卓上談義 ②
「えーと龍宮院龍宮院……あったあった、たしかに普通に営業しているみたいね、口コミ評価平均☆3.98」
「高評価やな」
「病院も客にレビューされるって世知辛いね」
「ンなことはどうでもいいんだよ、SICKのサーバーには何か情報ねえのか?」
「今調べていますけど何もヒットしませんね、至極真っ当な経営をしているようです」
「じゃあなんであの五月蠅いおっさんはそんなところの住所送り付けてきたのよ」
首をかしげる甘音の疑問には誰も答えられない。
カガチが示したならばこの病院に何かがあるのは間違いないが……
「これイタズラってことはない? ボクらのことからかってんだよあのメガネ」
「それにしたって手が込みすぎだろ、おちょくるためだけにここまで複雑な暗号用意したってんなら狂ってやがる」
「それにカガチは知識や答えを求める者には敬意を払っている節がある、意味のない問題を解かせる真似はしないと思います」
「了解、じゃあ暗号が正しいって前提で話す。 もしくは悪花様が解き方間違えたとか?」
「殺すぞ山田ァ、たしかに全知無能は使ってねえが俺は手を抜いたつもりもねえ」
「まあ実際現地に行ってみるしかないやろ、そこにオリジンとやらのヒントがあるならな」
「ただ……遠いですね」
地図アプリで確認した龍宮院の場所は、赤室学園から県をいくつか跨いだ位置にある。
とても日帰りで出かける距離ではない、オリジンについて調査も必要ならば予備日も必要だ。
「ま、焦らなくてもいいんじゃない? 病院は逃げないわ、長い休み取れるタイミングで出かけてみましょ」
「そうですね……って、その言い方だと甘音さんも同行するつもりですか?」
「医療機関が相手なら私は使えるわよ、パラソル製薬の名は伊達じゃないわ」
「頼もしいが遊びじゃねえんだぞ、アクタの一件で懲りてねえのかよお前はよ」
「私としても甘音さんの気持ちは嬉しいですが……」
「深追いはしないわ、おかきたちが危険だと判断したらすぐ逃げる。 友達の力になりたいじゃ身体を張る理由にならない?」
「むうぅ……」
天笠祓 甘音は愚直だ、自分が「そうしたい」と思えば最短最速で相手にぶつかっていく。
あまりにもまっすぐで眩しいその姿はおかきには直視できず、彼女に強く出られると断れないことが多い。
そして甘音はそのことを知りながら突っ込んでくるのだから性質が悪い。
「お嬢、あんまおかき困らせんといてや。 とにかく今日はこれ以上話しても埒開かんわ、どないするかはまたあとで話そうや」
「そうそう、というわけでつぎは新人ちゃんたちの手番だよ」
「ぶーつ……あむさぐ……ぶーつ……」
「ウギャー!!?」
「お見事ですアリスさん、ペナルティ込みで我々の勝利です」
アリスが場に置いたカードからスコアを暗算しながらも、おかきは頭の片隅で龍宮院について考える。
カガチがわざわざ提示したヒントなら調査に赴く価値はある、甘音のコネも借りれば院内でもスムーズに動き回れるだろう。
だがおかきの中には彼女を巻き込みたくないという気持ちも同時にある、もしも龍宮院がカフカと関わっているなら、何が起きるかおかきたちにも予想できないのだから。
「うーんけど龍宮院ね……どこかで聞いたことある気がするのよね」
「そりゃお嬢なら病院の名前ぐらい聞いたことあるんちゃう?」
「リュウグウって言ったらあれだよね、浦島太郎」
「そりゃ“竜宮”だろ、字がちげぇよ」
「けど珍しい名前やな、なんか由来とかあるんか?」
「詳しくないけどこういうのは創業者の名前とか当てられるんじゃなーい? そこんとこどうなのガハラさm」
「おはようございますわー!! 藍上さん、今日こそ勝たせてもらいますわよ~~~!!」
「ハーッハッハッハ!! 昨日はかわいい同室っ子がお世話になったね諸君!!」
「やかましいのが来たわね」
遊戯室に蔓延る閑古鳥を蹴散らして入室してきたのは、よもぎとロスコの2人。
疲労が抜けないおかきに比べて快眠できたのか、よもぎ(とついでにロスコ)の表情には活力が溢れている。
「おはようございます、お二人とも。 ちょうど今1ゲーム終わったところですがよもぎさんも参加しますか?」
「なにか難しそうなゲームをやってますわ! なんですのこれ?」
「十二季節……まほーつかい……」
「ルールなら新人ちゃんが説明してくれるから一緒に座りなよ、おチビ3人でちょうどまとまりもいいし」
「じゃあ次は罰ゲーム有でやりましょうか、負けた人が忍愛さんに甘音さん印の実験薬を飲ませるということで」
「しまった地雷を踏んづけたぞボクへのメリットが皆無だ」
「ほほう、これが君たちの舞台かい? 僭越ながら私も上がらせてもらってよろしいかな?」
「ロスコさん、もちろんですよ歓迎します」
ボドゲ部鉄の掟:興味を持った新人は徹底的に沼へ落とせ、その教えに従いおかきはロスコを隣の席へ座らせる。
歌劇めいた振る舞いがノイズだがむしろ彼女は呑み込みが早い方だ、1~2回テストプレイを挟めばすぐにルールも覚えてしまうだろう。
なによりおかきは演劇ガチ勢がプレイヤーとして卓に座るTRPGに興味があった、だからこそこのボドゲからどう話を移そうかと思案するが……
「しかしさすがだね、もう準備を進めてるとは。 これは我々もうかうかしていられないなハーッハッハ!」
「準備……? 何の話でしょうか」
「おや、違うのかい? ほら、もうじき例のイベントがあるだろう――――初等部とのレクリエーションがね」




