ウラに隠れたワル ⑤
「はぁー疲れた疲れた……宮古野 究ただいま戻りましたぁーっと」
「おかえり、その様子だと作戦は上手くいったようだな」
「やあ局長、ご傷心のところ悪いけど悪い報告ともっと悪い報告があるよ」
SICK本部局長室。 先の暴走バイク事件を片付け、分厚い報告書を片手に戸を叩く宮古野を書類の山に埋もれた麻里元が迎え入れる。
デスク脇のごみ箱に捨てられているのは「ラムネ味」と書かれたアメの包み紙。 この時点で宮古野はこれまでの経験から、麻里元がなかなかの重傷であることを見抜いていた。
「その前に1つ聞くが、負傷者はいたか?」
「奇跡的に0、魔女集会の人員含めてね。 おかきちゃんの手柄だよ」
「そうか……悪花のやつは搬送されたと聞いたが」
「能力の使いすぎで知恵熱が出ただけさ、命に別状はないぜ。 そんなに気にかけるなら自分で見舞いに行けばいいじゃないか」
「私は嫌われているからな、彼女にとって同族であるおかきたちの方が警戒されない」
「だからってわざわざ嫌われ役を務める必要もないと思うけどね、いくらSICKの面子があるとはいえさ」
悪花が離反した原因である服毒事件はSICKの不祥事とはいえ、その長である麻里元が魔女集会と懇意にしては部下に示しがつかない。
SICKの理念はあらゆる異常存在の管理、その中には当然魔女集会も含まれる。 へりくだるような真似を見せれば内部で反発が生まれ、以前のように悪花たちを“排除”しようとする職員が現れる恐れもある。
だから麻里元はスタンスを崩さず、悪花と比較的仲がいい職員たちを補佐として送り込むのが精いっぱいだった。 本音としては今でも悪花のことはSICKの仲間だと思っていることに変わりはない。
「さて、そろそろ報告を進めていいかい? このあとも残業が待っているからここであまり時間を食っていられないんだよね」
「ああ、たしか悪い報告が2つあるらしいな。 いつものことだと思うが」
「これが日常茶飯事じゃやってられないんだけどね、まず犯人の身元が割れた。 予想通り魔化狼組の残党だったね」
「そこに余計なノイズがないのは嬉しい知らせだ、SICKもずいぶん恨まれているものだな」
「おいらたちを排除したい連中なんてごまんといるだろうね。 で、問題は今回の犯行に使われていたのが空間爆縮機構が積まれていたってこと」
「……それはまた物騒な代物だな」
宮古野が爆弾を覆っていた掌サイズの鉄板をヒラヒラ弄びながら口にしたのは、三次元空間そのものをほぼ0に等しい二次元上に重ね合わせて圧壊させるという高技術破壊兵器の名。
現代の表社会には出回っていない10年20年先の技術だ。 理論だけならまだしも、実物として組み立てられる人間は宮古野を含めて秀でた才能を持つ者に限られる。
そんなものが人目が集まる高速道路の一角で起爆などすれば、SICKへの被害は筆舌に尽くしがたいものになっていただろう。
「おいらも山田っちが解体した爆弾を見て卒倒するところだったよ。 信管にさえ触れなければ解体手順はそこらの爆弾と変わらないからね、多分本人も気づいてないよあれ」
「問題は一介のヤクザ崩れが手にできる玩具ではないということだな、本人への聴取は?」
「今は治療中だから意識が戻り次第迅速に進めるつもりだよ、おいらの勘だが得られるものは少ないと思うけどね」
「魔化狼の残党は捨て駒か……狙いは間違いなく我々だが、恨まれるあてが多すぎて黒幕が絞れん」
「はっはっは、その点ならご心配ないぜ局長ぉ。 今回まどろっこしいアプローチを仕掛けてきた黒幕は大方割れている」
犯人の特定が容易という言葉とは裏腹に、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる宮古野。
そして宮古野は弄んでいた鉄板を裏返すと、その裏に刻まれていたシンボルマークを麻里元へ見せつけた。
「“LABO”の連中だ、最近大人しいと思ったら仕掛けてきやがったぜあの裏切り者ども……」
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――――……
――…
「おかえりおかきー、ずいぶん遅い帰りね。 どこ行ってきたの?」
「ちょっと生と死の狭間のドライブを……」
「ずいぶん大冒険だったみたいね、お疲れ様」
日も落ちてきた頃合いに寮の自室へ帰還したおかきは、ふらつく足取りでベッドへ身体を投げ捨てる。
悪花が主導するスリリングなドライブと時間制限が迫る中で推理劇は、おかきの体力を容赦なく削り尽くしていた。
「何があったのかは悪花からおおよそ聞いたわ、また大活躍だったみたいね」
「ご主人、やはり次は我もついて行った方が……」
『姫! 某もただ待つばかりでは気が気ではない!! 刀としての本会を果たせぬなど……くっ、殺せ!!』
「タメィゴゥ、陀断丸さん、心配してくれてありがとうございます……ですが今回は人目が多い場所ですから、2人は連れていくのは難しかったんです」
タマゴのような謎の生き物(ダチョウ産)と喋る銃刀法違反、どちらも人目に付けば宮古野が泡を吹いてぶっ倒れるような異常性の塊だ。
そのうえ今回は魔女集会の助っ人として動く分、おかきも2人を連れていくわけにはいかなかった。
「そういえばおかき、あんた宛てに手紙届いてたけど誰か知ってる?」
「へっ? なんだろ、姉貴かな……」
“藍上 おかき”に変身してからという者、おかきは手紙のやり取りを交わすような人脈に心当たりはない。
あり得るとすればたまに届く保険や卒業後の勧誘を狙う企業からの無差別的手紙攻撃だが、その手の文書は甘音も熟知しているからわざわざおかきへ手渡すとは考えにくかった。
「見たことない便箋だから目に留まったんだけど、ほらこれ」
「………………甘音さん、それをどこで?」
甘音が机上に置いていた手紙をヒラヒラ振って見せると、おかきは顔色を変えて携帯を取り出す。
その手紙にはさきほど宮古野に「要警戒」と教わったシンボルが描かれていた。
『おうおかき、どないし……』
「もしもし、ウカさんですか? 緊急事態です、LABOからのメッセージが届きました!」




