椅子に腰かけて休むミュウが驚いた顔でおかきを見る。


「おかきさん、爆弾が……探す、です!?」


「聞こえてましたか。 ミュウさん、まだ変身する余裕はありますか? 手伝ってほしいことがあります」


 おかきはミュウを連れて拷問部屋を出て、すぐに足を止めた。

 そこにあるのはただの壁、手の甲でノックしてもミッチリと中身が詰まった鈍い手ごたえを感じるだけだ。

 

「甘音さん、もう少し離れて。 ミュウさんはこの壁を破壊してください、できますか?」


「……余裕、ですっ」


 ミュウは警棒を構えると、変身することもなく壁へ叩きつける。

 ピュアポリの力を一部借用した力で殴られた壁は、発泡スチロールのようにたやすく砕かれた。


「合点がいきました、見取り図を見た時からずっと感じていた違和感……この地下階層が“ロの字”の構造だった意味が」


 粉砕された壁の中から零れ出たのは、コンクリートの破片などではない。

 壁に詰め込まれた塩に似た白い粉と、その下に隠された爆弾だった。

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