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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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メニー・メニー・メリー ①

「忍愛さん、体調はいかがですか? こちらお土産の潮音旅館クッキーです」


「わあ遊園地とかで見かけるやけに高いクッキー缶だ、ありがとー! お返しにリンゴ食べる?」


「見事なウサちゃんカットですね、いただきます」


「いやあ、それにしても……隣のベッドからお見舞い貰ったの初めてだよ、ボク」


「私もです……」


 全治1週間、それがSICKに戻ってきたおかきが言い渡された診察結果だった。

 原因は怪物に貰った腰への粘着弾。 幸い骨折には至らなかったがダメージは重く、ぎっくり腰のような痛みがあるため、腰にコルセットを巻いて安静処置。

 そのためSICKのメディカルルームで忍愛とベッドを並べ、手持ち無沙汰を肴に見舞い品を齧るしかなかった。


「それにしたってさぁパイセンたちはどこほっつき歩いてるのさ! 可愛い後輩たちが瀕死の重傷だよ? ヒマすぎて自分で買ったフルーツそろそろ食い尽くすところだよ!!」


「ああ、自腹だったんですねそれ。 ウカさんはすぐに別の任務に駆り出されたみたいですよ、お盆も近いので除霊役として引っ張りダコだとか」


「あーね、だからガハラ様も家に直帰したんだ。 飯酒盃ちゃんたちは?」


「先生2人は事後処理のため海水浴場に居残りです、なので今SICKにいる赤室組は私たちだけですよ」


「キューちゃんも相変わらず忙しそうだもんね、ヒマだなー……」


 ベッドに寝転がったまま、行儀悪くリンゴを齧る忍愛がぼやく。

 そしてシーツを汚す前に咎めるべきかとおかきが口を開いた途端、枕もとで充電中の携帯が突然震え出した。


「おっ? 誰誰、もしかしてパイセン? お土産は寿司でいいよって伝えて、特上」


「違いますよ。 悪花さんからですね、今はアリスさんたちと一緒に旅行中のはずですが……」


 実質的に身寄りのないアリスは、夏休みの間帰る家もなく学園を追い出される形になってしまう。

 そのためSICKで一度預かることも考えられたが、人見知りを発揮したアリス本人がそれを拒否。 最終的に悪花が引き取って魔女集会で面倒を見る形となった。 

 なお敵対組織に保護対象者を預けるのはどうなんだという思いもおかきの頭に過ぎったが、特に異論も違和感もなかったのでスルーした。


「口じゃ否定してるけど面倒見の鬼だよねあの人」


「絶対本人に言っちゃダメですよ。 もしもし、こちらおかきです」


『おうおかき、生きてたか』


「お互い様ですね、何かありました?」


『アリスがお前の声聞きたいっつってよ、ほら電話繋がったぞ』


『…………おかき……無事……?』


「こんにちはアリスさん、もしかして私いつも死にかけてると思われてます?」


『事実なんだからしょうがねえだろ、ほらお前らも散った散った! 俺ァ今から仕事の話すンだよ!』


 悪花の後ろでは、やんややんやとじゃれつく子どもたちの声が聞こえてくる。

 アリスを含め、魔女集会に所属する子どもたちに囲まれたまま電話を掛けているのだろう。 電話越しからでもわかる悪花の人望におかきの口元も思わずほころぶ。


『おい、なんか笑われてる気がするんだが俺の気のせいか?』


「気のせいですよ気のせい、楽しそうな旅行ですね」


『茶化すなっての、クソ……用件だけ伝えるぞ! この前の“かわばた様”事件に関するレポートをまとめた、データにして送るからキューにでも渡してくれ』


「えっ、レポートまでまとめたの? 真面目だなー、悪花様ってば」


『あ゛ァ? なんで山田までいるんだよ、呼んでねえぞ』


「山田言うな、新人ちゃんと一緒に寝てるだけですぅー! いえーい悪花様羨ましい? ねえ羨ましい?」


『俺は別にいいけどアリスが隣で包丁研ぎ始めたぞ』


「許して」


『ともかく関わった以上は俺なりに仕事の筋通しただけだ、たまにゃ他所からの視点もいい刺激になるだろ。 頼んだぞ』


「承りました、ところで今はどこにいるんですか? ずいぶん大人数みたいですけど」


『ああ――――今……に――――……を……れて――――』


「……? 悪花さん? すみません、ちょっと電波が……」

 

 突然途絶え途絶えになる通信におかきは眉を顰める。 

 SICK基地が地下にあるとはいえ、電波の入りが悪いわけではない。 むしろ通信設備は最高最先端のものが揃っている。

 おかきたちが使っているのも宮古野特製の衛星電話、よほどのことがなければ通信が悪くなるとは考えにくい。


「ん? どしたん新人ちゃん?」


「忍愛さん、それがですね……」


 そして忍愛が異常に気付いた途端、スマホの画面が暗転。

 再び画面が点とすると、通話画面には先ほどまで話していた悪花とは異なり、「非通知設定」の文字が表示されていた。


「……忍愛さん、キューさんに連絡取れます?」


「ダメっぽい、留守電モードになってる。 原因に心当たりは?」


「ないですね、通話も切断できません。 どうしましょうか?」


「どうしようねぇ」


『――――ふふ……ふふふふ……』


 どこかのんきな2人をあざ笑うように、ぞっとするような笑い声がスピーカーを震わせる。

 奇妙に甲高く、幼いようでもあり、老人のようにも聞こえる不気味なの声の主は、すくなくとも悪花のものではない。


「こんにちは、どちら様ですか? 失礼ですが間違い電話では……」


『――――私、メリーさん』


「…………えぇ……?」


 不意打ち気味に告げられたビッグネームに、つい困惑の声を漏らすおかき。

 だがその胸に抱いたのは恐怖などではなく、むしろ電話先のメリーさんに対する憐憫に近い感情だった。


『今、あなたに会いに行くの……待っててね』


「あっ、あの、ちょっ……」


 引き留める間もなく通話は一方的に切電、掛け直そうにも履歴には直前まで話していた悪花の番号しか残っていない。

 どうしたものかと隣のベッドに視線で助けを求めてみても、忍愛もまた困った顔で肩をすくめるばかりだ。


「……忍愛さん、メリーさんって知ってます?」


「知ってる、SICKでも対処記録4桁はあるよ。 マニュアルも作られてるけど読む?」


「説得したほうがいいですかね、メリーさん」


「無駄じゃないかなぁ」


 ここが赤室学園なら、おかきもまだもう少し真面目に対策も考えていただろう。

 だが2人がいるのはSICK地下基地、怪現象なら海千山千の経験値を持つ専門家たちの集まりだ。


 飛んで火にいる夏の虫――――これから起きる悲劇を想像したおかきは自分の身よりもメリーさんの身を案じ、ただ無言で合掌を捧げた。

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