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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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神ヶ狩り ①

 木の上から落ちてきた1体目のススリガミを袈裟斬り、降りかかる体液の飛沫をタメィゴゥが焼き払う。

 続けて足元から強襲する口吻を鉄板仕込みのシークレットブーツで踏み潰し、地中に隠れた2体目に陀断丸を突き刺す。

 3・4体目はお互いの四肢を絡ませ、網のように身体を伸縮させて跳びかかってきたところを、そこら辺に突っ立っていた山の神で受け止めてから安全に斬り捨てる。


 そんな紙一重の死線を繰り返して数え切れぬほどの神を切り伏せたころ、おかきは濁流のように押し寄せるススリガミの勢いが弱まってきたことに気づく。


「ハァ……ハァ……ど、どうしたんですかね……いったい……」


ご主人(ごすずん)の刀捌きに恐れて逃げ出したのではないか?」


『それか今のですべて斬り捨てたか? ええい、柔らかすぎて手ごたえがない!』


「どちらも可能性は低い。 もしあのお堂が心臓部なら何が何でも死に物狂いで来る」


「あっ、神様あまり近寄らないでください。 蛭まみれですよ」


「人の子、不遜……」


 肉盾にされたことでモロに蛭液を浴びた山の神が文句を漏らすが、もとより分神でしかない彼のことはおかきもあまり心配していない。 蛭をいくら浴びようが死にはしないことはこの通り実演済みだ。

 そしてそんなことより今おかきが最も気になるのは、山の神も口にした「お堂」の存在である。


「……この森の中で人工物を見つけたのは初めてですね」


『姫、罠かもしれませぬ。 お気を付けくだされ』


「ええ、もちろんです。 神様、あなたの意見は?」


「微妙、あの中から強い力を感じることはたしか」


 森の中にぽつんと立つ寂れたお堂は、すでに人の手から離れて長い年月が過ぎているのか、瓦も柱も朽ち果て辛うじて形を保っているような有様だった。

 どう見ても人が住んでいるわけがない惨状……しかし障子が破れた戸の隙間からは、ゆらゆらと揺らめくロウソクの灯りが漏れ出ていた。


『姫、まずは息を整えよ。 身体が強張っては何かあっても動けまい』


「そうですね……さすがに疲れました……」


 戦闘が一息ついたことで張りつめていた緊張も緩み、おかきの身体へ思い出した疲労が鉛のようにのしかかる。

 いくら陀断丸の補助があろうと動くのはあくまでおかきの身体、疲労や痛みは決してゼロではない。 

 にじむ汗を拭いながらおかきは思案する、あのお堂に対しどう打って出るべきか。


「……タメィゴゥ、まだ炎は出せますか?」


「うむ、少し喉がひりひりするがまだいけるぞ」


「あまり無茶はしないで……といっても出し惜しみできる相手ではありませんが」


 ススリガミが引いた理由がおかきにはわからない、あのまま物量で押される方がよほど厄介だった。

 効果てきめんとはいえタメィゴゥの炎も無尽蔵ではなく、おかきの体力同様限界がある代物。 もしススリガミの急所があのお堂だとすれば、余計に死力を尽くすはずだ。

 ならば、罠か? しかし陀断丸はたしかに相手も死に物狂いで抵抗していると進言していた、彼の勘違いと切り捨てることもできるが、おかきはどうも違和感が拭えない。

 ただこの場で踏みとどまっていても状況は好転せず、それどころか陽動と足止めに努めているウカたちが疲弊していく一方だ。 元より敵地の中で悩むほどの余裕などはない。


「……よし、覚悟は決まりました。 神様、先陣切って中の様子を見てきてください」


「人の子……不遜過ぎない?」


「私の命は残機性ではないんですよ、あなたは子機みたいなものだから例え何かあっても本体に影響はないでしょう?」


「しかし我が身に何かあれば人の子たちが帰れない……それに痛いものは痛い……」


「我慢してください」


「鬼、悪魔、人の子」


「ご主人、囮が必要なのはわかるが神の言葉も一理ある。 帰れないと困るぞ」


「ま、それもそうなんですがね……」


 おかきとしてはウカの召喚に成功した以上、同じ神格ならば彼女の方を頼りにしたいと考えていた。

 だが山の神が生き残ればそれに越したことはない。 かつて飯酒盃を依り代にしたことを許す気はないが、それでもリスクを取る理由にならないことはおかきもわかっている。


「仕方ないですね、私が先行しましょう。 ただ何かあれば助けて下さいね」


「渋々承知。 契約に基づいてできる限りは」


『姫よ、重々お気を付けくだされ。 先ほどからあまりにも静かすぎる』


「もちろんですとも、陀断丸さんも頼りにしてますからね」


 頼みの綱である刀を握りしめ、おかきはゆっくりとお堂へ接近する。

 辺りからは木々の擦れる音すらなく、ひたすら身に痛い無音だけがこの空間に満ちている。

 むしろススリガミの1匹2匹現れてくれた方が今のおかきにとっては助かったことだろう。 それほどまでに重苦しい無音は耐えがたいものだった。


 たかだか数mの距離が果てしなく遠い、一歩歩くごとにフルマラソンを走ったような疲労がのしかかる。

 うなじに走るチリチリとした悪寒がおかきに警告していた、“進むな”と。

 それでも後退したところでどん詰まりなのは先ほど思案した通り。 結局のところおかきは建付けの悪い障子戸までたどり着き、覚悟を決めて開け放った。


「…………これは――――」


 黴臭い臭いが鼻を突く中、おかきがお堂の中にあったものに目を凝らした――――瞬間、鋭い衝撃がおかきの腹部を貫き、その小さな体を弾き飛ばした。

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[一言] この鋭い衝撃……アリスだな?(迷推理
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