魔法戦士ここにあり ④
「チィ……!」
念動力で牽制しながら、レキは苦しくも距離をとりつつ反撃の機会を練る。
幸いにもこの拷問部屋には、彼女の能力を発揮するために十分な武器が揃っているのだ。
地の利は決して悪くない、悪くないはずだが……それ以上に魔法少女の暴力は圧倒的だった。
「逃がさない、です……」
剣が、槍が、斧が、鉄球が、ひとりでに壁から外れて襲い掛かる。
一目でわかる殺意が形となって襲ってくる恐怖。 しかしそれでもミュウは臆することなく、飛び掛かる凶器の弾幕へ歩を進める。
一歩踏み出し剣を鷲掴み、一歩踏み込み斧を警棒で叩き落とし、一歩踏みしめ鉄球を殴り砕く姿は、乙女と呼ぶにはあまりにもパワフルすぎた。
「す、すご……」
『前任番組の魔箒少女ブルームスターからその特色を引き継ぎ、“女の子だって戦える”をテーマとした格闘戦主体のアニメだ。 その斬新さに見劣りしないアニメーションも合わさり、もちろん大人気』
『その主役がモデルになったカフカがミュウだ、ステゴロでぺーぺーの能力者に負けるわけねえだろ』
「いつものことながら……私の中の常識がおかしくなりそうですよ」
手も触れずに飛び交う多種多様な武器と、それを素手と警棒一本で対処する少女。
風邪をひいたときに見る悪夢のような光景だ。
状況としては徐々にミュウが追い詰めつつある。 レキの抵抗で歩みは遅々たるものだが、それでも確実に距離を詰めつつあるのだから。
拳が届くほど2人の距離が詰められた瞬間が、決着の時で間違いない。
「ハァーウッザァ!! 届かねえ!!」
「…………」
首の拘束から解放されたおかきは、レキたちの立つ場所から対角線上の部屋の隅まで移動していた。
レキはときおりおかきに向けて視線を飛ばすが、目の前に迫る魔法少女の対処で精いっぱいなのか、すぐに視線を戻す。
「届かない」という悪態、それに自分へ念動力を行使しないところから、おかきはレキの射程を大まかにだが把握していた。
「くっ、そ……がぁ!! おい次元、サボってないで手伝えし殺すぞ!!」
「わかってる、喚くなバカ姉貴。 言っておくけどオカキには傷をつけるなよ、俺はアクタさんを敵に回す気はねえ」
「好きにしろ、ヘタレが!!」
『おかきちゃん、もう一人の能力は?』
「わかりません、先ほどから戦っていたのは姉の方だけなので」
『おいミュウ、気ぃつけろ! 何するかわからねえのが一人増える!』
「了解、です……!」
飛び掛かる武器をへし折り、その拳がようやくレキへと届くその瞬間――――おかきの視界からミュウの姿が消失する。
そしてどこへ消えたのかとおかきが目を離すと、消えたはずのミュウが突然頭上から降ってきた。
「わっ、ミュウさん!」
「……? ……???」
「ギャッハハ!! ザマァねえな魔法少女ォ!!」
頭から落下する体を慌てて抱き支えるおかきと、何が起きたのかわからず混乱するミュウ。
その隙を狙い、再び武器を補充したレキの念動力が2人へ襲い掛かった。
「ミュウさん、念動力は同時で最大5本。 おそらく彼女が操作できる最大の数です!」
「……ありがと、です。 おかきさん」
おかきがこれまでの観察で得た情報を伝えると、ミュウが片手の警棒を飛来する武器たちに向けて構える。
そのまま空中に記号を描くように切っ先を振るうと、警棒の先端を中心とした魔法陣が展開された。
そして魔法陣と武器が衝突した瞬間、金属音に似た鈍い音を立て、5本の武器はレキの背後まで吹き飛んで壁へと突き刺さった。
「げっ、ピュアポリ・ライオットシールドッ!」
「技名あるんだ……」
「これで5本、です!」
念動力で操作していた武器がすべて弾かれた今、レキは完全な無防備だ。
体勢を立て直されるよりも早く、ミュウは地面を蹴って瞬く間に距離を詰める。
だが次の瞬間、飛び掛かったはずのミュウは元の立ち位置へと戻っていた。
「これは……キューさん!」
『おかきちゃん! その少年が転送能力者だ、絶対逃がすな!』
「アポーター!?」
「ああバレたか、けど分かったところでもう遅い。 姉貴」
「さっすが愛してるぜぇ次元! つっかまえったぁ!!」
念動力の行使に十分な時間を得たレキは、足を止めてしまったミュウの身体を射程内に収めていた。
おかき同様宙に浮かび、首が見えない何かに締め上げられるミュウ。 その表情は苦悶に満ちている。
「く……か……っ!」
「ヤッベ、馬鹿力……! 5本使ってやっとだわ!」
「ミュウさん! やめてください、子どもですよ!?」
「だからなんだよ、こんなところまで乗り込んできていまさら良心にでも訴えるつもりか?」
おかきの懇願は、ガスマスクをかぶった少年の冷たい言葉によって切り捨てられる。
姉であるレキの後ろに隠れた彼は無防備だ、念動力の援護もない今ならおかきでも倒せるかもしれない。
だが近づこうにも、動きを読まれたおかきの身体は瞬時に元の位置まで転移されてしまう。
「なんであなたたちはこんなことを……姉弟なんでしょう?」
「だからだよ、地獄でも極楽でも俺たちは一蓮托生だ。 親をこの手で殺したときからそう決めた」
すると、次元は自らの口元を隠していたマスクを外して見せる。
その頬には切れ味の悪い刃物で切り付けられたような傷と、タバコを押し付けた火傷痕がくっきりと刻まれていた。
「親が子供を愛するってさ、あれ嘘だろ。 中にはこうやってひどい真似するクズもいる」
「あたしは身体売られるところだったよ、その前にぶっ殺してやったけどさぁこんな風に!」
ミュウを締め上げる力が一層増し、ギリギリと肉が悲鳴を上げる音がおかきの元まで聞こえてくる。
魔法少女であるために身体能力も強化されているのか、ミュウも今は抵抗できているが窒息は時間の問題だ。
「その恰好、ピュアポリだよな。 あたしらも知ってるよ、ゴミ溜めみてぇな部屋の中でよく見てたわ」
「だけどさ、ヒーローっていなかったよ。 俺たちがいくら助けてって呼んでもニチアサのヒーローたちは駆け付けてくれなかった」
「っ……ぁ……」
「俺たちを助けてくれた現実はボスからもらったクソみたいなヤクだけだった。 おかげでこんな力も目覚めたけど、使い方もクソばっかだよ」
次元は乱戦で床に落ちていたナイフを一つ拾い、明後日の方向に投げ捨てる。
しかし次の瞬間、そのナイフはミュウの肩へと突き刺さっていた。
「い゛……っ!」
「ミュウさん!」
「なあ、“助けて”って言ってみろよ。 憧れのピュアポリが助けに来てくれるかもしれないぜ」
「その時はまとめてぶち殺してやるよ、あたしら無視していい子ちゃんばっか良い思いするなんて許せねえしさぁ?」
「……た……す……」
痛みと窒息に堪えながら、ミュウはか細い声を漏らす。
首に絡まる見えない何かを掻きむしっていた手を解き、力なくダラリと放り投げして。
……ただしその腕は、決して警棒を手放してはいなかった。
「た、す……けるっ!!」
真下に向けて警棒を振るうと、先ほどと同じ魔法陣が出現し、床と勢いよく衝突する。
その衝撃はすさまじく、床に落ちていた槍のひとつが勢いよく弾き出され、レキ目掛けて飛んでいくほどに。
「うおっ!? テメ……!」
「バカ姉貴、何離してやがる!!」
自分に切っ先を向けて飛んでくる槍を、レキは反射的に念動力で受け止めてしまう。
それはつまり、5本を用いてようやく動きを拘束していたミュウの拘束が緩んだということだ。
『ミュウ、今だ! 引きちぎれ!』
「うぇっ!? ヤッバ!!」
「ミュウさん、こっちへ!」
悪花の激励を受け、ミュウは力任せに念動力の拘束を引きはがす。
宙づりのミュウはそのまま重力に従って落下し、意識が朦朧とする体をおかきが引っ張ってレキから引き離す。
間一髪2人は念動力の射程から逃れ、再び状況は膠着へ陥った。
「いないなんて……知ってる、ですッ! ミュウだって、助けてほしかった!!」
「チッ……姉貴、仕切り直しだ。 今度こそ殺すぞ」
「お母さんが死んじゃって、いっぱい悲しかった時……ピュアポリは助けてくれなかった……それでも、あの背中から教えてもらったことまで嘘にしたくない!」
小さい身体へ必死に酸素を回しながら、ミュウは拳を握って立ち上がる。
まだ幼い年だ、たった今”死”を近く感じたはずだ、肩に刺さったナイフは痛々しい赤に染まっている。
「助けるです、私みたいな誰かをこれ以上出さないために。 痛みを知る、ただ独りであるために!」
だというのに立ち上がるのだ。 彼女のモデルとなったヒーローは、いつもそうだったのだから。




