神交遊戯 ④
「おごごご……し、新人ちゃん……ボクの顔まだついてる……? まだカワイイ……?」
「大丈夫ですよ忍愛さん、ジェスターよりは可愛いです」
「どういう意味だ貴様ァ……!!」
「ってかなんなのさ今の、急に現れたよ!? ボクが反応できないし!」
「たしかに奇襲とはいえ忍愛さんの反応速度で躱せないとは……」
「カァ」
おかきがチラリとヤタガラスの方に視線を向けると、露骨に目をそらされる。
カラクリは分かっているが、審判として説明することはできないという反応だ。
公平を期す、というのは信頼できるだろう。 そしてヤタガラスのリアクションからおかきも狐火のカラクリは理解できた。
「おそらく狐火に神力が込められていたんでしょうね、私たちに見えないほどの量を」
「あっ、そっか。 神様って強大すぎると見えないってパイセンも言ってたっけ」
「正確には見えないのではなく、脳が理解を拒むのだ。 まともに向き合えば気が狂ってしまうからな」
「クッソー、パイセンめ小癪な真似を! 急ごう新人ちゃん、早くしないと負けちゃうよ!」
「あっ、忍愛さん待っ……」
顔にこびりついた煤を拭った忍愛が参道を駆けだし、大きく跳躍――――したその顔面に再び不可視の狐火が直撃し、激しく爆ぜた。
「あっぢゃああああああああああああああああ!!!!?!?」
「忍愛さーん!!」
「なるほど、そこら中に見えない火球が浮遊しているというわけか」
「(-人-;) 」
空中で迎撃された忍愛は地に落ちて転げまわり、参道外れのため池に飛び込んだ。
幸いにも一撃で行動不能になるほどではないが、何度も喰らうには勇気がいる威力だ。
「ふぅー……ふぅー……ふぅー……! 人のことコケにしやがってぇ……!」
「さすがウカさん、一筋縄ではいきませんね。 一手の仕込みで忍愛さんの機動力を削ぐとは」
「感心しとる場合じゃないぞ、不可視の地雷がそこら中に漂っているようなものだ! これではスタンプどこかまともに歩けもしない!」
「その点は問題ありません、ですよねタメイゴゥ?」
「うむ、しっかり見えているぞ」
おかきに抱えられたタメイゴゥは、周囲に浮かぶ“なにか”をじっと見据え、殻の隙間から伸ばした尻尾で叩き落とす。
強大な神の気配は「人間」には捉えられない、だが生まれる前のタマゴなら関係ないことは本殿までの道のりで証明済みだ。
「タメイゴゥ、熱くないですか?」
「問題ない、ご主人の安全は我が守る。 皆の者も離れるな」
「おい小娘、ずっと聞きそびれていたがなんなんだこの生き物は?」
「…………ノーコメントで。 そんなことよりタメイゴゥのおかげで私たちも目を得ました、急いでスタンプを集めましょう」
「頼むぞタメイゴゥ、ボクのカワイイ顔面を守ってくれ……」
「うむ、そのまま歩くとまた火にぶつかるぞ」
「あっぢゃああああああああああああああああ!!!!!!」
「忍愛さーん!!?」
――――――――…………
――――……
――…
「おっ、人間だ! おい人間が来たぞ!」
「ニンゲンニンゲン! 神と遊ぶ愚かなニンゲン!」
「こっちこい、黄泉から仕入れたいいもん食わせてやる!」
「頑張れよ人間ー!」
「……なんかめっちゃ応援されてるね、ボクら」
「まあ、神様にとっては私たちが余興みたいなものでしょうしね……」
おかきはスタンプを探す傍らで、騒ぎ立てる神々の声を聞き流す。
ウカとの勝負が始まってまださほど時間も経っていないというのに、屋台通りはすっかり異様な活気に包まれていた。
賭場のように金や御供え物を積み上げている神もいれば、勝手にトトカルチョを開ている神もいる。 祭りを超えて享楽的な熱狂が会場を支配している。
「おっ、こっちは人間チームに五十串! 倍賭けするやつは並べ並べ!」
「酒だ酒! 酒持ってこい!」
「ワハハハ! ウカノミタマ殿が負けるはずなかろう、我は手堅く賭けて風呂にでも入って来るかな!」
「やかましいですねほんと……」
「神様たちって根本的にヒマ神なんだね」
「本気で遊びに興じているんですよ、ヒマとは少し違います」
「そんなことはどうでもいいのだ、スタンプを探せスタンプを! SICKなら便利な道具の1つや2つ持っていないのか!?」
「いやあボクの道具も全部パイセンにダメにされちゃって……」
「おっ? なんだなんだスタンプ探してんのか、おーい可愛い嬢ちゃんたち! こっち来いこっちこい!」
「おっと呼ばれたからボクちょっと行ってくるよ」
「おい待て単独行動するな、どこからその自信が湧いてくるんだ貴様!」
制止するジェスターを引きずりながら忍愛が吸い寄せられる。
すると焼けたプレートを備えた出店の中から、法被を着たサメのような店主が現れ、新たな客人たちを出迎えた。
「へいらっしゃい! スタンプ探してるニンゲンってアンタらのことだろ? ヒントが欲しけりゃこれを食いな!」
そして景気よくドン、と鉄板に置かれたのは湯気を立てるタコ焼きが十個ほど並んだ木舟。
出来立てのタコ焼きはジュウジュウと音を立て、ふりかけられた鰹節も勢いよく踊り狂っている。
「おー、見た目は普通のタコ焼きじゃん! でもなんか変な食材とか使ってない?」
「シャークシャクシャクシャク! 黄泉戸喫なんて今どき流行らねえよ、うちじゃちゃんとニンゲンも食える素材だけさ!」
「めっちゃ笑い声に癖あるじゃん」
「忍愛さん、あまりタメイゴゥから離れないでください。 また狐火浴びることになりますよ……って何してるんです?」
「あっ、新人ちゃん。 この店長さんがタコ焼き食べるだけでヒント教えてくれるんだってさ、冷める前に食べようよー!」
「ええい均等に分け合っている暇などないぞ、どうせ他にも出店はあるんだから食える奴から食っていけ!」
「はぁ……店長さん、これって普通のタコ焼きなんですか?」
「まさか、人間界だとこういうの流行ってるんだろ? 取れたて新鮮狐火入りロシアンルーレットタコ焼き!」
「「あっぢゃああああああああああああああああ!!!!」」
「忍愛さーん!?」
「ご主人、本当に我々この調子で大丈夫なのだろうか?」
「┐(´д`;)┌」




