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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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出汁探偵 ②

「ふーん、つまりそのSICKで管理すべきか疑わしいお宝を狙う怪盗を捕まえる仕事ってことね」


ご主人(ごすずん)はすこし働きすぎだと我思う」


「いうてここで逃げたら探偵の名折れやろ、なんたって“怪盗”との対決なんやからな」


 SICKから戻ったおかきはその足でまっすぐ寮へと帰り、持ち帰った情報を仲間へ共有した。

 その結果、自室で開催されたのは、野菜スティックをおやつ代わりに齧る健康的な女子会だった。


「けど怪盗ねえ、同業者として忍者やまだはどう思う?」


「山田言うな、あと忍者を盗人と同じ目線で語らないでよ! ボクらは誇り高き闇の仕事人なの!」


「ずいぶん埃積もったプライドやな」


「それで怪盗って本当にいるの? 漫画やドラマだけの存在と思ってたけど」


「残念ながら今回のように予告状を出す怪盗はいないと()()()()()()ね、義賊という括りなら石川五右衛門や鼠小僧などが有名でしょうか」


「なーんだ残念……いないとされている?」


「ええ、SICKのサーバーには該当する記録がいくつか記録されていました」


 超能力者や異常な病の感染者が存在するこの世界、超常的な怪盗がいてもおかしくはない。

 そのためおかきも気になって調べてみた結果、SICKの介入により未然に防がれた怪盗事件がいくつか発見された。

 当然それらの事件は情報統制が敷かれ、予告状1つとて表沙汰になったことはない。


「現在SICKに拘留されている自称怪盗の方々にも話を聞きましたが、今回の犯人に繋がる情報は得られませんでした」


「ちゃんと捕まってる怪盗ってなんか嫌ね」


「つまり情報なしってことでしょー、この予告状にも名前書いてないわけだし」


 野菜スティックに飽きた忍愛は例の予告状をコピーしたプリントを掌で弄ぶ。

 彼女の言う通り、予告状に掛かれているのには犯行日と盗む対象だけであり、犯人の名前はどこにも載っていない。

 名を明かさぬのは盗人としては当たり前のことだが、怪盗のロマンとしてはあまりにも痛い片手落ちだ。


「凡ミス……とは思えんな、糸クズ一本も残さん犯人や。 けど名前残さん理由ってなんや?」


「待ってボクのピンク色の脳細胞にピンと来たぞ……切り抜きの新聞紙にちょうどいい文字がなかったんだ!」


「だとしたら間抜けすぎるでしょ」


「あるいは……まだ名乗る名前がないのかもしれませんね」


 もしこの琥珀の心臓がデビュー戦ならば、怪盗として名乗る名がないのも不思議ではない。 華々しい犯行とともに名乗りを上げればいい宣伝となる。

 そもそも過去の怪盗はSICKによってほぼすべて把握されている、いまさら予告状を送り付けるものなど新人しかいない。


「ふーん、じゃあわかばマークの怪盗……名前がないのも呼びにくいし、怪盗ワカバってことにしよう!」


「さすがにもうちょっとかっこいい名前にした方がいいんじゃない?」


「重大事件の犯人にあえて不格好な仮名をつけるのはよくあることらしいですよ、実際に犯人から警察に抗議の電話が掛かって逮捕の要因になったこともあるとか」


「まあこんなかっこつけた手紙出すやつなんてよほどの目立ちたがりやろな、そら効くわ」


「そういえばご主人、この怪盗事件は世に知られているのか?」


「いえ、命杖先輩のおかげで初動の情報規制が間に合いましたから秘匿……」


「おかきさーん! おりましてー!? 菓名草よもぎですわー!」


 女子会という名の密談をけたたましいノックが遮る。

 その瞬間、野菜スティックを齧っていたタメィゴゥは見事な跳躍で棚上の座布団に飛び乗り、ぬいぐるみに擬態。

 他屋上に広げていた怪盗事件の調査資料も素早くおかきが回収し、怪しい痕跡はすべて部屋の死角へ隠された。


「よもぎさん、廊下で騒いでは皆さんの迷惑になりますよ。 お静かにお入りください」


「ああ、これは失礼いたしましたわ……そしてお邪魔いたしますわー」


 何事もなかったかのようにおかきが部屋の戸を開けると、肩を落としたよもぎが静々と入室する。

 しかし普段からやかましい少女だが、TPOを弁えないほど空気が読めないわけではない。

 よもぎらしからぬ振る舞いにおかきは首をひねるが、その理由は彼女が握りしめたものを見ればすぐに分かった。


「……よもぎさん、何でしょうか? その新聞紙は」


「あっ! そうですわ、忘れるところでしたわ! おかきさん、()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


 咎められてしょぼくれた顔をあっという間に輝かせ、よもぎには握りしめていた新聞を広げる。

 そこには「探偵部、満月の美術館にて怪盗と激突!」という見出しとAIで描かれた違和感のあるイラストがデカデカと印刷されていた。


「…………よもぎさん、これは?」


「第三報道部の号外ですわ! 刷りたてホヤホヤの温かみがまだ残ってましてよ!」


「第三……あの三流ゴシップ屋ね、挿絵ぐらい自分で描きなさいっての」


「しかしこれは由々しき事態ですよ、記事の信ぴょう性はともかくどこからかリークがあったということです」


「リーク、ということはつまり怪盗との対決は事実ですの!? ロマンですわー!」


「おうよもぎの嬢ちゃん、この新聞はどこで手に入れたんや」


「寮の前で今絶賛配布中ですわ!」


「配布中って……誰がよ?」


「理事長様ですわー」


「「「「理事長ぉ……?」」」」


 4人の声が揃い、いち早く動き出した忍愛が窓を開けて真下に見える正面玄関を覗き込む。

 よもぎの言う通り、街灯に照らされる夜闇の中では、大げさなパフォーマンスを混ぜながら寮生たちに新聞を配り回る胡散臭いシルクハットの姿があった。

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絶対理事長のリークじゃん
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