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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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トンチキ海物語 ①

「ふはーっはっはっはっはっは!!!! おはよう諸君、今日もまた世界の謎を暴こうか!!!!!」


 人っ子一人いない深海にバカの大声が響き渡る。

 おかきたちが“かわばた様”を打倒した同時刻、海中移動型研究施設第11号機“蟹渡りさん”は今日も順調にマリアナ海溝をテクテク歩いていた。


「ラボ長、今日も元気っすね」


「試算データ積んどいたんであとで確認してくださいリーダー、あとうるせえ」


「いい加減何らかのハラスメントである自覚を持ってくださいキャプテン」


「フハハハ!!! 呼び方は統一しろ、それはそれとして善処はしよう!!!」


 無駄にうるさい男の名前はカガチ。

 SICKから独立し、知的探求のためならばどんな手段もいとわない危険思想団体通称「LABO」のトップを務めている研究者だ。


「ふぅ、久々に4時間も寝てしまった!! 今日の進捗はどうなっている!!?!?」


「リーマン予想解析チームに革命起こりました、あとは演算機が8時間ほどで結果出力してくれまーす」


「こちらサイバー班、SICKにちょっかいかけるための新作電子ウイルス用意しましたー」


「魔術分析班ですが汎用悪魔検体152号との契約文をpdf化しました、これでLABO職員全員の必要睡眠時間を152号へ押し付けられます」


「素晴らしいな諸君!!! 今日もいい一日になりそうだ!!!!」


「「「……という予定でしたが全部おじゃんになりました」」」


「…………なんて?」


 絶好調から急転直下の報告には、さすがのカガチも思わず声量を落とさずにはいられなかった。


「うちのカフカがやってくれましたよ所長」


「掃除ついでにサーバーのコンセント全部引っこ抜いてデータぶっ飛ばしました」


「いい加減SICKから人材引っこ抜いてきてくださいよ、うちのも可愛いっちゃ可愛いけど新たな華が欲しいっす」


「1日レンタルでもいいので藍上ちゃん連れてきてください」


「僕ウカさんがいい」


「マーキスの肉球嗅ぎたい」


 これまで積んだ努力の結晶が水の泡にされた職員たちが口々に文句と欲望を垂れ流す。

 あくまでコンセントを引っこ抜いた“犯人”に報復や処分を口にしないのは、敵を選ぶ理性が彼らの頭に残っているからだ。


「フハハハ好き勝手言ってくれるな愛すべき同志たちよ!! 吾輩もキューのやつに移籍願を出しているがすべて突っぱねられている!」


「最近うちのラボよく逆探されるなって思ったらテメェのせいですか所長コラ」


「1ビットでも無駄なことにうちの回線使ってんじゃねえよアホ」


「所長特権だ、許せ!! ……それで、うちのアホはどこに行った?」


「マグロ捕りに行くっつって耐圧ガラスぶち破って深海そと行きました」


「何をやっているあの馬鹿は?」


「そう思ってんならさっさと追い出せばいいじゃないすか」


「ついてきたのだから仕方ない、それにあれには我々にはない発想がある」


「たしかに俺たちには深海飛び出してマグロ捕りに出かける発想はねえっすわ」


「フハハハハ!! そういうことだ、吉報を期待して今日も我々は理想に殉じようではないか!! 誰か目覚めのコーヒーを入れてくれ!!」


「コーヒーサーバーもココアパウダー詰め込まれて壊れました」


「…………フハハハ!!!」


「笑ってごまかさないでくださーい、所長直してくださいね」


――――――――…………

――――……

――…


「――――カフカが見つかった? また新しい人ですか?」


「いや、今回見つかったのはカフカ症例第10号……つまりおかきちゃんより3つ先輩だよ」


 “かわばた様”事件の翌日、十分な休息とメディカルチェックを受けたおかきは、SICKの食堂で塩シャケ定食を食べながら宮古野みやこのの話を聞いていた。

 なお隣には同じくSICKで一夜を明かした甘音と、函船村出身の妖怪2匹とともに食卓を囲んでいた。


「カパッ! すごいぞニンゲン、キュウリがこんなにたくさんあるぞ!」


「わおーん!」


「ねえキュー、狛犬って塩シャケ食べて大丈夫かしら?」


「あー、塩分濃度だけ注意してね。 それでおかきちゃん、君にはこの10号の捜索を頼みたいんだ」


「構いませんが……その10号さんってどういう人なんですか?」


「う、うーん……」


 首をかしげるおかきから出たのは当然の疑問。

 しかし謎のカフカ10号について詳しいはずの宮古野は、何から話したものかと腕を組んで唸り始めてしまった。


「……まず今回の状況について話そうか、事の発端は別件の調査任務に就いていたマーキスからの定期報告だった」


「カパッ? 誰のことだ?」


「おかきと同じくカフカって病にかかった人よ、今は喋る黒猫としてSICKで働いているわ」


「息災なようで何よりです、それでマーキスさんはなんと?」


「海岸でカジキマグロを担いだ10号の姿を確認したらしい」


「なんて?」


 おかきはまず自分がまだ寝ぼけているのかと疑ったが、隣に座る甘音もおかきと同じく訝しげな顔をしていた。

 聞き間違いでも寝ぼけているわけでもない、そしてこれが宮古野が腕を組んで唸っていた理由だ。


「おっ? 昨日の今日でえらい早起きやなみんな、おはようさーん」


「おはようウカ、早速だけどここ座ってちょうだいな」


「なんやお嬢、改まった顔して。 キューちゃんも同席して何話しとるん?」


「ようウカっち、単刀直入に言うぜぃ。 10号が姿を現した」


「ほなうちはこの辺で二度寝させてもらいます……」


「ワハハ逃がさないぜウカっち、君も道連れだよ」


 何かを察して席を立とうとするウカの手を宮古野が拘束する。

 その手にはいつのまにかゴム手袋のような発明品が装着されており、モチのように粘着する樹脂がベッタリとウカを掴んで離さない。


「イヤやー! うちはもうあいつに絡みたくないねん、そっちで勝手に進めたらええやん!」


「えっと……キューさん、なんでウカさんはこんなに拒絶反応を?」


「そうだねぇ……さすがに話さないと無理か。 君たちに調査及びできれば鹵獲を頼みたいのはLABOに所属するカフカ――――その名をバニ山バニ恵というイカれたメイド様だよ」

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