箱入り娘 ④
「やめとかない? 絶対ろくなこと起きてないよ~」
「ボウリング場のように証拠を隠滅しているのかもしれません、手遅れになる前に急がなければ」
「どう考えたってここが本拠地じゃん、証拠隠滅でも放棄したならもう事件は起きないよ! 終わり終わり閉廷!」
「面倒くさいだけでしょ、どのみち犯人をここで逃がす手はないじゃない。 とっ捕まえて真相を聞き出さなきゃ事件は解決しないのよ」
「それに万が一自爆じゃなかったら大事故や、何が起きたのか一目見てみんとな」
弱音を垂れる忍愛の背を押しながら、SICK一同(+甘音)は遠くに見える中世風の城へ向かって歩を進める。
その間にも城からは不定期な爆発音が止まず、いまだ黒煙がもうもうと立ち上っている。
ブリキ缶の内部に反響して正確な特定は困難だが、おかきの耳にはかすかに銃撃や重い金属がぶつかり合うような音も聞こえていた。
「火薬臭いなー、流れ弾飛んで来たら危なくない?」
「あんたがそう言うってことはやっぱりドンパチやってるの?」
「十中八九ね。 サブマシンガンにスタグレ……地雷も仕掛けてるっぽい? マジの紛争地帯と変わりないよ」
「拡張空間の中とは言え学園の中ですよ……?」
「不良たちが武装してるってわけ? そんなの私たちだけじゃ……どうにかなりそうね、山田いるし」
「まあ素人がチャカやドス担いだ程度なら山田一人でどうにかなるやろ」
「みんなボクのことバーサーカーか何かと思ってない? できるけどさぁ」
文句を吐き続ける中でも、忍愛は決してカフカとして自分が得た力を過小評価しない。
漫画の中で何度も読んだ「山田 忍愛」というキャラクターを知っているからこそ、血づくほど激しさを増す鉄火場の中でも生きて帰る自信があった。
それでもなお帰りたいと弱音を漏らすのは自信以上にただ面倒くさいからである。
「忍愛さん、このまま帰っても何も解決しませんよ。 この拡張空間だけでもブリキ缶の主がSICK案件に触れてるのは確実です、解決すればきっとボーナスがありますよ」
「そうねー、どう見てもあの城の中って戦闘地帯だし危険手当も出るんじゃない?」
「たしかクレカ止められた言うてたな、ソシャゲに課金しすぎたんやろ?」
「っしゃーやる気出てきたぁ! パイセンは新人ちゃんとガハラ様連れて前進、ボクは先に潜入して安全確保してくる!」
だがおかきたちも忍愛の動かし方は熟知していた。
埃と赤さびを巻き上げて駆け出した忍愛は風よりも速く、その後ろ姿はあっという間に小さくなる。
ひとたびスイッチが入ればその実力は折り紙付き、座して待てば斥候として申し分ない仕事を果たしてくれるだろう。
「ゲホッゲホッ! 忍びならもうちょっと落ち着きを持ってほしいものね……!」
「けふんっ……ちょっと焚きつけ過ぎましたかね」
「あれぐらいでちょうどいいやろ、ほなうちらもゆっくり行軍しよか。 流れ弾には注意しとき」
「注意してどうにかなるとは思いませんけどね……」
「任せなさい、手当くらいはできるわよ」
――――――――…………
――――……
――…
「あっ、来た来た。 パイセンこっちこっちー」
「おう、やっとんな。 ずいぶん景気ええこって」
たまに爆風に乗って飛んでくるガレキに警戒しながら進むおかきたちが城の目前に到着すると、城門の前には先に偵察していたはずの忍愛が待っていた。
気絶した不良を重ねて築いた山に腰かけながら。
「組織の規模が窺える人数ですね、怪我はないですか忍愛さん?」
「そんな心配してくれるの新人ちゃんだけだよ~! ボクは無事、こいつら物騒なモン持ってたけどさ」
そういって忍愛が両手を開くと、バラバラになった金属製の部品がブリキの床に散らばる。
足元に転がってきたものをおかきが拾うと、黒く光るそれは拳銃のシリンダーに酷似していた。
「これは……本物ですか?」
「本物だよ、全部バラしちゃったけど。 だけど扱ってるのは素人、僕に向けて撃つ度胸なかったから」
「学生に人撃つ度胸はないでしょ……でも裏を返せばただの学生ってことよね?」
「うちらみたいなアングラな連中と関わりはなさそうやな、そうなるとどこからチャカなんて物騒なモン引っ張って来たかわからんけど」
「なら本人に聞いてみよっか、ほら起きろー」
「ぐへっ!? な……なんなんだよテメェらは……」
忍愛が尻に敷いていた不良の尻を蹴ると、その痛みでモヒカン頭の少年が気絶から目を覚ます。
すでに完膚なきまで叩きのめされ、武器も没収されているこの状況でもかすかに戦意は残っているのか、ぐったりとしたままでも目だけは忍愛を睨みつけていた。
「質問してるのはボクだよ、この銃器はどこから仕入れた? 事と次第では学園で済む問題じゃなくなるよ」
「………………」
「よーし喋るまで指が何本逆関節になるか試してみようか!」
「忍愛さん、あくまで相手は学生なんですからお手柔らかに。 あなたも素直に喋った方が身のためですよ、組織からの報復が怖いなら我々で保護します」
「……お前、探偵部の藍上だろ? そっちは“雷神”のウカ、後ろのやつはパラソル製薬の狂人」
「なんか私の肩書だけ腑に落ちないわね」
「ボクは? ねえボクはかっこいいあだ名ないの?」
「黙っときや」
「俺が話せばテメェら探偵部はこの箱庭とキングを守ってくれるのか?」
「内容によりますが、少なくとも見捨てるような真似はしないと思いますよ」
「……なら頼む。 俺はいいからボスを――――」
――――モヒカン頭の言葉を遮るように固く閉ざされていた城門がはじける。
同時に激しい爆風と熱が築かれた不良の山ごとおかきたちを吹き飛ばし、皆散り散りにブリキの床を転がった。
「っ……おかき! お嬢! 無事か!?」
「あだだだ……! なんとか……ただ吹っ飛ばされただけ、おかきも一緒よ!」
「あじゃじゃじゃボクの髪が燃えてる燃えてる! クッソー何だってんだ一体!?」
「――――あぁ!? なんでお前らがここにいるんだよ!?」
「う……っ……その、声は……?」
甘音に抱きかかえられたおかきは痛む頭を起こして声の主を見上げる。
おかきたちの前で息も絶え絶えに立っていたのはこの場所にいるはずもない、そして先ほど会話を交わしたばかりの人物だ。
「……なんでここにいるのよ、悪花?」
「だからこっちのセリフだっつってんだろ、ガハラァ!」




