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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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風紀紳士 ①

「……そんなに厄介なんですか? 風紀委員って」


「厄介ちゅうか融通が利かん。 このクセしかない学園で風紀守ろうとしている連中や、わかるやろ?」


「十分わかりました、厄介そうですね」


 寮にて監視カメラの確認許可をもらうまでの間、おかきたちはロビーでお茶を飲みながら歓談に耽っていた。

 お茶請けとなる話題は「風紀委員」について。 しかし話題を深掘りするほどおかきの頭痛の種は肥大化していくのだった。


「しかしその割には見かけたことがありませんね、風紀委員。 そこまで活発な活動はしていないんですか?」


「“風紀委員が暇なことほど治安の良い証拠はない”、現風紀委員長の方針だよ。 何か事件が起きる前に予防するのがやつらのやり方だからね」


「それでも今回みたいな事件を完全に防げるわけじゃないわ、そんなときには重い腰を上げて動き出すのよ」


「この学園における警察みたいな組織と思うとけばええで。 まあこの前の時計塔殺人みたいなシャレならん事件は本物呼ぶけどな」


「でも軽犯罪なら自力で取り締まる権限と能力は持っているということですか、すごいですね。 その風紀委員長ってどんな人なんですか?」


「――――当方のことを呼んだかな?」


 突然、ロビーのソファに座っていたおかきに影が差す。

 後ろから感じる圧に振り返ってみると、2m近い巨躯がおかきの背後に立っていた。


 分厚く筋肉質な身体、真一文字に結んだ口元、フレームの太いメガネの奥でギラリと光る眼孔、撫でつけたオールバックの髪型のせいで良く目立つこめかみの十字傷。

 どれ1つとっても近寄りがたく堅い印象を相手に与える。

 埃一つない純白の制服は通常生徒と区別をつける風紀委員専用の特注品だが、あまりにも大人びた雰囲気のせいでまったくと言っていいほど似合っていない。


「やっほ、相変わらずヤクザみたいな面構えね。 紹介するわおかき、こいつは……」


「待て、貴女に紹介を肩代わりされる謂れはないぞ。 はじめまして、君の噂はかねがね聞いているよ藍上 おかき君」


「ど、どうも……」


 にこやかに握手を求められたおかきはおずおずと差し出された手を握り返す。

 カフカになる前の自分よりもはるかに大きい手は、その気になればおかきの華奢な腕を握りつぶせると思えるほど力強い。

 本人としては軽い挨拶のつもりだが、今のおかきにとっては体格差も相まってどうしても恐怖心が拭えなかった。


「ふむ……細いな、それに軽い。 天笠祓君、彼女は毎日三食食べられる環境にあるか、同級生から加害行為を受けている可能性はあるか?」


「私と同じ部屋っ子よ、そんな真似させるわけないでしょ。 それに私の前で栄養不足と不健康なんて許すと思う?」


「なるほど、今のは君を侮る発言だったな、謝罪しよう。 あらためて当方の名は明生院みょうじょういん 公平まさひさ、こう見えて風紀委員長を務めている」


「いつ見ても新人ちゃんとは逆の意味で学生らしくないよね」


「あとでおかきに蹴られるで」


「それで当方を呼んだ理由をお聞かせ願いたい、天笠祓君」


「ええ、例の下着泥棒についてそっちも調査進めてるんでしょ? 探偵部こちらも有力な手がかりを掴んだから協力してほしいのよ」


 そして甘音は旧校舎にて陀断丸から入手した情報を手に、公明正大な風紀委員長との交渉を始める。 “こちらの情報を提供する代わりに、監視カメラの確認許可を寄越せ”と。 

 内容としてはいたってシンプルだが、それでも立場上不利な甘音は自分から手札を見せることはない。

 なぜなら明生院 公平という男がこの程度の交渉に首を縦に振るわけがないと知っているのだから。


「……なるほど、そちらの要求は理解した。 しかし申し訳ないが当方としては了承しかねる」


「えーどうしてどうして! ボクらも一生懸命捜査したのにさー、見返りがゼロってひどくなーい!?」


「お前は何もしてへんやろ。 けど解せんのは同意や、事件を解決したい立場は同じはずやろ」


「学園規則の通りだ。 悪質な事件が発生した場合、映像記録の確認は教師と風紀委員から2名以上を選出し、作業を行う必要がある。 一般生徒の立ち合いは基本的に許可されていない」


「そこを何とかしてほしいって言ってるのよー! こちとら生徒たちから正式に依頼を受けているのよ!?」


「力添えできず申し訳ないが、規則は規則だ。 当方としても協力者に礼を返せずまことに心苦しいが、君たちから得た情報から何か進展があれば必ず報告することを約束しよう」


「…………」


 明生院の提案におかきは顎に手を当てて思案する。

 彼の対応はあくまで真摯に自分たちに向き合うもので、そこに悪意はない。 了承すれば監視カメラから得た情報は彼を通しておかきたちにも共有されるだろう。

 だが映像媒体から得られる情報を口伝くちづてで完全に共有することは不可能だ。 探偵としてはできれば自分の目で確認したい。


(……甘音さん、確認ですが明生院さんは“こちら側”についての知識は?)


(ああ見えてバリバリ”表”の人間よ、融通が利かないおかげでたまにこうしてウカたちの仕事とぶつかることがあるわ)


(なるほど、だから顔見知りで親しいわけですね。 ……しかしそうなると困りました)


 一夜にして行われた大規模な窃盗、すでにSICKとしてはきな臭い事件だ。

 もしおかきの悪い予感が的中しているのなら、表の人間である明生院たちを関わらせる事態はできるだけ避けるべきだ。


「……風紀委員長、ひとつよろしいですか?」


「なんだろうか、藍上君」


「不審者の姿を確認したのは私たちの部屋で、発見者は私です。 必ず被害者本人が立ち会う義務はないでしょうが、本人の希望があれば何が起きたか知る権利はあるのでは?」


「ふむ……」


「それに私たちが把握していない被害があったかもしれません、何が起きたのか正確に把握しておきたいです。 学園規則では()()()()認められてないとの話ですが、例外はあるのでしょう?」


「その通りだ、しかし……もしかしたら君たちにとって衝撃的な真実を知ることになるかもしれないがよろしいか?」


「私もおかきも覚悟の上よ、立ち会わせて」


 明生院が言いよどむのは、性犯罪にも値する今事件の被害者に対する心的負担を考えたものだ。

 実際には陀断丸のおかげでおかきたちは被害が無いことを知っているが、彼の対応もまた正しい。

 そして正しいからこそ、本人の意向を決して無碍にはできないのだ。


「……わかった、先生方の許可も必要だが君たちの意思を尊重しよう。 ただ立ち合いは藍上君と天笠祓君に限ることを了承してほしい」


「構いません、甘音さんもそれでいいですね?」


「ええ、ここが手の打ち所ね」


「すっげー、新人ちゃんあのカタブツ会長を言いくるめちゃったよ」


「山田、黙っとき。 それに言いくるめやなくて説得と言えや」


 かくしておかきたちは交渉の末、監視カメラへのアクセス権利を手に入れた……が、その努力はすべて徒労に終わる。


 なぜならここまで苦労して確認した監視映像には、問題の不審者は一切映っていなかったのだから。

 

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