作戦会議 ④
「う、むぅ……」
「なんだおかき、もう起きたのかよ。 まだ少し寝てていいぜ」
宴もたけなわとなった演算室。 いつのまにか眠ってしまったおかきは、鉛筆が紙を引っかく音で目を覚ます。
周りには同じく熟睡(内1名瀕死)しているウカたちの姿もあり、起きているのは悪花だけだった。
「いえ、もういい時間ですし……あふぅ……」
壁掛け時計が示す時刻は6時前を示していた。 予定では朝から甘音奪還作戦の会議を開く手筈になっている、寝直すのも中途半端な時間だ。
あくびをしながらおかきが立ち上がると、肩に掛けられた毛布がずり落ちる。
毛布をかぶって寝た記憶はない、おそらく悪花がかけてくれたものだ。
「すみません、お手数おかけしたみたいで……」
「気にすんなよ、風邪ひかれた方が面倒だ。 体力は温存しとけ」
「うーんうーん……ぼ、ボクは……?」
うなされながらうわ言を喋る忍愛を、悪花は足裏で踏みつける。
周りを見ると、ウカたちにも掛かっている毛布が忍愛にだけ掛けられていない。
この2人の不仲は相当根深いらしい。
「そこのセクハラ下忍は放っておけ、北極に置いてきても風邪引かねえよ」
「なにしたんですかねこの人は……」
「なんだ、そこまでは深く聞いてねえのか。 俺の話のついでに聞いてたと思ったが」
「聞いてません、SICKは秘密主義が多くて困ります。 マキさんという方も誰なのか教えてもらってません」
「マキ? ……ああ、マーキスか。 あの人ならたしかに隠したくなるな」
「SICK嫌いです……」
「おっ、なら魔女集会くるか?」
「いえ、今はまだSICKが居心地いいので」
「チッ、そりゃ残念」
他愛のない会話をしている間も、悪花の手は絶え間なくキーボードやマウスを操作し、同時に片手は絶え間なく紙面にペンを走らせていた。
しかし唐突にその変態技巧を止めると、悪花は背もたれに体重を掛けながら大きく伸びをする。
「っ……ふぅ~~~……終わったぞ、だいぶ時間がかかっちまった。 こいつがカジノの間取りだ」
「こ、これは……!」
悪花は作図が終わった紙をおかきへ手渡す。
それは数枚のA4用紙に鉛筆一本で細かく書き込まれた、およそフリーハンドとは思えないほどの……
「……線が汚くて何も分からない!」
「おいゴラァ、起きろキュー! テメェの仕事だろここから先はよォ!!」
「う、うーん……ふわぁふ……なんだいなんだいものすごい八つ当たりじゃないかい悪花ぁ……」
悪花が引いた間取り図は、びっくりするほど線が荒くて何もわからなかった。
本人もそれは薄々自覚していたのか、顔を赤くしてまだ寝ぼけ眼の宮古野を揺すり起こす。
「あははこいつぁひでえや、まーた全知のインプットに出力が追い付いてないな?」
「うっせぇ! 体裁整えるのは任せたぞ、オレは一度寝る!」
「はいはーい、お疲れちゃん。 それじゃ頑張って製図の時間だぁ」
「できるんですか? その、お世辞にも綺麗な図とは言い難いですけど……」
「できるさ、悪花とは付き合いも長いからね。 何が書きたかったのかはだいたいわかるし、彼女に合わせた自動書記AIも作ってある」
ふて寝した悪花に代わり、空いた席に宮古野が座る。
そして残像が見える速度でキーボードをたたくと、画面いっぱいに膨大な文字列が並び、冷却ファンを唸らせながら大きな演算処理が始まった。
「おかきちゃーん、そっちのプリンターから印刷したの取ってきて。 出来立てほやほやのあつあつだよー」
「えっ、もうできたんですか?」
「おいらは大天才だぜ、これくらい秒で終わるよ。 眠気覚ましにはいい仕事だったかなー」
宮古野の言葉通り、出力の時間を抜けば1分もかかっていない早業だった。
それでもプリンターから排出された見取り図はプロの技と見まごう出来だ、手に取ったおかきも思わずうなる、が……
「……キューさん、カジノの見取り図って本当にこれですべてですか?」
「ん? 詳しい成否は悪花が起きないとわからないけど、ミスはないはずだよ。 どこか気になるところあった?」
「いえ、なんとなく気になったもので……」
おかきは手に取った資料をめくりながら首をひねる。
1階と2階、そして隠し通路を下ってたどり着く地下室の3層構造。
なにやら武器庫や麻薬など非合法な名前の部屋も並んでいるが、そんな隠し事も含めて全知無能がすべての情報をすっぱ抜いたはずだ。
「ふむ……おかきちゃんの直感は軽視しない方が良いね。 それも含めて局長に報告しよう、朝会議の時間だ」
【暁 悪花】160cm/51kg/苦手なもの:シチュー
カフカ3号にして魔女集会の総長を務めるガラの悪い姐後肌。
モチーフとなったキャラクターは「魔法☆少女 マジマギカ」より主人公たちの先輩キャラを務めた暁 悪花。
原作ではあらゆる情報を閲覧できる「全知無能の魔法」を扱える最強格のキャラクターであり、たった3話では儚く散った人気キャラでもある。
彼女の立場を確立させているのも、カフカとして引き継がれた全知無能の能力あってこそだろう。
この能力ははじめに知りたいワードを検索することで、時間を掛けて対象の情報を識ることができる。
ただし「明日の天気を知るために24時間の遅延が発生する」ように、そのまま扱うにはかなり使いにくい異能である。
この情報のラグは、対象の情報について悪花本人が詳しく知るほどの短縮できる。
ただし作中で説明された通り、天気について詳しく知るほど、異能による補助がなくとも明日の天気はおのずとわかる。
故に全知無能。 なんでもわかるが、そのためには人並み以上の労力を掛けねばならないのだ。
ただし、使いようによっては未来すら予知できる恐ろしい能力でもある。
未来の情報をより鮮明に識るほど、その結果を変えることは難しくなる。
過去の実験では、「明日12時34分56秒、SICK基地の食堂前廊下にて職員Aが濡れた床に足を取られて転ぶ」という未来を変えるために、■■億の損失が発生した。
それ以降、悪花の能力による鮮明な予知は禁止され、あくまであいまいな予言という形でとどめるようにプロトコルが制定。
しかし、それでも悪花の能力を恐れた職員が暴走、独断で彼女の暗殺を企てた。
結果として暗殺は失敗、宮古野を含む医療スタッフの懸命な処置により、悪花は一命をとりとめた。
それでも悪花は組織への不信を捨てきれず、やがて「カフカ2号を見殺しにした」という情報を知り、SICKから離反。 独自に社会からこぼれた異能者を救済する魔女集会を立ち上げた。
SICKすら把握しきれていない異能者を抱える魔女集会は、危険組織としてマークされているが、利害が一致する場合は協力関係を組む場合も多い。
悪花のスタンスは二度と自分やカフカ2号のような犠牲者を出さないため、はぐれものたちを守ることだ。
先輩として、同じカフカであるおかきたちのことはとても気にかけており、あわよくば引き抜きたいとさえ考えている。 ただし山田テメーはダメだ。
原作での「暁 悪花」は非常に温和な性格であり、作中では主人公たちを母のような慈愛で愛でていた。
しかし、全知無能の魔法で魔法少女たちに隠された真相に気づいてしまった彼女は発狂、苦しむ前に自分の手ですべての魔法少女を終わらせようと暴走する。
最終的には主人公が召喚した使い魔により、首から上を失って絶命した。
死ぬ間際に彼女が主人公たちに残した予知は、酷い呪いとなって彼女たちを苦しめることとなる。
カフカとしての性格の剥離は、上記の暗殺事件によって引き起こされたものだ。
本人曰く、生死の境をさ迷ったときに暁 悪花の人格は「死んだ」らしい。
ゆえに今の彼女は、もともとの男性である人格が前面に出ている。




