かきもちやきもちよもぎもち ③
「えーっと……ウカさん、お知り合いですか?」
「いやどう見てもおかきに用事ある感じやけど」
「オーホッホッホ!! その通り、私がご用事あるのは藍上さん、あなたのほうですわ~~~!」
セレブを間違えたようなバブリーな扇子を構え、ザ・お嬢様なポーズで高笑う少女。
背丈はおかきとほぼ同じ(かむしろ若干高い)程度、おそらく初等部の学生と思われる。
ただ学生服を改造したようなドレスは裕福な懐を抱えている証拠だ。 APを用いて服装改造権を購入していなければ学園規則に抵触するのだから。
「申し訳ありません、覚えがないのですがどこかで会ったことが?」
「なんと!? 生涯のライバルである私のことをお忘れで!?」
「初耳ですうぼろふっ」
おかきがぽっと出のライバルに首をひねっていると、その背中に鋭い衝撃が激突する。
もはや親のタックルより喰らった高速タックル、もはやおかきも犯人の正体は振り返らずとも察していた。
「ど、どうもアリスさん……お出かけだったんですね」
「……クタにょん、コンプ」
おかきの腰に抱き着いたまま、銀髪の少女はどこか満足げな表情で学生カバンにぶら下げた不気味な猫(?)のキーホルダーたちを見せつける。
彼女の名はアリス、悪花と同室かつおかきとは血の繋がらない姉妹とも呼べる関係を持つ存在である。
そしてカバンにぶら下がったキーホルダーは本日から全国に設置された「カプセルトイ:くたくたクタにょんシリーズpart5(1回300円)」全種コンプリートセットだ。
「ああ、アリスさん! 淑女の腰に抱き着くなどはしたない真似をして!」
「……? おもち……」
「よもぎですわー!? 私の名は菓名草 よもぎ! 赤室探偵団のリーダー兼あなたの同級生ですわ!!」
「よもぎもち……」
「よーもーぎーでーすーわー!?」
「ええコンビしとるやん自分ら」
「それより赤室探偵“団”とは?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれましたわ!!」
待ってましたとばかりによもぎが扇子を煽ると、達筆で書かれた「解決」の文字が広がる。
「赤室探偵団とは私が立ち上げたこの学園の平和を守り悪を断じる正義の組織、そしてアリスさんも探偵団の一員ですわ!」
「………………」
「アリスさんは千切れんばかりに首を横に振ってますけど」
「ですわー!?」
「そもそも探偵団ってのが疑問なんやけど、部活動とはちゃうん?」
「うぐ……さすが我がライバルのお部下さんですわ、痛いところを……!」
撃たれたように胸を押さえ、苦し気に一歩後退するよもぎ。
ノリがいいよもぎのリアクションに関西の血が騒ぐのか、おかきにはこころなしかウカがいつもより楽しそうに見えた。
「お察しの通り探偵団は部活としての成立条件を満たしておらず、学園非公認の組織ですわ……」
「ちなみに探偵団のメンバーは何人ですか?」
「私とアリスさんの2名ですわ!」
「実質1名やないかい」
「ぐうの音も出ませんわー!! ……しかし、そんな折に現れたのがあなたでしてよ藍上 おかきさん!」
「……後続のくせに部活動を設立した邪魔な存在、ということですか」
「おもち……醜い……」
「自身の嫉妬心を改めて訳されると心にクるものがありますわー!!」
「いえ、こちらこそなんだか申し訳ないです。 まさか競合他社がいたとは……」
おかきも探偵部を設立する際、念のため同じような部活動が先に存在していないか目を通してはいた。
結果として学園内の自治は教師や風紀委員が務めているため、需要が競合する部は存在しないと判断。
元より半分お飾りとしての部活動だったとはいえ、詳しい調査も勧めず非公認の活動を見落としていた落ち度をおかきは素直に謝罪する。
「そ、そうも素直に頭を下げられると私としても困りましてよ!? 人間性でも完敗してしまうのでやめてくださいまし!」
「おかき、向こうさんもこう言うてるし頭上げた方がええで。 話も進まなくなるわ」
「そうでしたわ! 私、今回あなたたち探偵部に勝負を挑みに来ましたの!」
「勝負ですか、具体的にはどのような内容で?」
「もちろん探偵と言えば推理勝負! ……と言いたいところですけど現在それらしい事件もなにもありませんわ」
「それならおかき、この子に依頼手伝ってもらうのはどうや? どちらが先に全部片づけられるか勝負っちゅうことで」
「ウカさん、さすがにそれは図々しいですよ」
「いいえ、それで構いませんわ! 優秀な探偵ならばどんな以来でも迅速にこなせるというもの!!」
ウカの提案に対し、止めるおかきの声も聞かずよもぎは二つ返事で了承する。
オーバーワーク気味なおかきの仕事量を体よく振り分けられただけなのだが、当の本人はまるで気づいていない。
「ほな依頼は猫探しが8件、半々に振り分けで1チーム4件ずつの勝負や。 人数が不公平やさかい、そっちには保護者としてうちが同行したるわ」
「フェアプレー精神ですわね! よろしくお願いいたしますわ!」
「もう、ウカさんってば勝手に話を進めて……」
「まあまあ、これで納得してくれるなら手っ取り早くてええ話やろ? それで勝負に負けた方はどないする?」
「もちろん私が勝った場合はアリスさんを我が探偵団に……と言いたいところですが無理な勧誘は非お嬢様的行為。 えーとえーっと……藍上おかきさん、私が勝った暁にはあなたに“ぎゃふん”と言ってもらいますわ!」
「ぎゃふん」
「今言ってもらっても何も嬉しくありませんわー!! そちらは何がお望みでして!?」
「私からは……そうですね、勝ったときのお楽しみということで」
「むむぅ、自信満々ですわね……!」
元よりおかきからすれば交通事故のように降って湧いた勝負、勝者の特権として望むことは何もない。
そのためあとで当たり障りのない内容を考えるつもりだったが、よもぎからすればそれは不敵な挑発に見える行いだった。
「両者合意ということでええな? 証人はうち含めてこのロビーにいる学生全員や、ほな位置についてよーい――――スタート!」




