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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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黒点 ②

「派手にやられたわね山田! パラソル製薬オリジナルブレンド火傷治し(非認可)の性能はいかがかしら?」


「ジュクジュクした痛みがスゥーっと消えたのは良いんだけどさ、ガハラ様? ボクの身体が暗闇でぼんやり光るんだけどなんで?」


「副作用で蓄光するけど綺麗に治るなら些細な問題ね!」


「だから非認可なんやろ」


「まあともかく2人とも無事で何よりです……」


 怪盗事件から2日後、ようやく治療ポッドから引き上げられたウカと忍愛の2人は赤室学園内へと移送されていた。

 ただし治療は火傷や熱傷など表面的なものを目立たなくする処置が大きく、しばらく赤室内の病院で安静にすることを宮古野みやこのから義務付けられている。


「くっそー、もずく風呂よりましだけどヒマだよヒマ。 遊びに行っちゃダメ?」


「ダメよ、あんたの掌もほとんど焼けた鉄と癒着してたのよ? 元通り治したかったらまだまだ大人しくしてなさい」


「ウチらに元通りって表現が正しいのかはちょっと怪しいけどな」


「ウカさん、そのカフカジョークは笑えませんよ。 見舞い品ですがリンゴ食べます?」


「食べる食べる、新人ちゃん剥いてー」


「お任せください……そういえば正太郎君の処遇ですが」


 おかきは果物ナイフを手に取りリンゴを剥きながら、今回の事件の顛末を語り始める。

 ウカたちが治療に専念している間、SICKの尋問室で聞きだした事の真相を。


――――――――…………

――――……

――…


「……僕の家は代々探偵であり、怪盗だった」


「探偵であり怪盗」


「おかきちゃん、突っ込み出すと話が進まないからそこは一旦スルーだ」


 時は遡り、琥珀の心臓の収容に成功した翌日。

 おかきと宮古野の2人は強化ガラスで隔たれた対面窓越しに、怪盗事件の犯人――――つまり双葉 正太郎と相対していた。


「言っておくけどその辺の泥棒と怪盗は全くの別物だからな! そもそも僕の家は代々続く由緒ある……」


「長くなりそうなので先に確認しますけど、彼の話はそのまま信じていいんですかね?」


「双葉一族が代々探偵職を継いでいるのは本当さ、彼の祖父は安楽椅子に腰かけながら未解決事件を同時に3つ解決したのはその道じゃ結構有名だぜ」


「探偵として()有名ですか」


「ああ、怪盗としての犯罪歴も洗ってみたがそれらしい足跡は一切なかった」


「……あの、僕の話聞いてるか?」


「ああごめんごめん、だけど探偵としての武勇伝はおいらたちも散々調べたあとだ。 赤室学園に入学するのもうなづけるご活躍ぶりだね、そんな一族がなぜ裏で怪盗なんてやってたんだい?」


「別に金や宝石が欲しかったわけじゃない、ただ隠された謎を暴くだけじゃ救えないものがあっただけだ」


「……盗品ですか?」


 おかきの言葉に、ガラス向こうの正太郎がうなずく。

 

「この世には善良な人を騙し、欺き、貶めて大切なものを奪う連中がいる。 厄介なことにそういう連中に限って金持ちだったり社会的な地位が高い奴も多いんだ」


「たとえ手段が詐欺まがいでも法的手続きを踏んでいるなら探偵ができることはない。 そんな領分を超えた悪人から被害者の品を取り返すための怪盗稼業だったと」


「僕はおじい様からそう聞いた、ほかにも人の常識を超えた危険なオーパーツを悪人から奪還したりな。 あの仕込み杖や怪盗スーツもその過程で作られたものだ」


「なるほどね、あの超性能のパワードスーツにも合点がいった。 まあ杖ともども炭になっちまったわけだけど」


「あああぁぁああぁどうしよう僕のせいで代々の稼業がぁ……!」


「おいらたちも修復できないか努力してみるから期待せず待っていてくれ、しっかしなんで彼みたいな存在を今まで見落としてたかなぁ」


「無理もないですよ、少年の言い分を信じるなら盗みの対象は後ろ暗い悪人ばかりでしょうし」


 琥珀の心臓のような危険なオブジェクトを悪意を持って所持しているなら、わざわざ警察に駆け込むような真似はできない。 怪盗への対応を内々で処理していたならSICKの情報網に引っかからないの当然だ。

双葉家の怪盗たちもそういった弱みに付け込み、暗躍してきたのだろう。 そうなると派手なパフォーマンスを披露した正太郎が異質な存在だが。


「失礼ですが正太郎少年は今回が初仕事と言っていましたね、前任者は誰が?」


「おじい様だ、僕の憧れだったけど……去年の夏に、もう……」


「……そうですか、辛いことを聞いて申しわけ」


「ぎっくり腰をやらかして現役を引退してしまった……!」


「キューさん、一発ビンタしたいのでこの窓撤去してください」


「落ち着きなおかきちゃん。 前任者と君の間に1代ブンのブランクがあったわけか、お父さんは継がなかったのかい?」


「父さんは生まれつき目が弱いんだ、夜闇で活動する怪盗にはなれなかった。 探偵としては腕はおまえ……じゃない、藍上先輩のはるか上を行くけどな!」


「無理に敬称を付けなくてもいいですよ、後輩をこんな施設に軟禁している先輩なんて」


「……なあ、あんたたち一体何者なんだ? 探偵同盟でも怪盗会でもない、僕はこれからどうなる?」


「素直に協力してくれるなら何もしないさ、他言無用の契約だけ結べば学生生活に戻れることを保証しよう。 幸い君は負傷も軽いしすぐに学園に帰れる」


「山田先輩もこの組織に所属してるのか?」


「そうだとも、あとでお礼を言うといい。 彼女がいなければ君は今ここに座っていないからね」


「な、なら僕もこの組織に所属……いや協力したい!」


「それについては君の態度次第だ。 重ねて確認だが館長を地下室で殺したのは君じゃないのか?」


「違う! 怪盗は人殺しなんかしない、僕は誓ってこの手を血に染めてはいないぞ!」


 興奮した正太郎は椅子を倒して立ち上がる。

 その姿に後ろで待機していた制圧用スタッフが警棒に手をかけるが、宮古野は何も言わず片手をあげて彼らを止めた。


「君の言葉を信用したいが、館長の死にはおいらたちも疑問点が多いんだ。 万が一にでも彼の死に関わっている可能性がある限り、君を受け入れるわけにはいかない」


「そ、そう言われても僕は本当に……」


「1つ気になったのですが、少年はどうして琥珀の心臓を狙ったんですか? たしかに館長は叩けば埃の出る人物でしたが」


「それは……」


 正太郎の視線があからさまに泳ぐ。

 腹芸などできない幼い葛藤が彼の中で揺れ、やがて腹をくくった少年の口が開かれた。


「…………依頼を、受けたんだ」


「――――依頼?」


「ああ、琥珀の心臓を盗み出してほしいと。 被害者を名乗る人物からな」

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