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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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仏さま ④

「進展が起きたのは昨夜のことだ。 早乙女 四葩の修復が終わってね、会話ができる状態になったことでインタビューが行われた」


「…………」


「複雑な表情だねぇ、だけど聞いてくれ。 彼女から聞き出した内容の一部に君の父親、早乙女 博文と最近遭遇したという証言が出た」


「それはいつ、どこでの話ですか?」


「まあ落ち着け、悪いけど今の君に教えると暴走しそうだから場所は伏せさせてもらうよ」


 おかきが詰め寄る。 両者の身長差は明らかだが、それでも宮古野はその迫力に気圧されて一歩引いてしまった。

 もし正確な位置情報を聞き出せばおかきは間違いなく遮二無二構わず駈け出すだろう、宮古野の判断は正しい。


「ただ証言時刻の監視カメラを確認すると、たしかに該当人物らしき映像は残っていた。 君にも確認してほしい」


「……失礼します」


 おかきは伏せたまま渡された写真をめくり、拡大修正された人物を確認する。

 背景から街中の一角を切り取ったものだろう、帽子を目深に被った男性と話す四葩の背中が写されている。

 夜間帯であることも相成り、肝心の顔ははっきりしないが、その男はおかきの目にも父親のように見えた。


「SICKの人体認証システムにかけたところ87%一致した、画質の問題で100%とはいかないけど顔を隠してこれなら相当だ。 おまけに四葩氏の証言もあるとなれば無視できない」


「私も断言できませんがこの写真だと父さんのように見えます……が、その場合1つ問題があります」


 おかき、もとい雄太にとって父親の顔を最後に見たのは10年も前の話だ。

 年を重ねればその分記憶も薄れるうえ、当人の容姿だって老いるというもの。

 だが写真の中の人物の背格好や年齢は、()()()()()()()()()()()()()見える。


「そこに気づくだけの冷静さは残っているか。 そうだね、おかきちゃんの懸念はあっていると思うよ、おいらも画像に写る早乙女 博文(推定)は10年前から年を取っていないように見える」


「まさか父さんもグラーキに……?」


「それなら四葩氏から言及があるはずだ。 それにこの後だけど、彼は金をせびられて拒否したところ逆ギレした四葩氏から平手打ちを食らったらしい」


「なにやってんですかあのひと


「その際に唇を切って出血したと四葩氏が証言している、つまり血流が生きている粗証拠だ」


 グラーキの針によって生命活動が停止した場合、心臓も止まるため出血は起こりえない。

 たとえ唇が切れたところで不自然な傷口があらわになるだけだ、同族なら四葩がその違和感を見逃すはずがない。


「……この映像では母さんとはどんな会話を?」


「偶然街で出会って他愛のない会話を……って、だけならよかったんだけどね。 どうも話はそれだけじゃない」


「と、言いますと?」


()()() ()()()()使()()()()()()()()()()()()()()


「――――どういう、ことですか?」


 声を荒げそうになった口を押え、おかきはこみ上げてくる感情を必死に押し込める。

 「そんなはずはない」と叫びたかった、優しかったあの父親がそんな悪事に手を染めるはずがないと。

 それでも沸騰しそうな腹の底を鎮めたのは、証拠を求める藍上 おかきとしての冷徹な部分が残っていたおかげだ。


「実はお金を貰えなかった四葩氏は腹いせに旦那さんの小銭入れをスったらしくてね」


「本当に何やってんですかあの人」


「結果から言うとお金は入ってなかったらしい、代わりに詰まっていたのは“これ”だよ」


 そうして宮古野が次に取り出した写真には、テーブルに置かれた小さなビニール袋が写されている。

 袋の中には黒色のテーブルとは対照的な白い粉、ここまでの話を照らし合わせれば正体は聞かなくてもわかる。


「解析の結果、中身は予想通り天使の妙薬に近しい成分が検出された。 四葩氏が捨てずにとっておいてくれて助かったぜぃ」


「金になると思って取っておいたんでしょうね、しかし近しいということはどこか違う点が?」


「そうだね、おいらたちがアクタたちのアジトで押収したものより純度が悪い。 おそらくだけど完成前の試作品かなにかだろう」


「……なぜそんなものを父さんが」


「わからない、だがここまで不自然な証拠が揃って無関係という話は無理がある。 それにアクタ本人からもダメ押しを貰った」


「アクタから?」


「ああ、彼女は博文氏本人と接触したことがある。 しかもその記憶を今の今まで忘却させられていた、局長が顔写真を見せて無理やり記憶の蓋を剥がしたんだよ」


「記憶を……いや、そんな方法自体は今は関係ない話ですね」


 SICKで働いている以上、おかきも秘密保持の手段として人の記憶を消す手段については色々と講義を受けている。

 深海に住む巨大生物の粘液から作った薬、ポジティブな記憶で上書きする、異常そのものを「何の変哲もない」と認識改変する、後頭部を強打する、ひとえに「記憶を忘却」させるといっても手段は様々だ。 手段を論じても意味はない。

 重要なのは、早乙女 博文という人物が人の記憶を改ざんするという常識外の手段を用いたという事だ。


「おかきちゃん、今すぐ飲みこめとは言わない。 だけどこれだけは覚えてくれ、最悪の場合SICKは君のお父さんを拘束するかもしれない」


「…………その、人物が……父さんの姿を騙っているかもしれません」


「ああ、その可能性もあるかもね。 だけどなぜ10年前に失踪した一般人の姿を使う必要があるかい? 理屈が通らなきゃそれは推理じゃなく願望だぜ」


「それは……」


 反論は、できない。 宮古野の指摘通り、おかきの言葉はすべてただの願いに過ぎない。

 早乙女 雄太としての人格が、父親が異常な世界に足を踏み入れている事実を認められなかった。


「おいらも一気に喋りすぎたな、君もちょっと落ち着いて頭を整理する時間が必要だろう。 今日は帰りな、しばらく任務も休んでいい」


「…………この件、姉貴には」


「まだ話していないよ、伝えるなら君の口で伝えた方がいいだろう」


「お気遣い、ありがとうございます……」


 頭の中はグチャグチャでも、時間は非情に進んでいく。

 どうしていいかわからなくてもこのまま秘密基地の中で立ち止まっているわけにはいかず、おかきは宮古野より先に教室を後にする。

 

 長年探していた父親が生きているかもしれない。

 SICKに所属した目的に大きい一歩を踏み出したというのに、帰路の足取りは重い。


「…………姉貴に、なんていえばいいんだろう……」


 話さない、という選択肢はもちろんある。 宮古野がおかきに情報を託したのはそういった意味もあるだろう。

 それでも姉に隠し事はしたくないおかきは、すべてを話す選択を取ってしまったのだ。

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