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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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蛇に睨まれた蛙 ⑤

「やーやーおかえりおかきちゃん、今度ばかりはダメかもって思ったのもこれで何度目かな」


「毎回心労をおかけします、今回も無事でした」


「無事と呼べるかは怪しいわよ」


「命あれば全部かすり傷やろ」


「ブラック職場の発想~……あっ、悪花様肩貸して」


「うっせ、テメェで歩け」


 設置されたワープゲートを通り、おかきたちは宮古野みやこのたちが出迎えるSICK本部へ帰還を果たす。

 忍愛とおかきはもちろん、“かわばた様”と激しいカーチェイスを繰り広げた悪花たちもまたそれぞれ負傷を負っている。

 そのうえ雨に打たれて全員ずぶ濡れの泥まみれ、さながら全員ゲリラ戦帰りめいた満身創痍の様相を呈していた。


「ひぇっくしょん! うぅ~完全に体冷えてるわ……キュー、シャワー借りていい?」


「もちろんだとも、全員温まっておいで。 とくにおかきちゃんは風邪引いて拗らせたら命に係わるぞ」


「あー……やっぱりアレで終わりではないですよね」


 渡されたタオルで髪の毛を拭うおかきは重いため息を吐く。

 “かわばた様”というSICKも認識していなかった脅威を退け、魔化狼組の長を無力化することにも成功したが、根本的な問題が1つ解決していない。

 おかきが抱えた死亡予告リストはまだまだ埋められていないのだから。


「えーと、まず溺死は消化でいいわよね? あとは……」


「斬首の未来視もあったろ、大神との交戦で消化したと考えていいんじゃねえか?」


「それでも2つか、おかきちゃんの先は長いな」


「はぁー……」


 この夏、おかきは未来を観測する様々な能力者から死を告げられている。

 内容としてはどれも精度に欠けるため、回避は可能だがそのための方法として選ばれたのは「ギリギリまで予言の内容を引き付けて致命傷だけ回避する」というもの。

 結果としてかわばた様事件で奔走したおかきが負った苦労を思い返せば、ため息が出るのも無理はない。


「まあまあ、溺死は避けたからこれから水場は安心して闊歩できるよ! 思う存分シャワーを浴びてくるといいぜ、おいらも3日ぐらい浴びてないし!」


「汚いから浴びなさいよ」


「この調子だと新人ちゃんがバカンス楽しめるころには夏終わっちゃいそうだね」


「難儀やなぁ」


「そういえばキューさん、河童さんや村の方々はどうなるんです?」


「ああ、河童と狛犬の2人はウチで保護するよ。 村人たちは“かわばた様”について聴取した後は記憶処置して開放する、それがなにか?」


「いえ……さすがに河童さんたちが研究のために解剖とかされるなら後味が悪いので」


「おいらたちはそこまで残酷じゃないからね? たしかに研究には協力してもらうけどちゃんと人として扱うよ!」


「人ちゃうけどな」


「村はどうなんだ? 俺らは把握できねえが存続できる住民数じゃねえだろ」


「ああ、なのでSICKが介入して文化財として管理・維持することになった。 あの村で何人の職員が消えたのかも調べないといけないからね」


「…………そうですね」


 “かわばた様”の影響によって犠牲になった村人、およびSICKエージェントの人数はいまだ把握しきれていない。

 捧げられたものに関する記憶を消すという特性上、だれがいつ消えたのかはキャンピングカーに残された物資のような痕跡を辿るしか方法がない。

 ゆえに名も知らぬ仲間たちを弔うためにも、村の状況保存はSICKにとっても重要なことだ。


「なに、大神や村人たちがやったことは許せないけど仕事と感情は切り分けるさ。 それより早くシャワー浴びておいで、本当に風邪引いちゃうぞ」


「そうね、一緒に入りましょおかき」


「セクハラですよ甘音さん」


「というか今更だけど部外者の悪花様とガハラ様入っちゃっていいの?」


「シャワー室程度でギャースカほざくほど安いセキュリティしてねえだろ、それに俺ぁ元関係者だ」


「まあ見せてもこいつなら害はないと思われとるんとちゃうか」


「ンだとォ……」


「はっはっは、転ぶなよー諸君……ふぅ」


 濡れた体を震わせてシャワー室の方へ駆けていく面々を手を振って見送る宮古野。

 しかし全員の姿が見えなくなった途端、彼女の顔から笑みが消える。

 

「まったく魔化狼組め、なかなか面倒な復讐をしてくれるじゃないか……いったいどれだけの人的資源が失われたやら」


 手元のデバイスを操作し、歯抜けの人事リストに目を通しながら重いため息を零す。

 どんな職務を担当していた職員が何名消えてしまったのか、まずはそこから把握しなければ話にならない。

 人員が消失したせいで2年間も報告が途絶えた函船村のような事例がまた発生すれば、今度こそ致命的な事態になりうる。 

 早急な対応が必要だが必要なコストを考えるたびに胃を押さえる宮古野の背を、同情した他の職員たちがさする。


「副局長、胃薬どうぞ。 パラソル製薬のやつなんで効くっすよ」


「うぐぐぐ……ありがとう……はぁ、それにしたってカフカ組は波乱万丈だなぁ」


「副局長もカフカじゃないっすか」


「マキさんもカフカで……あ、そういえば1つ報告あるっす。 そのマキさんから」


「おっと、もしかして例の話かい?」


「はい、確証取れたっぽい感じみたいです。 マキさんが1()0()()を見つけたと」


「危険性は低いですけど波乱万丈のカフカ組に向かわせますか?」


「あー…………そうだね、おかきちゃんの問題もあるしサクっとあの問題児と接触してもらおうか」

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