白紙の回答文 ③
「新人ちゃん、この学園にピースがあるって根拠は?」
「LABOは24時間以内という制限を設けました、これが試験というなら不可能な難易度にはならないはずです」
「けどあのクソメガネがそこまで他人の事情を気にするかァ? “これぐらいできない無能に用はない”ってほざきそうなもんだが」
「では仮に捜索範囲が日本中として、カガチという人は同じ条件の試験をクリアできる方ですか?」
『LABOの総力を使えば検索まではできるだろうけど、実際に集めるとなるとちょっと怪しいところだな。 個人の力で言えばまず無理だ』
「なら同じような無茶は振らないと思います。 彼が求めているのが優秀な部下であるなら、自分より優れた能力が求められる試験を用意しません」
『なるほどな、一理ある。 では学園内に手掛かりがあるとみて調査を進めようか』
「手掛かり言うてもな……この紙切れの生き別れを探すってかなり難しいで?」
全員の視線がおかきが持つ白紙片に集まる。
赤室学園の総面積はおよそ5平方㎞、闇雲に探したところで24時間に見つけ出すのは現実的ではない。
おかきが推理したのはあくまで試験の合格条件、紙片の居所に関しては一切手掛かりがない。
「悪花様、条件絞れてきたけど検索できそう?」
「まだプールに落ちたコンタクトレンズ探すような難易度だ、3か月くれ」
「お話にならないわね」
「うっせぇぞガハラァ、そういう能力なんだよ! 一応解析は続けるが期待すンなよ」
「グビッグビッグビッ……いや、暁さんはお昼に能力酷使したばかりだから休んでいて。 元を辿れば身内から出た不祥事、この問題はSICKでなんとかします」
飲み干した酒瓶を後ろ手に隠しながら飯酒盃が真剣な顔で宣言する。
おかきたちももはや何も言わないがこれは彼女なりのルーティンだ、飲む酒の種類で彼女の性能は可変する。
今回呷ったのはコーヒーリキュール、飯酒盃にとってはエナジードリンクより効き目のあるカンフル剤……つまるところこれから始まるのは一発逆転の一手ではなく、強い根気が必要となる“虱潰し”の作業だ。
「まず配送業者に当たって手紙の流通にSICKの目を通します、不審な手紙はいつも以上に厳しく弾いて1つずつチェックするわ」
「けど飯酒盃ちゃん、すでに配達された手紙はどないする?」
「そちらは稲倉さんたちにお任せしまぁーす!」
「うわー無茶ぶり! 頑張ってねパイセン」
「お前も道連れやで」
「ヤダー!!!」
「けど先生、手紙以外にも適当な場所に隠されている可能性はあるんじゃないかしら」
「そのケースは私がケアします、ここは人海戦術に頼りましょう」
「おっ、なんや策があるんか?」
――――――――…………
――――……
――…
「というわけで皆さん、怪しい紙を見つけた場合は私にご報告ください」
「「「「「にゃーーーん!!!!」」」」」
「一応弁明しておくけど新人ちゃんは大まじめにやってるからね」
「大丈夫よ、わかってるわ。 ついでに録画も回してる」
「甘音さん、そのスマホをこちらに渡してください速やかに」
タイムリミットまで残り23時間、寮の裏手にある芝生の上ではおかきを主催とする猫の集会が開かれる。
以前に甘音が作ったカフカ治療薬(仮)の後遺症により得た猫との会話能力、今回ばかりはその力が役に立つ時だった。
「これで人(?)員は確保できました、今に学園中の猫へ話が伝わるので捜索網の強度も問題ないかと」
「「「「「にゃーーーん!!!!」」」」」
「おかきあんた大道芸人として食べていけるわよ」
「あいにくSICKの給料で十二分に食べていけるので……それより時間がないので私たちもすでに配られた配達物を洗いましょう」
「でも簡単な話じゃないよ? 今はみんな寝てるし、手紙なんてプライバシーの塊渡してくれるかな」
「そこはお前の仕事や山田、忍び込んで盗み取ったれ」
「ボクに乙女の秘密を盗めだなんて……でもちょっと興味あるな」
「その時は心底軽蔑するから覚悟しておきなさいよ」
「甘音さん、お手柔らかに……そうはいってられない状況になる可能性もありますから」
今こそまだ穏やかな空気だが、それはLABOが仕掛けた試験がただ「千切れた紙をすべて集めろ」という単純な物にすぎないからだ。
暴走バイクを止めるような緊張感はない……が、まだおかきたちは試験の全貌を知らない。
双子が操るバイクに爆弾が隠されていたように、この手紙にもなんらかの不穏因子が仕組まれている可能性は高い。 LABOはSICKへ明確な悪意を抱いているのだから。
「……残り23時間、順調に進めば紙片は集められる……けど、本当にそれだけ……?」
「ん? 新人ちゃん新人ちゃん、キューちゃんから連絡来てるよ」
「っと、すみません。 はいこちらおかきです」
『やあおかきちゃん、1時間ぶり。 さっそくだけどちょっとばかし拙いかもしれない』
思考に耽りかけた意識を戻し、おかきは胸ポケットで震える携帯を取り出す。
しかし通話口の向こうから聞こえてきたのは、先ほどより明らかに沈んだキューの声色だった。
「悪い知らせですね、やはりLABOが何か仕組んでいましたか」
『ああ、クッソ悪辣な仕掛けだ。 ウカっちたちもそこにいるかい?』
「全員揃っとるでキューちゃん、何があったん?」
『気を付けろ、あれは質の悪い不幸の手紙だった――――このままじゃ学園中の人間が死ぬぞ』




