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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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けたたましい休日 ③

「くっ、またダブりか!!! おのれアコギなカプセルトイめ、だが大人の財力を舐めるなよ!!!」


「……なあおかき、あれ」


「ウカさん、お静かに。 今スルーすべきかどうか悩んでいるので」


「いい年こいた大人が全力でガチャに挑む姿ってあんなにシュールなんだね」


 遠巻きにおかきたちが見つめる先、店先に並んだカプセルトイを前に闘志を燃やすカガチの姿がそこにはあった。

 片手に100円玉で満たされた紙コップを抱えた白衣の長身男性は新宿の真っただ中でかなり浮いているが、本人は周りの目など気にせずおかきたちにも気づいていない。

 男の名はカガチ。 SICKから離反し、赤室学園で暮らすおかきたちに“試験”と称したわなを仕掛けてきた相手だ。


「藍上さん、お知り合いですの? あの声のボリュームが大きい方」


「まあ、知り合いというかなんというか……」


「ちょっとうちらの門扉に銃弾ぶち込んでケンカ吹っ掛けてきたような間柄や」


「戦争ですわ~~~!!」


 SICKとしてはすぐにでも捕らえるべき相手……だが今は一般人アリスたちを連れている。

 中でもよもぎはおかきたちの正体すら知らない、万が一カガチが抵抗すれば人質になる可能性もある。

 宮古野へ連絡するとしても一度ここは引くのが安全と判断し、ウカたちとアイコンタクトを取ってその場を離れようとするおかき。


「ねーボクお腹すいちゃったからなにか食べなーい? ぷるんぷるんのパンケーキ食べたーい!」


「昼にはちょっと早いけどまあええか、ほなちゃっちゃと移動しよかみんなー……って、アリスちゃんどこいった?」


「アリスさんならその……けたたましいおじ様のところに……」


 ウカはごく自然な流れでカガチから距離を取ろうとする、いつの間にか隣にいたはずのアリスが消えていることに気づく。

 そして気まずい顔のよもぎが指した先、つまりガチャを回すカガチの隣になぜか一緒に排出物を吟味するアリスの姿があった。


「クタにょん……」


「むっ、同胞か!! 気づかず独占していたな、申し訳なかった存分に回すといい!!」


「なにしとんねーーーーーーん!!!!!」


「おお、SICKの小娘! ということはそこの同胞も前たちの仲間か!! つまり貴様たちも我らが同胞という事、歓迎しよう!!!」


「うるさいですね……」


「あーもー、ボクしーらない」


 神速で距離を詰めてアリスとカガチの間に割って入るウカ。

 当然ながらそんな真似をすればカガチにも気づかれ、あとは芋づる式におかきたちも見つかってせっかくの隠密作戦もパーだ。


「しっく……? はて、何のことですの?」


「よもぎちゃーん? おかきたちはちょっと込み入った話するみたいだから私とこっちでお話しましょ、打倒おかきの作戦会議よー!」


 空気を呼んだ甘音(とその護衛のユーコ)に手を引かれ、よもぎが安全なところまで退避する。

 そして残された者たちの間に走る一瞬の緊張を真っ先に破ったのは、この中で最も冷静に状況を俯瞰していたカガチだった。


「ふむ……SICKも知らぬ人間を連れているということはなるほど、お前たちもオフか!!!」


「声のボリュームを落としてもらえませんかね……悪目立ちするのはお互いのためではないでしょう?」


「ふはは誰よりも悪目立ちする容姿と背丈をしているくせに面白いジョークだな藍上おかき!!!」


「離してださいウカさん! あの無駄に髙そうなメガネを殴り割ってやらないと気がすみません!!」


「落ち着けおかき! 悔しいけどうちもちょっとお前が言うんかと思ってもうた!」


「ふむ、しかし街中で目立つなというなら仕方ない。 この新人スタッフにプレゼントされた遮音性マスクを装着しよう!」


「やっぱ仲間からもうるさく思われてるんだ」


 カガチが白衣から取り出した不織布マスクを装着すると、鼓膜に響く声量が途端に絞られる。

 おかげでおかきたちの耳へ与えられるダメージもかなりマシになったが、すでに周りから集まった視線は変わらない。


「さて、この通りお互い休暇を楽しんでいると見受けるがどうする? 今日は新作クタにょんをコンプリートするつもりだったのだが」


「余ってるの……あげる……」


「おお幼き同胞、これはかたじけない! だが無償というわけにはいかないな、こちらにも払う礼儀がある」


「アリスさん、仲がいいところ申し訳ないが下がっていてください。 その男は危険です」


「ふはは、心外! しかし……だ、そちらがそのつもりならこちらも全力で抵抗しなければならない」


 カガチはおもむろに白衣の内側から黄色い無地のラベルが張られた試験管を取り出す。

 コルク栓で封じられた管の中には無色透明の不穏な液体で満たされているが、その正体はわからない。


「……なにをするつもりですか?」


「自衛だとも。 手荒な真似をするつもりなら封を解く、そこの忍者もおかしい動きはしないようにな」


「残念やったな、山田がおかしいのはいつものことや」


「パイセン? それフォローになってる?」


「何度も言うがこちらはただの休暇だ、貴様らも同じだろう? お互い損をしないためにもここは休戦協定と行こうではないか」


「…………」


 毒物、爆薬、あるいは感染力の高いウイルス、あらゆる想像がおかきの脳内を駆け巡るが明確な回答は出ない。

 それにたとえ特定したとしても中身が解放されれば意味はない、カガチの自衛になにも備えていないのだから。


「……わかりました。 こちらも衆人環視の前で物騒な大捕り物はできませんからね」


「ハッハッハ、さすが我が同胞! 物分かりが良くて大変助かる、では行こうか!」


「はっ? 行くってどこに……」


「決まってるだろう、休暇の続きだ! 先ほどいた貴様らの学友も呼ぶといい、今日はこのLABO局長カガチが奢ってやろう!」


「「「…………はっ?」」」

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